第六章・ロックンロール・ショウ!
「第六章・ロックンロール・ショウ!」
いよいよ、待ちに待ったライブ当日。
”新入生歓迎ライブ”と、ダサく銘打たれてはいるが、
そんな事はどうでも良い。
この日のために練習を繰り返してきた。
キョウはレスポールを売り、
ヨージの手の平はマメだらけになり、
俺の左手の指先も、今まで以上にガチガチになっている。
俺たち”松竹梅”は、今日から始まる。
会場は、二つある体育館のうちの小さい方で、入場無料、
土曜日なので、学校の生徒だけではなく、
誰でも入場できるようになっている。
出演バンドは、二年が、フォーク系と、ロック系の合わせて二つ、
三年は、フォーク系が三つと、ポップス一つ、そして俺たちの、
全部で七つのバンドが演奏する。
持ち時間は、セッティングの時間も入れて三〇分。
授業が終わり次第集合して、部員全員でパイプ椅子を並べ、
十二時半より二年から始めた。
その後、フォーク系を行い、ポップスバンド、
最後に俺たちが演奏することになっていた。
今回のLIVEで、一番盛り上がる、ないしは一番お客を集めたバンドが、
夏休み明けに行われる”文化祭”で、
”一番良い時間を選ぶ事が出来る権利”を得ることになっている。
俄然張り切るわけだが、
ポップスバンドが群を抜いて人気があり、
後はみんなどっこいどっこいであった。
俺たちのバンドも例外ではなく、
こんなクソ田舎、洋楽聴いてる奴なんてほとんどいないし、
ポップスバンドは、最近流行りのボーイソプラノで愛を囁く、
女受けするバンドのコピーを中心にしているので、
毎回、悔しい思いをさせられてきていた。
今回も勝算は皆無に等しい・・・・。
予想通り、ポップスバンドが始まる三時頃より、
女生徒の数が増え始め、
小さな体育館は甘〜い香りに包まれている。
どうせ、こいつらの演奏が終われば、一人減り、二人減り、
俺たちの演奏が中盤に差し掛かった頃には、
半分くらいの人数になる事だろう・・・・。
「あ〜、緊張する〜!」
さっきからヨージは緊張しっぱなしだった。
初めてのステージ、初めての演奏、
憶えて間もないドラム・・・・。
緊張するなって言う方が野暮である。
「大丈夫、大丈夫、今にこのドキドキが辞められなくなるから。」
キョウがヨージの緊張を解すように言った。
実はさっきから、俺も緊張していた。
初めてのベース、初めての松竹梅、
俺たちの時間が近づいている・・・・。
ポップスバンドの最後の曲が終わった途端、
普段はすぐにアンコールの掛け声が聞こえてくるのだが、
客席が随分ざわついている・・・・。
「おい、なんか変だぞ・・・・。」
ステージの脇から顔を出し、客席を見回した。
信じられない光景だ。
”ミナミ”のヤンキー達が、ゾロゾロと入場しているではないか。
二十人、いや、三十人はいる。
「おい、なんか凄い事になってるぞ!」
「やっと、来たか・・・・。」
キョウが顔色一つ変えずに答えた。
「この、策士め!」
すべては、キョウの策略だったのだ。
たぶんヨージからノリユキへ指令を出し、
俺たちの演奏が始まる前に入場させ、
ポップスバンドのアンコールを遮る・・・・。
確かに、”キタ”のライブに”ミナミ”が見にくる事は、
羊の群れに狼が紛れ込むような物だ。
会場がざわめき、アンコールなどそっちのけになるのは想像できる。
しかも、何人ものヤンキーが入り口付近に溜まっているので、
帰りたくても帰れない。
「お前らの仕業かよ。汚ない真似しやがって・・・・。」
アンコールを待っていたポップスバンドの一人が悔しそうに言った。
「残念だなぁ。今年の文化祭は俺たちのもんだ・・・・。」
キョウは、こめかみ辺りを指で叩きながら吐き捨てる。
恐ろしい男だ・・・・。
キョウが味方で本当によかった。
「ざまあみろだ!」
過度な緊張から開き直ったヨージも追い討ちをかける。
「アンコール無いんで、次のバンド、お願いしま〜す。」
『俺も悪態吐いちゃおうかなー』と思った矢先、
進行係がいいタイミングで声を掛けた。
「よ〜し、フルボリュームでイクぜ!」
ステージに上がると、今までもらった事の無い声援を受けた。
ノリユキと、ノブはすでに興奮状態にあり、
訳がわからない事を叫んでいる。
「待たせたなー。”松竹梅”だァ!Show me please!」
”ズドン!”
ヨージのスネアの合図で、
俺たち、”松竹梅”はデビューした。
毎日毎日、繰り返し練習してきた曲だ。
そして初めて作ったオリジナルだ。
誰も聴いた事のない、誰も知らない”名曲”だ。
『コウイチよ、テツオよ、
お前らの選択が、間違いだったと気付く日がきたとしても、
もう手遅れだ。
俺は、お前らの何十年後が手に取るように解るぜ。
せっかくのチャンスを棒に振ったなぁ。
お前らのスタイルを俺に見せてみろよ。
お前らの明日を俺に見せてくれよ。 』
そんな事を考えながら唄った。
キョウの考えた進行通り、
MCは曲紹介のみで、四曲を突っ走った。
「あっという間の三〇分。もう最後の曲になっちゃいました。
これは、今日、遥々”キタ”まで来てくれた、”ミナミの皆”に送ります。
・・・・・ジョニー・B・グッド!」
田舎者とは言え、この曲くらいは耳にした事があるだろう。
しかも、ミナミにしてみたら、ロックンロールが、
目の前で演奏されるのを見るのはきっと初めての事だ。
初めは戸惑っていても、”キタ”の連中より正直な分、
素直に楽しんでくれている。
”ジョニーBグッド”は、山奥の田舎者の歌だ。
”読み書きもロクに出来ないけれど、
得意のギターでいつか世に出てやるぜ”って歌だ。
俺たちや、ミナミの奴等にぴったりの歌だ。
〜Go go go Johnny go go〜Go Johnny B Goode〜
〜行け!田舎者!行くんだ!田舎者!〜
と俺は叫び続けた。
客席はミナミの奴等に占領されたかのように、
立ち上がって手を叩く奴ら、
へたくそなツイストを踊る奴ら、
ステージの前に来て、一緒に叫んでる奴ら、等など・・・・、
大変な騒ぎだ。
ノリノリな態度と裏腹に、
俺の体は鳥肌が立っていた。
そしてそれが、なんとも言えない快感であった。
初めてアンコールをもらったが、もちろん用意してなかったので、
もう一度「Show me please」を演った。
大騒ぎは、知らない曲でも続いた。
俺たち、”松竹梅”のデビューは、
”軽音部”始まって以来の、
いや、多分”キタ”創立以来の”ロックンロール・ショー”になった。
全てを終え、俺たちはステージを降りた。
物凄く疲れ、汗だくだが、今までに味わった事の無い爽快感だった。
客席は、まだ興奮冷め遣らぬといった感じだったが、
ノリユキに礼を言うために出て行った。
「ノリユキ、ありがとな。おかげで大成功だよ。」
「いや〜、よかったよ。もう、ノリノリだぜぇ〜。
約束通り、客連れてきたんだから、メンバーにしてくれよな。」
「まだまだ、こんなくらいじゃメンバーにはなれないさ。今度は文化祭だ。」
ヨージは次を狙っていった。
「いや、ノリユキはもうメンバーだ。松竹梅の一員だ。
ホント、嬉しかったよ。ありがとな。」
「トシロー・・・・。」
ヨージが心配そうな目で俺を見た。
「でも、演奏が出来るわけじゃねーし、練習にも毎日来れねぇだろ。
だから、ノリユキは”客席担当の応援団長”だ。
だが、スタッフじゃねぇ。メンバーだ。それでいいか?」
「おう、応援団長か。カッコいいなぁ。やりてぇー。」
「よし、決定だ。」と言って、握手をした。
「ノリユキ、早速仕事だが、頼んで良いか?」
「おう、何でも言ってくれ、キョウ!」
「あそこに突っ立ってる、ポップスバンドの奴等に挨拶してこいよ。
”今日から松竹梅のメンバーになったノリユキだ、ヨロシク。”って。」
「おう、そうか、言ってくる。」
ノリユキはニコニコで、リーゼントを揺らしながら走っていった。
「おい、キョウ・・・・。お前、いつか刺されるぜ・・・・。」