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約束  作者: 猿丸
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第四章・キスの味

「第四章・キスの味」



練習は毎日続いた。

ヨージも時々おかずを入れられるようになったし、

ベースも、簡単にルートを拾いながらだけど、

弾きながら歌も歌えるようになって来た。


例の単純な循環コードに少し手を咥え、

メロディーができた。


後は詞だけだ。


作り話を書く事はとても出来そうに無い。

今感じてる事、思っている事。

それを書くしかないのだが、

ただズラズラと書き出してみても、

それを省略し、また、聴く側に解りやすくするにはどうしたらいいのか・・・・。


その事ばかりを考えるようになって、

頭の中がゴチャゴチャだった。


何かいい気分転換は無いものか・・・・。


春休みももうすぐ終わる。

新たな気分で再出発だ。”松竹梅”も、ヒロミのことも・・・。


よ〜し、髪でも切ろう。完全にイメージチェンジしよう。

そしたら、きっと何かが変わってくさ。


よ〜し、ブリティッシュ・パンク系で決めよう。

これまでの、伸ばしっぱなしの肩までかかる髪を、

耳半分くらいにし、てっぺんはバサバサにすいて貰い、ツンツン逆立てる。

ジーンズも、黒のスリムにして、

靴はコンバースのハイカット、もちろん色は黒だ。


とりあえず髪だ。後は徐々にそろえていけばいい。


そして、この街で唯一のまともな美容院へ行き、髪を切った。

音楽雑誌”プレイヤー”を持って行き、

東京帰りのお姉さんと相談し、切って貰った。


さすがは東京帰りだ。

思った以上に決まっている。

お姉さんは「こんな頭にして、学校、大丈夫?」と心配してくれたが、

こんな田舎町の教師、リーゼント、オールバック、はもちろん、

ちょっとしたデザインパーマまで、ヤンキー系には過剰反応を示すが、

パンクなんて知る由も無い。


案の定、学校で何人かの教師に出会ったが、

「どうした?その頭??」と不思議がられるくらいで、

「自分で切ったら失敗して、寝癖が治らないんです・・・・。」と答えたら、

笑われて終わりだった。


『フン!田舎者め!!』


”失恋して髪を切る。””髪を切るのは心の区切り。”とかよく言うが、本当だ。

これはよく効いた。

気分一新と言おうか、頭の中が随分すっきりした。

俺は生まれ変わったのだ。


そしてその夜、俺は一気にオリジナルの詞を書いた。

これは、テツオとコウイチに向けた決別の歌だ。



「Show me please」 


解ってないよ 何もかも嘘さ 踊らされるだけの Dancing Doll

見えてないよ 風のかけらさえ 君にはただの Scrap


昨日までの話し方と仕草が違ってる

何から何まで知ってるつもりなの Mistake


Show me please Show me please Show me your Style.

 

いつものように波に身を任せ その場限りの夢を愛し

消えていく人ゴミの中に 自分を見つけ出してる


「いつだって手に入れたい夢追いかけてる」

何から何まで知ってるつもりなの Mistake


Show me please Show me please Show me your Style.

 

Night&Day〜  

ホラ!君にバラードは唄えない Show me your Style.






「トシロー、カッコいいじゃん!良く書いたなー。」

「天才だぁ〜!天才〜!!」


キョウとヨージにメチャクチャ誉められた。

発表する時、チョット恥ずかしかったけど、

余りにも誉めるんで、『俺って天才かなー。』とも思った。

とても気分の良い練習であった。




俺たちの高校は丘の上にあり、

帰り道はいつも駅まで坂を下るのだが、

その途中に自販機があり、いつもそこでジュースを買っては、

飲みながら駅まで行くのが日課だった。

俺たちは隣町から電車で通っていた。


校門を出て、坂を下っていくと、自販機の前にヒロミがいた。

多分、部活の帰りだろう。

こっちを向いて、後ろに手を組み、首を傾けてニコニコしている。


『クラスメート、クラスメート、自然に、自然に・・・・。』

そう言い聞かせながらヒロミの前まで来た。


「髪切ったんだ。」

「うん。」

「イメージチェンジ?それとも、何か有ったとか・・・・。」

「うん・・・・いや、別に・・・・。」


自然どころではなかった。

妙に意識しすぎて、顔すらまともに見れやしねぇ。


「さーて、今日は何にしようかなぁー。」

ヨージとキョウが自販機の前でジュースを買おうとしている。

俺は、コンバースが欲しいので節約だ。

喉は唄いっぱなしでカラカラだけど、コンバースのためだ。

「おい、キョウ、ファンタ・オレンジにしろよ。」

「俺、炭酸飲まないようにしてんだ。」


甘ったるそーなコーヒーを買った。


「おい、ヨージ、ファンタ・オレンジ美味いぞ!」

「今日はコーラな気分だな。」

「コーラは歯が溶けるって言うぞ!ファンタにしろ。ファンタ!」

「ファンタでもいいけど、トシローにはやんねーぞ。

 間接キスしたくねーもん。」

「口付けないで飲むから・・・・ファンタにしよーよ。」

「やっぱ、コーラだ。」


男の友情なんてこんなもんだ。


すると、おもむろにヒロミが財布を取り出して、

ファンタ・オレンジのボタンを押した。

『俺に買ってくれたのかな?』と思ったが、

蓋を開けて飲み始めた。


「あ〜、おいしー!!」

「うめぇー!」

「トシロー、可愛そうに。コンバース買うんだもんな。

 我慢、我慢・・・・。」


三人で見せびらかしながら美味そうに飲んでいる。


『あー、ジュース買っちゃおうかなぁ。明日から節約しようかなぁ・・・・。』

そう思った矢先、ヒロミがファンタ・オレンジを俺に差し出した。


「一口飲んでいいよ。」


『か・か・か・間接キスしちゃうじゃねーかよ。』


躊躇したが、ここでグズグズしてるのはカッコ悪い。

何食わぬ顔して一口飲んだ。

何食わぬ顔してヒロミに缶を返した。

何食わぬ顔してヒロミはまたそれを飲む。


『こ・こ・こ・こいつ、何考えてんだ?』


「ねぇ、まだ半分くらい有るけど、あげる。」

「えっ?」

「んじゃ、練習頑張って・・・・髪、似合ってるよ。」

そう言うとヒロミは背中を向け歩き始めたが、

何かを思い出したように立ち止まり、

振り返って言った。


「・・・・気にしなくて平気だから。」

「えっ?」


そう言ったまま、ヒロミは走り去っていった。



「気にしなくて平気だってよ。」

キョウが背中を叩いた。

「何の事だと思う??」

「そりゃぁ、あの事でしょ。ヒロミも気にしてたんじゃないの。」

「キョウ・・・・本当にそう思うか?」

「思う!あの一言を言うために、ここでトシローが来るの待ってたんだぜ!」

「ホ・ホ・ホ・ホントか?」

「そうじゃなきゃ、間接キスしないっしょ!」

「そ・そ・そ・そうかなー。」


「いや、ヒロミは誰とでも間接キスするかもよ〜。」

ヨージがからかうように言った。

「・・・・・。」

「ジョーダンだよ、らしくねーなぁ。

 気にしなくて平気だって言われたろ。髪も似合ってるし。」

「・・・・余計気にするよ・・・・。」

「いいなぁ、トシロー、ファーストキスじゃんか。」

「おい、こういうのもファーストキスって言うのか?」

「さあね。どうだろうね。自分で考えたら。」

「なぁ、からかわないで教えてくれよ〜。」

「しっかし、ヒロミのことになると別人だな、トシローは。」

 

頭の中が炭酸で泡だらけになったような気がした。

今ならラブソングが書けそうだった。


そして何より、

ファーストキスは、いや、

ファースト間接キスは・・・・


”ファンタ・オレンジ”の味がした・・・・。






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