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約束  作者: 猿丸
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第三章・普通の高校生

「第三章・普通の高校生」




田舎の春休みは長い。


もうすでに一週間、俺は家に閉じこもりウジウジしていた。

キョウも、ヨージも顔すら出さなかった。

退屈な毎日は、一層俺をイジケさせた。


もう何も残っちゃいない。

俺はもうおしまいだ。これからはのんびり暮らそう。

テキトーに学校行って、テキトーに家に帰って、

テキトーに田舎に就職して、テキトーに彼女作って、

テキトーに結婚しよう。テキトーに子供作って、

テキトーに家建てて、テキトーに人生全うしよう。


その方がいい。イライラしなくて済む。

その方がいいに決まってる。悲しくならないで済む。


変にいろんな事、期待した俺がバカだった。


チョットいきがって、ステージに上がって、

シャウトしたら気持ちが良かったんで、

その気になっちゃってたんだ。


もう辞めよ・・・・バカみたいだ・・・・。


ヒロミにしたって、本当はアキラが好きだったんだ。

なのに、チョット俺にやさしかったからって、

別に俺のこと、なんとも思ってやしなかったんだ。

それなのに勘違いして、ヘラヘラして、デレデレして。


大体そんな上手い話あるわけ無いよな。

俺なんかを好きになってくれる女なんかいるわけ無いよな・・・・。


ヒロミとも、親しくするの辞めよ。

クラスメートの一人なんだ・・・・・ただの・・・・。


あ〜あ、俺ってバカだなぁ・・・・。


こんな事をずっと、一週間も考えてた。

ちょうど一週間目の夜、キョウから電話が来た。

明日の10時に教室へ来いとのことだった。


キョウが何か企んでるとしても、もう止めよ。

テツオみたいに真面目になるって言うんだ。

明日、教室で引退宣言しよ。「普通の高校生に戻ります!」って言おう・・・・。



次の日、学校へ付き、階段を上がると、

ドラムの音が聞こえてきた。


単純なエイトビートだが、ずいぶんハッキリしたビートを刻んでいる。

時々つまづくけど、なんともサッパリとした、軽快なリズムだ。

コウイチでも、一年のドラムのリズムでもない。

奴らのリズムは、ハード系な、重く、力強いリズムだ。


今聴こえて来るリズムは、流れるように、とても軽い。


『一体誰が叩いているんだろう?』


『でもまぁ、もう俺には関係ないもんね。

 キョウが新しく見つけてきた奴だとしても、どうせ気が合うわけねぇ。

 またすぐに辞めるって言うに決まってるさ。その前に俺は辞めるんだ。』


ベースがドラムに被さってきた。

単純な循環コードだ。ルートだけを弾いている。

いい感じだった。

とても単純だけど、単純がゆえに解りやすくノリやすい。


『ノリだけは認めてやるか・・・・。』


そう思いながら教室のドアを開けた。


「おう!トシロー!」


「えっ?今、ドラム叩いてたの、お前か?」

「ヘヘヘ・・・・。」


信じられない光景だった。


教室の中にはベースを下げたキョウと、

そして、ドラムの前に座っていたのは、

なんと、”ヨージ”だったのだ。


「ビックリしたろー。実は前から考えてたんだ。

 ヨージはいつも練習見にきてたし、コウイチのリズムが狂うのを

 トシローより早く気がついて嫌な顔してたの、俺知ってたんだ。

 何より俺たちが好きな音楽も全部聴いてるし。

 それにリズム感、メチャクチャいいぞ!一週間でこれだ!

 トシロー、聴こえてただろ!?」


「トシロー、俺も仲間に入れてくれよ。一生懸命叩くからさぁ。」


嬉しくて涙が出そうだった・・・・。


「バカヤロ!何で最初から言わないんだよ!

 俺は一週間、ず〜っとウジウジしてたんだからな!

 何でそんな楽しい事、内緒にしてやがって、早く教えろ!!」


「いや、トシローのあの精神状態でこんな話しても、

 ”できるわけねぇ”の一点張りさ。

 だから一週間、俺たち二人で練習してたんだ。」


キョウとヨージは二人っきりでずっと練習してたのか。

地味な練習を一週間ずっと・・・・。

確かに何も叩けないヨージを見たら、俺はきっと投げ出したに違いない。


・・・・持つべき物は友達だ。


「ん?でも、ベースどうすんの?ベース?

 キョウが弾いて、俺がギター?歌は?インストはヤダぜ。

 俺、唄歌いたいし・・・・。」


「いや、色々考えたんだけど、トシロー、ベース弾きながら歌え。

 今みたいに、ルート弾きながらだったら歌えるだろ?」

「ベース、俺?でも、音薄くなりすぎない?」

「いや、薄いからいい感じでノリやすい。

 それに、今までのレパートリー、全部捨てる。

 これからは簡単な解りやすいヤツと、オリジナルでいこう。」

「ベースにボーカル・・・・ポリス!スティングかぁ〜!

 カッコいい!!それでいこうそれで!・・・・でも、三人じゃ薄すぎない?」

「そういうと思ってさ、ホレ。」

「ディレイじゃんか〜どうしたのこれ?」

「レスポール売って、バイト代と小遣い合わせて買った。

 あと、これコーラス。これは作った。」


「・・・・レスポール売ったのか。」

「あぁ、前からその気だったんだ。もっと軽快なのやりたくてさ。

 それにレスポールは重いし・・・・。」


キョウは俺以上にバンドの事を考えているのかもしれない。


「よ〜し、ベース練習しちゃうぜ!三日でテツオ超えてやるからな。

 ところでこのベース、テツオんだろ?借りてていいのか?」

「あぁ、永久的に貸してくれるらしいぞ!アンプも。

 どうも、家に無い方がいいみたい。」

「親父怖いもんねぇ・・・・。」


「ヨージ、ついて来れるかぁ〜!?俺はキビシーよ〜。」

「バンドの救世主に向かって何だその口の聞き方は・・・・。」

「すいません、ヨージさん、よろしくおねがいします・・・・。」


久しぶりに、本当に久しぶりに大笑いした。

一週間の憂鬱が、わずか数分で消し飛んだ。


「早く練習だー!練習〜!!ドゥードゥードゥー・で・ダーダーダー♪」

「おっとその前に、ミーティング。」

「なんだよ、ノッてんのによ〜。」


「これからはキッチリいきたい。ただテキトーにコピーして演るんじゃなく、

 キッチリ計算して進めていきたいんだ。こんな田舎でのライブだけじゃなく、

 将来的には東京のライブハウス、その先はレコードデビューまで考えて。」

「・・・・・レコードデビューって、おまえ・・・。」

「いや、それくらい真剣にって事。

 もう嫌なんだ、やる気の無い奴、煽てたり、言いたい事我慢したりするのは。」

「うん、うん。」

「この三人なら何でも言えるし、何でも出来そうな気がするんだ。

 だからこの際、思いっきりやってみたい事、やっていきたいんだ。」


ヨージと顔を見合わせた。

あのクールなキョウにこんな情熱が隠れていたとは・・・・。


「うん、いいよ。んで、どーすればいい?」

「まず、ヨージは練習あるのみだな。いちいちテープ渡すから、

 それ叩けるようにする事。」

「俺は?」

「トシローはベース弾きながら歌う練習と・・・・オリジナルだ。」

「あー?オリジナル、俺が書くの??」

「ボーカルが書かない唄、説得力ないだろって、

 曲は俺も手伝うけど、詞書けないもん、俺・・・・。」

「俺だって書けねーよ!」

「いや、トシローなら書ける。言葉のボキャブラリーは豊富だし、

 中学の時、俳句で賞取った事もあるし・・・・。」

「そういや、小学校の時も誌で賞取ったよな、トシロー。」


幼なじみは怖い・・・・。

つまらねぇー事憶えてやがる・・・・。


「わかったよ・・・・。

 やってみるけど、その代わり条件がある。

 バンドの名前は俺につけさせろ。」

「え〜、また変な名前にするんじゃ・・・・。」

「いいよ、名前なんて任せる。」

「ヨージは?」

「仕方ないなぁ・・・・。」

「よ〜し、バンドの名前は・・・・。」


「”松竹梅”だ!!」


「フンッ」と二人とも胡散臭そうな顔をした。


「よりによってなんで松竹梅!?しかも漢字!?」

ヨージが嫌そうに言った。


「カッコいいだろ!カッコ悪いところが物凄くカッコいい!

 俺が松田優作で、キョウが竹田鉄也で、お前は梅毒だ!!」

「訳わかんねぇー事言ってんなよ。カッコ悪すぎ。なぁ、キョウ。」

「いや、最初聞いた瞬間は、最悪だと思ったが、カッコいい。

 カッコ悪いところがカッコいい。」

「おいおい、いいかぁ、カッコ悪いのはカッコ悪いの!

 なんかズレてるぞ!二人とも。」

「決定だ!松竹梅!!」

「なぁ、なぁ、”サージェントペパーズ・ロンリーハーツ・クラブ・バンド”

 みたいな名前にしよーよ。」

「いや、いい!カッコいい、松竹梅!トシロー、決定だ!!」

「よっしゃー!練習だぁー!」


「お前ら二人のセンスにはついていけない・・・・やめようかな・・・・。」


「ヨージ、もう手遅れだぜ・・・・。

 お前はもう、このバンド地獄に片足を突っ込んでしまった。

 これからどんどん地獄に嵌って行くだろーぜ。

 ステージに上がり、脚光を浴び、

 もっと、もっとこの視線を浴びたいと思うようになり、

 そして、ドラムを叩かなけりゃいられない体になり、

 社会から逸脱し、麻薬に手を出し・・・・・ギャー!!

 フ・フ・フ・フ・よ〜こそ〜バンド地獄へ〜。」


「さぁ、馬鹿なこと言ってないで練習しよう。

 エイトビートで、コードは、C・Am・F・Gの循環コードで。」


とても簡単な練習だけど、とても気持ちよかった。

浮かんでくるメロディーを口ずさんだりもした。


フッっとヒロミのことが頭をよぎる。

それを振り切ろうと余計熱を上げる。

そんな繰り返しだった。


”普通の高校生”に戻らなくて良かった。


俺には、これしかないのだ・・・・。

 






 




 


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