第二十二章・ラストダンスは私に
「第二十二章・ラストダンスは私に」
「おい、クミコ!」
俺は思わずそう叫んでいた。
クミコはビックリした様子もなく、俺の目をジッと見つめた。
「ちょっとだけ、俺に付き合ってくれ。」
「なんだよ。」
「いいから、ついてこいよ。」
俺はクミコの手を握り、グラウンド目指して歩き出した。
離れる時、キョウの顔を見て、親指を突き立てガッツポーズをした。
キョウは外人がする様に両手を広げ、首を窄める仕草をして見せた。
俺はそれに、首を傾けて答えた。
『体が勝手に動いちまった。』
「お・おい、トシロー、何処行くんだよ。」
「俺と踊ってくれ、クミコ。」
「バ・バカ、そんなことできるわけねぇだろ。」
「俺のこと、嫌いか?」
「そうじゃなくて、私はここの生徒じゃないし・・・・。」
「関係ねぇさ、そんな事。俺はお前と踊りたいんだ。
周りなんか気にすんな!誰も止めやしないさ。」
俺はグイグイと躊躇するクミコを、グラウンドの真中に引っ張っていった。
グラウンドに集まっている、ほぼ全校生徒達は、ザワザワとしている。
そりゃぁそうだ。
俺は誰の許しも得ず、勝手に他の学校の生徒を連れて踊ろうとしているんだから。
俺の背中にキョウが声を掛けた。
「トシロー!カッコつけすぎなんだよー!」
俺はその声に振り返らず、手を上げて答えた。
そして、クミコと向き合うと、クミコの両手を握った。
クミコは、潤んだ目で俺を見て言った。
「私でいいのか?」
「お前がいい・・・・。」
「・・・・バカ。」
不思議と落ち着いていた。
そして、クミコ以外、何も見えなくなっていた。
周りで踊ってる奴らも、それを見ている奴らも、
そして、ヒロミさえも・・・・。
「少しづつ、体を動かして憶えろよ。
これが田舎の最高のダンスだ!都会ではダサいって言われるけどな。」
「うん・・・・。」
クミコは”クスッ”っと笑った。
俺は、このままクミコとサヨナラするなんて出来ない。
そんなの、悲しすぎるじゃないか。
親の都合でこんな田舎に来て、慣れて来たかと思ったら、
また親の都合で東京に帰る。しかも高校中退だ。
クミコは、さっき帰ろうとする時、俺の目を見てこう言いたかったんだ。
『サヨナラ・・・・。』って。
ふざけんなだ。
サヨナラも言わないで行っちまうなんて事させるか。
この気持ちは、愛とか、恋とかじゃないかもしれない。
でも、俺にはクミコを悲しませる事は出来ない。
たとえそれで、何かを失ったとしても、俺はそれでかまわない。
それだけの事をクミコは俺にしてくれたんだ。
大事なものをクミコに貰ったんだから・・・・。
なぜか泣きそうになった。
それを振り払おうと、俺は大げさに、クミコをくるくる回したり、
自分もくるくる回ったりして、ふざけて踊った。
周りの奴らも、誰も止めようとはしなかった。
俺は、完全に二人だけの時間・・・・世界にいるような気分だった。
「なぁ、トシロー、卒業したら東京へ行くんだろ?」
「ああ。」
「バンド続けるのか?」
「そのために行くんだ。」
「今日のライブ、凄く良かったぞ。」
「あれ?さっきは”まあまあ”って言ってなかったっけ?」
「あれはウソ。本当は鳥肌立ったんだ、トシロー見て。」
「気持ち悪くてとか言うんだろ。」
「バレたか・・・・。」
「超能力者だからさ。」
「なぁ、トシロー、絶対ミュージシャンになれよな。」
「なんで?」
「そしたらみんなに自慢するんだ。トシローの初体験の相手は私だぞって。」
「ハハハ。」
「もし、ミュージシャンになったら、欲しいもの、何でも買ってやるよ。」
「ホントか?」
「ああ。」
「じゃぁ、なれなくて、貧乏のままだったら、私が働いて食わしてやるよ。」
「おっ!それいいなぁ。憧れのヒモ生活か・・・・。
よ〜し、クミコ、約束だぞ!絶対の絶対だ。」
「うん。約束。」
「なぁ、クミコ。このまま時間が止まればいいな。」
「止めてくれよ、超能力あるんだろ。」
「俺の超能力は、お前にしか効かないんだ・・・・。」
「・・・・バカ。」
そして俺たちは、黙って踊り続けた。
俺の頭の中で、
さっきアンコールで歌った唄が、
鳴り響いていた。
「ラストダンスは私に」
あなたの好きな人と
踊っていらしていいわ
優しい微笑みも
そのお方に おあげなさい
けれども 私がここにいることだけ
どうぞ忘れないで
ダンスは お酒みたいに
心を酔わせるわ
だけどお願いね
ハートだけは盗られないで
そして私のため 残しておいてね
最後の踊りだけは・・・・
あなたに夢中なの いつか二人で
誰も来ないとこへ旅に出るのよ
どうぞ 踊ってらっしゃい
私 ここで待っているわ
だけど送って欲しいと
頼まれたら 断ってね
いつでも 私がここにいることだけ
どうぞ忘れないで・・・・
きっと私のため 残しておいてね
最後の踊りだけは・・・・
胸に抱かれて踊るラスト・ダンス
どうぞ忘れないで・・・・