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約束  作者: 猿丸
20/23

第二十章・英雄と悪漢

「第二十章・英雄と悪漢」



汗だくになりながら、ステージの脇に下りた。


「まったく、ハラハラさせんなよ。何言い出すかと思ったぜ。」

「本当だよ。勝手に解散しちゃうかと思ったぜ。」

「へへっ!カッコよかったろ〜!解散しません宣言。」

「いや、あれやられちゃあ、ポップスバンド、かわいそうすぎだぞ。」

「なんで?」

「いくら嫌がらせ受けたからって、あの仕返しはなぁ・・・・。」

「だからなんで?」

「えっ、あのセリフ、狙って言ったんじゃないの?」

「ううん。全然!なんで?」

「マジかよー!だって、あいつら、これから解散宣言しようと思ってるのに、

 あんな言い方されたら、言い憎いだろ。」

「そうそう、”解散しまーす!ばっか。”って、あんなにバカにされた後で、

 しかもそれがウケちゃった後で、”解散しまーす!”なんて、

 俺は、とても言えねぇな。」

「そうか・・・・。全然気がつかなかった・・・・。

 でもまぁ、あんだけ嫌がらせしたんだから、

 バチが当ったんだと思う事にしよう。」

「ハハッ、そうしよう。」

「いやいや、まだそう言うわけにはいかなそうだぜ・・・・。」


そう言って、キョウは目で合図した。

ポップスバンドがこっちへ向かってきた。


「残念だけど、アンコールは出来そうに無いね。

 もう、タイムアウトだ。」


ポップスバンドでギターを弾いてる何とか(名前知らない)が、

嫌味を込めて言った。

他のメンバーも、ニヤニヤしてこっちを見ている。


「アンコール?」


アンコールは出来ないだろうと覚悟していたため、気にしてなかったが、

場内は、”アンコール”の大合唱だ。


「ハハッ、スゲェ。やったぜ!」

「なるほど〜、そう言うことだったのか。」

「うんうん。中々考えたじゃねーか。」


奴らの嫌がらせは、

すべて”アンコールを出来なくするための作戦”だったと言う事に、

今、気がついた。


「なんだよ、俺たちが何かしたとでも言うのか?」

「いやいや、そんな事、何も言ってねぇよ。」

「可愛そうだけど、せっかくのアンコール遮らせてもらうよ。

 只でさえ、時間オーバーしてるんだから。」


そう言って、ポップスバンドはステージに上がっていった。


「まぁ、仕方ねぇか。」

「でも、こんなアンコール、勿体ねぇなぁ・・・・。」

「しかし、奴らバカだぜ。」

「なんで?結構いい作戦だったじゃんか。」

「作戦は成功だけど、これだけのアンコールの中、

 時間ですから僕達がやりますって始めても、盛り上がるわけないだろ。

 立場が逆だったら、俺はアンコール譲るね。」

「いや、俺だったら演っちゃうね。”残念だったなー”って叫ぶね。」

「トシローならやりそう・・・・。でも、奴らポップスバンドだぜ。

 散々悪態ついて、いきなりラブソング歌えねぇーだろ。」

「そりゃそうだ。」


もう俺たちは、アンコールなんてどうでも良かった。

気分爽快だ。


「おい、何か変だぞ。」

「何が?」


ポップスバンドが出て行っても、場内は一向に静かにならないのである。

それどころか、床を踏み鳴らし、どんどん大騒ぎになっていくではないか。

しかも、コールが”松竹梅”に変わっている。


そう、場内は”松竹梅コール”一色だ。


「おい、マジ!」

「おい、こんな事、二度とねぇかもしれないから、浸っとこうぜ!!」

「うんうん。」


俺たち三人は目を瞑り、コールに耳を傾けた。


「おい、お前達!」

そう言って担任の佐川が入ってきた。

「浸ってる場合か!早くステージ上がって、アンコールやって来い!」

「えっ、でも、もう奴らの時間だし。」


ボカッ!

佐川はそう言ったヨージの頭を叩いた。


「イテェ、何すんだよ。」

「何言ってるんだ。あいつらがこのまま出来ないのは解ってるだろ?

 意地悪しないで演って来い!このままだと生徒が暴れだすから、

 早く演れ!校長先生からの伝言だ!!」

「ちょっと待った。大体、あいつら、降りてこないじゃないですか。

 演るのは、あいつらが降りてきてからです。

 あいつら、アンコール潰す気で上がってったんだから・・・・。」


松竹梅コールが収まるのを、

オドオドしながらただ待つだけのポップスバンドに向かって、

佐川は、階段を上り、何か話している。

そして、そんなキッカケを待っていたかのように、

奴らは引き上げてきた。


とても悔しそうに俺たちを睨んでいる。


「残念だったねぇー、俺たちの勝ちだ。」

「言っとくけど、俺たちは、なーんも汚ねぇことしてないからな!」

「恨むんだったら、自分達を恨みな!」


こういう悪態をつくときには、絶妙なコンビネーションなのは、

やっぱ付き合いが長いからなのだろうか・・・・。


「クソッ!」と言って、ポップスバンドの中で唯一気が強い、

ギターの奴が、俺の胸倉を掴んだ。


こういう奴らには吐き気がする。


面と向かっては何も出来ないくせに、

”姑息な嫌がらせ”を散々仕掛けてきたわりには、

結局自分のケツも拭けない。

そして八つ当たりだ。


胸倉を掴んできても、戦意が無いのは見え見えだった。

担任の前で俺が反撃するはずがないと高をくくっての行為だ。

最低だ。


『クソッ、お気に入りの”ジャニスのTシャツ”が伸びるじゃねぇか!』


俺は思わず、奴の頭を両手で掴み、鼻っ面に軽く頭突きをした。


「やる気だったらいつでもやってやるぜ。アンコールが終わるまで待ってな。」


ポタポタと鼻血が滴り落ち、奴の白い綿のシャツは赤い花を咲かせた。

奴らは血を見て、完全に戦意喪失だ。

そんなんなら、最初からつっかっかてくるな。


「おい!トシロー!!」

佐川が血相を変えた。

「軽く鼻擦ったんで血が出ただけですよ。

 最初に暴力振るって来たのは奴ですから。先生も見てたでしょ。」


そう言い捨てて、ステージに上がった。


”ウォー”

場内は興奮の坩堝だ。


『あーあ、でもなんで男の声ばっかりなんだろ。

 ”キャー”って歓声聞きたかったな。』


そんな事を考えながら、マイクに向かった。


「お待たせー!アンコールありがとう。

 校長先生、じきじきに許しが出たんで、アンコール、出来る事になったぜ。」


キョウも、ヨージもスタンバイO,K!


さぁ、始めようかといった矢先、いくつかの影がステージに近づいてきた。

逆光の為、誰なのか確認できないでいた。


一番最初にステージの前に到着した影は、お姉さんだった。

手に、大きな花束を持っている。

そしてそれをキョウに渡した。


「ヒュー、ヒュー!」

場内に冷やかしの声がこだまする。


さすが東京帰り、やることが派手だ。

そして場内の注目を一気に集めてしまっている。


続いてカオリが、目の前の俺を完全に無視し、

ヨージに小さな花束を差し出した。


『さぁ、俺の番だぞ!』と思い、少し間を開けた。

客席の誰もがそう思ったに違いない・・・・が、誰も現れなかった。


俺はおどけてキョウとヨージを羨ましそうに見、

大きなため息を吐く仕草をした。


「トシロー!トシロー!」


可愛そうな俺に向かって、客席は”トシローコール”だ。

なんか、とっても惨めな気分だ。


と・ところが、カオリに押されて、照れくさそうにヒロミが目の前に現れた。

そして俺は、ヒロミが差し出した一本のバラと、ファンタオレンジを受け取った。


「ゴメン・・・・。私、何も気がつかなくて、この花、カオリに貰ったんだ。

 だから、これだけじゃ可愛そうかと思って、ファンタ買いに行ってたら、

 遅くなっちゃった。」


「聴きに来てくれてたんだ・・・・ありがと!」


「ねぇ、凄くカッコよかったよ。じゃぁ、最後の曲も頑張ってね。」


ヒロミはそう言うと、首を傾げてニコッと笑って、暗闇の中へ消えていった。


冷やかしの声に、我に帰ると、急に恥ずかしくなった。

俺はみんなの前で、ヒロミにドキドキする仕草を見られてしまったのだ。

冷静になるにも、ヒロミの笑顔がチラついて、ニヤニヤしてしまう。

思わず、貰ったファンタを開け、グビグビと飲んだ。


「さぁ、いよいよ文化祭も終わりだ。

 後はお待ちかねの告白タイムがまってます。みんな、誰と踊るのかな?

 じゃぁ、それにピッタリの曲です。

 校長先生も知っている、有名なラブソングを!

 ”ラストダンスは私に”!」



誰もが楽しみにしている告白タイムのダンス。

本当にピッタリな曲だと思った。


そして俺も、今年は勇気を出して誘おう。

今確信が持てた。

そうさ、ヒロミはいつも傍にいた。

入学式で、初めて逢った時も、学校の色々な行事も、なんでもない時も・・・・。

いつも突然現れて、俺をドキドキさせた。

授業中にも何度も目が合った。

そして、一番話をした。


何でこんな単純な事、今まで気がつかなかったんだろう。


”俺は、ヒロミと一緒にいる時間が一番好きだ。”


クミコに謝ろう。許してくれないかもしれないが、

もう逃げるのはやめよう。


ハッキリさせよう。何もかも。

俺はこの文化祭を期に、今までの自分とおさらばしよう・・・・。


『ラストダンスはヒロミだ!』



演奏を終え、俺たちはステージを降りた。


入れ違いにポップスバンドがステージに上がった。

奴らはもう、目を合わせようとはしなかった。


『完全に勝負がついたな。』



「おい、タバコ吸いに行こうぜ。」

「あー、おつかれ。とりあえず部室だ!着替えようぜ。」


三人とも汗だくである。


早々に着替え、タバコに火をつけた。

達成感の後のタバコは実に美味い。

ただ、疲れているためか、何となく皆無口だ。


「今ごろ、ポップスバンド、ガタガタだぜきっと・・・・。」

キョウが口火を切った。

「ああ・・・・。」

「ちょっとやりすぎたかな・・・・。」

「えっ?何?」

「じ・実はさ・・・・俺、演奏終わって、アンプからジャック抜く時、

 奴らのギターが立てかけてあったから・・・・その、つい、出来心で・・・・。」

「えっ?出来心で何したんだ?」

「いやその・・・・ペグ回して、チューニング緩めた・・・・。」


一瞬、空気が固まった。


「いや・・・・実は俺も・・・・。」

「えっ?トシローも?何したの?」

「いや・・・・俺もつい出来心で・・・・ベースのチューニング緩めた。

 いや、まさか、キョウがするとは思わなかったんで、

 ちょっと復讐してやろうかと・・・・。」

「って言う事は、ギターとベース、両方ともチューニング、ガタガタ・・・・。」

「いや、ドラムもだ。」

「えっ?」


俺はキョウと顔を見合わせた。

ヨージは誇らしげに言い放った。


「俺も演奏が終わってすぐ、ねじ回しみたいな奴で適当にタムのネジ回してやった。

 だが、これも天罰!悔やむ事は無いぜ!!奴らは最低だからな!!!」

「お・おい・・・・適当にって、お前・・・・。

 ドラムのチューニング、すぐには直らないんだぞ。」

「そんな事は知らん。ただ、それでもスネアだけはしないでおいてやった。」

「お前・・・・鬼だな。」

「鬼畜め!!」

「よく言うぜ。奴ら、チューニングメーターがなけりゃ、ギターだって、

 ベースだってチューニング出来ないんだぜ。皆同罪さ。」

「・・・・それもそうだな。

 元々、俺たちにケンカ吹っ掛けて来たのは奴らの方だし、

 気にしないでおこうぜ。」

「しっかし、ヨージ、お前、性格変わったな。カオリのおかげか。」

「トシローも、これから頑張って、性格変えてもらいなよ。」

「うるせぇ!」

「さぁ、いよいよ文化祭もクライマックスか。

 今年の注目はトシロー、お前だぞ。がんばれよ!」


「あー、うるせぇなぁ、解ってるよ!!」


 

 









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