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約束  作者: 猿丸
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第十九章・松竹梅

「第十九章・松竹梅」



ステージの脇で、二年のバンドが終わるのを待っていた。


「まだ15分あるから、イップクしよう。」と言ったのはキョウだった。

部室でイップクし、急いでステージの脇に戻った。

二年のバンドの演奏は、もう最後の曲だった。


キョウがギターを持って、今回、俺たちのスタッフになった一年に、

何か叫んでいる。


「キョウ、どうした?」

「ギターの6弦が切れてる・・・・。」

「えっ?・・・・おい、誰かキョウのギターに触った奴いるか?」

「いえ、気がつきませんでしたが・・・・。」


キョウの弦はさっき取り替えたばかりだった。

しかも、演奏中に伸びないよう、随分念入りに引き込んでいた。

今から張り替えたら、一曲が終わるたびにチューニングしなければならない。


「おい、まさか・・・・。」

「あぁ、うかつだった・・・・。弦は至急張り替えるとして、

 まだ何かするかもしれないぜ。気をつけよう。」

「ああ。」


ちょっと嫌な気分になったが、まさか演奏中は無いだろう。

それでも気をつけるに越した事無いのだが。


二年の演奏が終わった。


さぁ、いよいよ俺たちの出番だ!

準備が終わり、俺たちはステージへ上がった。


客席は超満員。

キョウのチラシ作戦が功を奏した。

校長をはじめとする、教師たちも、中央に座っているのが見えた。


『ホントに聴きに来たのか・・・・。』


少し動揺したが、それを振り切るように、俺はマイクに向かって叫んだ。


「待たせたなぁ!松竹梅だ!!」


すると突然、「プツ」と会場の電源が落ちた。

ステージ、客席は真っ暗だ。


客席が、ざわざわと淀めいている。


「おい!どうしたんだ?」

「一年!ブレーカー見て来い、ブレーカー!」

キョウが絶叫している。


『あいつらの仕業だ!絶対!ここまでするとは、許せん。』


俺はステージから、ノリユキを探した。

あの特異な髪型は、遠くからでも良く解る。

一年に急いでノリユキを呼んでこさせた。


「おい、トシロー、どうしたんだ?一体。」

「ノリユキ、悪いが、あそこ、体育館の隅にブレーカーがある。

 そこを気付かれないように見張りを立ててくれ。」

「じゃぁ、これは事故じゃないって言うのか?」

「ああ、多分誰かの嫌がらせだろう。」

「クソッ!見つけたらぶっ殺してやる!」

「いや、まだ、ハッキリしないんだ。でも、用心に越した事は無いからな。」

「解った。ノブ達にでも見張らせるよ。」

「いや、お前と、ノブは、ちゃんと言われた所にいてくれ。

 面白い事が起きるから。」

「えっ?何?」

「それは後のお楽しみだ。」

「・・・・とにかく解った。任せとけ。」

「すまん。頼んだぞ!」


思った通り、ブレーカーが落とされただけであった。

体育館の電源はすべてついた。

でも、すべて仕切りなおしだ。

俺たちは一度ステージの脇に引っ込み、

ジュンさん達がマイクなどのチェックをしている。

ヨージは照明係、打ち合わせの変更に走った。

思ったより時間を食った。


「クソッ!まさかここまでするとは考えもしなかったぜ。」

「かなり時間も押しちゃってるから、MC少なめで行こう。」

「アンコール、出来ないかもしれないな・・・・。」

「まぁ、仕方ないさ。このお礼は後でキッチリとさせてもらうさ。

 それより気を取り直していくぜ。」


もう一度ステージに上がった。


俺は、スポットライトに包まれた。


「あまりのパワーに、ヒューズが飛んでしまったようです。

 今度は頑丈なヒューズを取り付けたようなので・・・・。

 フルボリュームでいくぜ!!」


ワン・ツー・スリー・フォー!!



「よォーこそ」


良く来てくれた このコンサートに 良く来てくれた わざわざここまで

良く来てくれた こんなとこに 良く来てくれた よォーこそ! 


じゃあバンドのメンバーを紹介しよう 

ギター弾くしか脳の無い奴さ

古くからのオイラのダチさ 紹介するぜ ギター キョウ!


*ギターソロ*


気の合う奴なんてそうザラにいるもんじゃないぜ

だけどコイツならとキョウが目をつけた

古くからのオイラのダチさ 紹介するぜ ドラマー ヨージ!


*ドラムソロ*


オイラ友達を集めてバンドをやってるのさ 

バカな頭で考えたこれは良いアイデアだ

イカレた奴らが集まって演奏が始まってるぜ

オイラ トシロー! どうぞヨロシク!


*ベースソロ*


それからもう二人忘れちゃならないぜ

いつでも何処だってメチャメチャ暴れまくってる

古くからのオイラのダチさ 紹介するぜ 


ミナミの番長ノリユキと次期番長ノブ!



打ち合わせ通り、ノリユキとノブにスポットを当てた。

奴らは、予想通りビックリしたが、ノリユキが手をあげてアピールを始めると、

ノブは調子に乗って踊り始めた。

ヘンテコな踊りだったが、客席は以上に盛り上がった。



どうだい!ノラないか!よォーこそ!

どうだい!ノラないか!よォーこそ!

どうだい!キタ校ベイビー!よォーこそ〜!




ノリユキ達にスポットを当てたのは大成功だった。

これはヨージの提案で、今まで協力してくれたお礼と、

奴らは怖くないんだぞっていうアピールと、

最初からこのライブを盛り上げるための、

一石三鳥を狙ってのことだった。


大盛り上がりの中、二曲目、”FEEL SO BAD”、

三曲目、”JONNEY BE GOOD”と続けてぶっ飛ばした。


やはり血の気の多い”ミナミ”の連中を中心に、

大盛り上がりを見せた。

今、ステージを降りていっても良いと思うほどで、

俺の体はまたしても鳥肌が立っていた。


「ちょっと飛ばしすぎたんで、ここらで少しゆっくりめな曲を。」


スタッフの一年が、椅子とアコギを用意し、

キョウと二人で椅子に座った。

ヨージはヘトヘトで、息を切らしている。

本当に良いタイミングの休息だった。


四曲目”Waggner”。


ヒロミのことを考えながら、歌った。


客席は暗くて、ヒロミが何処にいるか、聴きに来ているのか解らないでいた。

歌いながら、ヒロミと出会った時の事や、

ドキドキさせられた事などが浮かんできて、

自分で歌いながら、自分で切なくなってしまった。


その切なさを残したまま、五曲目の”堕天使のささやき”。


クミコとの事を歌った唄とは言え、

クミコの事を考えながら歌えるほど、

簡単に頭を切り替えられるほど、俺の頭は上手く出来ちゃいない。


ヒロミとの2年半のウジウジした時間と、

クミコとの中身の濃い数ヶ月を比較していた。


『俺はずるい人間だ・・・・。

 どっちも好きだ何て許されるわけ無い。正直になろう・・・・。

 もう、ハッキリさせよう・・・・。』


そんな事を考えながら、歌い終わると、

さっきの盛り上がりとは打って変わり、

客席は静寂に包まれてた。


さぁ、残り二曲だ。

これで盛り上げて、スッキリしよう。

今まで、ずっと、一年の時からやってきたことのすべてを、

俺のこれまでの感情のすべてをぶつけるんだ。


そして、一つ結論が出た。


「早いもので、もう残り二曲になっちゃいました。

 俺たちはもう三年で、俺たちだけじゃなく、三年のバンドは皆、

 この文化祭でスッキリして、これからに向かおうと頑張ってきたわけで。

 皆、それで解散していく訳だけど・・・・。」


お決まりの”解散宣言”である。

どのバンドも、何年も、何年も、繰り返し行われてきた、

お決まりの文句である。

客席も慣れたもんで、「やめるなー」とか、叫ぶ奴が何人かいるが、

そのバンドの最後の”決め台詞”を心待ちにしてやがる。


今も、俺の最後の言葉を、皆が待ち望んでいるのが、

手に取るように伝わってきている。


俺は、キョウとヨージを見た。

二人とも俯いている。

そりゃあそうさ、俺がこんなことを喋るなんて、

予定には入ってなかったから。


「・・・・俺たち、”松竹梅”は・・・・解散しません!」


「えっ?」と言う、沈黙の後、会場がざわめいた。


俺はもう一度振り返り、キョウと、ヨージの顔を見た。

キョウはヨージにむかってガッツポーズのサインを出し、

その後俺を見てにこっと笑った。

ヨージはニコニコしながら、胸を抑えるポーズを取り、

「ドキドキさせんなよ。」と俺に伝えた。


「だってさぁ〜、まだやりてぇー事、沢山あるんだよ。

 三年だからって、やめなきぃけねぇ決まりなんてねぇーだろ?

 何年も何年も前から、三年は解散宣言ばっか・・・・。

 ”解散しまーす”、”今までありがとー”、こればっか。

 誰が決めたのか知らねぇけど、俺たちはそんなのクソッくらえだ!」


俺は、曲を始める合図を出した。


ズドン!


ヨージのスネア一発で始まる、初めてのオリジナル”Show me please”。


気分は最高だった。

今まで何をウジウジしてたんだろう。

世間の常識に少し翻弄されていたのかもしれない。


俺は俺のスタイルで行くぜ!



さぁ、最後だ。今までのイライラをすべてぶつけてやる。


”SATISFACTION”


もう、気分は完全にミックジャガーだった。

シャウトしまくった。

会場も、”満足できない奴ら”で、大騒ぎだ。


ようやく俺は・・・・。

溜まりに溜まったフラストレーションを、発散する事が出来た・・・・。



歓声と、達成感と、虚脱感の中、俺たちはステージを降りた・・・・。






  


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