第十八章・選択
「第十八章・選択」
いよいよ、待ちに待った文化祭当日。
今年は9月の第一週の土日だった。
すべての部活が、この文化祭で三年は活動を止め、
これからは二年が主体となる。
もっとも、スポーツ系の部は、大会で活動を止めてはいるが・・・・。
バンドをやっている連中も、皆このコンサートで解散する。
俺たち松竹梅も、あっという間の数ヶ月な訳で、
これからのことなんて、何も話しちゃいない。
キョウと、ヨージはどう考えているのか。
それから、文化祭が終わったらすぐ、進路も決めなきゃいけない。
担任の佐川に釘を刺されていた。
『進学か就職か・・・・。』
俺たちのライブは、日曜日の2時〜3時の一時間を選ばせて貰った。
その選択により、今年の”軽音部”は、
土曜日は小さな体育館でアコースティック系、
日曜日は大きな体育館でバンド系となった。
土曜日は、もちろん、アコースティック系のスタッフとして、
手伝いをしたが、今年は凄い機材を持ち込んで、
ジュンさん達、”軽音部OB”が協力してくれているために、
大した仕事もなくなった。
明日のライブのことを考えると、多少緊張したが、
逆に早く明日にならないかと考える余り、
色々なクラブの出し物を見て周っても、目に入らなかった。
結局、メンバーそろって、明日の打ち合わせをもう一度確認したり、
MCを考えたりするだけだった。
「あ〜、いよいよ明日だな。緊張するぜぇ。」
「あぁ、もう終わっちまうんだな、俺たち・・・・。」
「なんだよ、トシロー、やけに暗くなって・・・・。」
「・・・・なぁ、なんとなく聞くのアレだったんで、何なんだが、
お前ら、どうすんの?進路。」
「俺は大学行くよ。受かればだけど。キョウは?」
「・・・・俺は、進路はともかく、松竹梅は続けたいんだが・・・・。
中々言い出せなかったんだけど、ヨージ、お前、東京の大学に絞れ。
俺も、東京の大学だけ受ける。受からなくても、別にかまわないんだ。
問題は・・・・。」
「俺か・・・・。」
「トシロー、就職でも、進学でも、何でもいい。三人で東京へ出よう。
それで、ライブハウスで活動続けよう。トシローが東京に出なかったら、
俺の計画も終わりだ・・・・。」
「俺はいいよ。東京の大学に絞る!バンド続けようよ、トシロー!」
「そんなにプレッシャーかけんなよ。
文化祭が終わるまで、考えさせてくれ・・・・。」
『継続か解散か・・・・。』
「トシロー君!」
カオリが現れた。
「今日はね、大事な話があるの。ちょっといい?」
「何だよ。ヨージとの別れ話か?相談に乗るぞ!」
「違う違う、ヒロミの事。」
「何?」
「まだヒロミに告白してないんでしょ?」
「うん・・・・。」
「明日の”告白タイム”に勝負かけちゃいなよ。」
”告白タイム”とは、日曜日の4時から5時までの一時間、
後夜祭の準備をしている間、
グラウンドで音楽を流し、フォークダンスを踊る。
ここ数年、全校生徒が集まりだす4時半頃から、
”告白タイム”と銘打って、好きな人に告白をする時間になっていた。
ほぼ全校生徒を前に告白をして、見事、カップル成立した者だけが、
グラウンドの中央で踊り、自分たちは恋人同士ですと宣言する。
ヨージとカオリも、他のカップルも、
この時間に踊るために、今までコッソリと付き合っていたのだ。
文化祭最後のビッグイベントなのである。
「う〜ん・・・・。」
「絶対大丈夫だから。昨日ね、ヒロミとその話になったの。
やっと、文化祭だね、これでヨージ君とも堂々と付き合えるって私が言ったら、
ヒロミは、いいなぁっ言うからさ、
ヒロミだって、告白タイムにトシロー君誘えば良いのにって言ったら、
何て言ったと思う?」
「な・な・な・何て?」
「私からはとても誘う勇気ないけど、誘ってくれたら踊ろうかなぁって言ったのよ!」
「え〜〜〜〜〜!!」
俺が驚く前に、キョウとヨージが声を合わせて驚いた。
「やったな!トシロー、逆転サヨナラホームランじゃん。」
「つ・ついに・・・・トシローに彼女ができるのか・・・・。」
「お前ら、俺の事バカにしてたのか?」
「バカにはしてないけど、情けねぇー奴だとは思ってたよな、ヨージ。」
「うんうん。でも、明日一緒に踊れるぜ!トシロー、良かったな。」
「・・・・。」
嬉しかった。
嬉しかったけど・・・・クミコの顔がチラッと浮かんだ・・・・。