第十七章・妨害
「第十七章・妨害」
新学期が始まった。
さぁ、いよいよ文化祭も近い。
ワクワクしながら学校へ向かった。
ただ一つだけ、ヒロミのことを考えると、複雑な気分だった。
これから一体、ヒロミに対して、どんな顔をすれば良いのか。
あの夜以来、クミコのことを考えるたび、
胸がキュンとするようになった。
クミコのことを好きになってしまったのか?と、
いつも自問自答していた。
いままでの感情とは明らかに違う何かになっているのは事実なのに、
ヒロミのことも愛しい・・・・。
誰かに相談するにも、
キョウや、ヨージには、クミコとの事をなぜか言いたくはなかった。
『あ〜、俺って最悪な人間だぁ・・・・。』
考えるだけ落ち込むので、
できるだけ結論を出さないよう、出さないようにと、
二人の事を同時に考える事を避けるように心がけた。
昼前の授業が終わり、俺は担任の佐川に呼ばれた。
「おい、トシロー、弁当食ったら職員室に来い!話あるから・・・・。」
ドキッとした。
まさか無免許が見つかったんじゃ・・・・。
ヨージが心配そうな顔をしていった。
「おい、何しでかしたんだよ。文化祭も近いって言うのに・・・・。」
「わからねぇ・・・・。」
不安で、弁当もソコソコに、俺は職員室のドアを開けた。
「おう、トシロー、もう弁当食ったのか?」
「あのー、俺、何かしましたっけ?」
「お前、ジュン知ってるよな。」
「ジュンって・・・・。はい、知ってますけど。」
「どういう知り合いだ?」
「どうって別に・・・・。」
「あいつはお前たちの前に俺が担任してたんだ。」
「はぁ・・・・。」
「そのジュンが先日電話してきて、文化祭の手伝いをしたいって。
しかも、その手伝いってのが、お前たち”軽音部”のコンサートに、
ミキサーとして参加したいって言ってきたんだ。」
「えっ?」
「あいつも昔、軽音部だったから、OBとして協力させろってさ。
べつに問題ないから了承しておいたけど、お前からも、ちゃんとお礼言えよ。」
「はい。」
『やったー!!なんてラッキーなんだ。あの凄い機材で、
しかもミキサーまでしてくれるなんて、何てツイてるんだ。
もしかしたら、クミコって”あげ○ん”かも・・・・。
いやまてよ・・・・いやいや、これはキョウの差し金だな。
お姉さんから手を回したのか・・・・。』
思わずガッツポーズを決めていた。
「ところで、話はこれからだ。」
「えっ?まだ何か・・・・。」
「ああ、これから一緒に校長室へ行くぞ。」
「えっ・・・・・?校長室?お・おれ、何もしてませんよ・・・・。」
佐川は黙って歩き出した。
仕方なく俺は後を付いて行った。
中に入ると、凄いメンバーの揃い踏みであった。
校長、教頭、生活指導の杉田。
まるで”謹慎決定”と言われているのも同じだ。
『おいおい〜、一体何がバレたんだろ・・・・。
バイク?あっ、大人ライブ?まさか・・・・屋上?』
思い当たる節が、次から次へと頭を駆け巡る。
そこから逃げ出したくなるほど、思い空気が漂っている気がした。
「失礼しまーす。」
そこへ突然校長室のドアを開け、入ってきたのは、
文化祭実行委員長のダイスケであった。
「よし、みんな揃ったな。実は、夏休み中、私の所にこんな手紙が届いたんだ。」
そう言って、生活指導の杉田は話し始めた。
「その手紙によると、今年の文化祭には、ミナミの不良グループが大勢来るという。
その目的は、トシロー、お前たちのバンドを聴きに来るためだそうだ。
この手紙の差出人は、怖くて文化祭に集中できないから、
お前たちのバンドの演奏を中止するか、ミナミは出入り禁止にしろと言っている。
トシロー、ここに書いてあることは事実か?」
『くそっ!汚い真似しやがって。誰が書いたか解ったぞ。
ポップスバンドの奴らだ。
あいつら、この間のライブの仕返しをこんな手でしてきやがった。』
校長を初め、すべての教師、そしてダイスケの目が俺に集中した。
俺が答えあぐねていると、佐川がダイスケに話を振った。
「おい、ダイスケ、お前はどう思うんだ?」
「はい、僕は、この手紙に書かれている事が事実だとしたら、
ちょっと問題だと思います。でも、ミナミを出入り禁止ってのは、無理なので、
トシロー君達に我慢してもらうしかないかと・・・・。」
「おい、ダイスケ、我慢しろって、ライブやるなって事か?」
「うん。悪いけど、みんな文化祭に向けて頑張ってきたんだから、
皆のためを考えたら、ここは我慢してもらうしかないよ。」
「何言ってんだ!俺たちだって、頑張ってきたんだぞ!」
『完全に頭に来た。よ〜し、こいつら全員と戦ってやる!』
アドレナリンが全身に回ったかのように、体中の血が騒ぎ出し、
俺の体は熱くなった。
「まず、杉田先生は、この手紙の内容は事実かと聞かれましたが、
私には解りません。なぜなら、ミナミに不良グループって存在するんですか?
大体、こんな田舎に不良なんているんですか?
そりゃ〜、格好はいろんな奴もいるでしょう。
でもそんなのファッションじゃないですか。
先生方だって、いろんなカッコしてるでしょ。
杉田センセなんか、いっつもジャージじゃないですか。
教頭先生、教師はジャージでも教師らしいんですか?」
「ばかやろ!教育はカッコじゃないんだ。」
慌てたように佐川が言った。
『引っかかってくれてありがとー!』
「そうですよねー。
人間は格好じゃないから、僕達は杉田センセイを尊敬するんです。
それなのに、先生方は、ミナミの連中の格好が可笑しいからといって
差別するんですか?」
「いや、私たちは何もそんなことを言っているんではない。
ただ、ウチの生徒が怖がるというのは問題あるだろ。」
「べつに誰も怖がっていませんよ。
だって、中学時代は一緒に過ごしてたんですから。
こんな狭い田舎、み〜んな知り合いですよ。
大体、この差出人は、変ですよ。名前、書いてあるんですか?」
「いや、無記名だが。」
「杉田先生は、無記名の手紙と、俺たちと、どっちを信用するんですか?
この手紙は多分、俺たちのバンドに対する嫌がらせです。
そんなのに、天下の生活指導の星、杉田センセーが踊らされてどうするんですか
?」
俺の口は止まらなくなっていた。
「んじゃぁ、仮に、この手紙が真実で、不良グループってのが実際あって、
俺たちのコンサートを聴きに来たとします。
それはイケない事じゃなくて、凄い事でしょ?!
ケンカしに来るわけでも、イチャモンつけに来るわけでもなく、
コンサート聴きに来るんですから。おとなしいもんですよ。
だからむしろ、ミナミ大歓迎の形を取った方が盛大に盛り上がるじゃないですか。
校長先生から、ミナミの校長へ口添えしてもらって、
この際、ミナミとキタのわだかまり無くしちゃいましょうよ。
この文化祭を気に、キタとミナミが仲良く手を取り合う。
歴史が変わりますね、校長先生、教頭先生!!
そしたら、ダイスケ、お前、男が上がるよ〜。ベルリンの壁をお前が壊すんだ!
!」
「わっはっはっ!」
いきなり校長が大声で笑い出した。
「トシロー君だっけ、君は面白いねぇ。
私もその、ミナミの不良グループとやらが聴きたいコンサート、
見てみたくなったよ。
どうだね、杉田先生、教頭先生、確かのこの手紙は無記名で信用性も薄いし、
我々の前でこれだけ熱弁する、トシロー君の口車に乗ってみては。」
「実は、OBから私の所に連絡がありまして、
是非トシロー達のコンサートに協力したいと言って来まして、
それから考えても、こいつらは別に悪い事してるとは思えないし、
ここは一つ、私も何とかこいつらに演奏させてあげたいのですが・・・・。」
校長に続き、佐川もフォローしてくれた。
ダイスケはもう、ベルリンの壁を壊す事で頭がいっぱいの様子だ。
「校長がそう言われるんでしたら・・・・。」
と、教頭も、杉田も了承した。
「では、先生方の特等席を用意してお待ちしています。」
そう言って、校長室を出た。
佐川は俺の頭を小突き、
「よかったな。がんばれよ!」と言った。
教室へ帰ると、ヨージとキョウが待っていた。
「何だったんだよ。」
俺は校長室での事を説明した。
「きったねーマネしやがってー!ノリユキ使って懲らしめようぜ!」
「いや、何の証拠もねぇ。
それより、これからも色々な妨害があるかも知れねぇから、気をつけようぜ。」
「そんなことより、後二週間しかねぇぞ。アンコール曲決まってないけど、
どうするんだよ。」
「そのことなんだけど、いま、トシローがいない間にヨージと話した。」
「何やんだよ。」
「いや〜、文化祭にはピッタリの曲さ。じつはさ・・・・。」