第十二章・真夏の夜の夢
「第十二章・真夏の夜の夢」
学校へ着いた。
グラウンドには、何組ものカップルが花火を見上げている。
「さ〜て、ヨージは何処にいるかな・・・・。」
もちろん照明など点いておらず、
花火の灯りだけで探すのは容易ではなかった。
「花火が終わってから入り口で待っていようよ。
それより花火見よ。」
ヒロミはそう言って、俺を引っ張っていった。
腕は依然絡めたままで・・・・。
校舎の壁に背中をつけて座った。
「ドーン!」と花火が上がる時にだけ、辺りの様子が見える。
思ってた以上にカップルが多く、ある種、異様な雰囲気だ。
寄り添って花火を見ている奴ら、
抱き合ってる奴ら、
キスしてる奴ら・・・・。
きっとこの中のどこかに、ヨージとカオリがいて、
きっとあいつらも似たような事になっているに違いない。
そして俺たちも、その中の一組のカップルでしかないわけで、
これからどうなってしまうのかという”期待”と、
こんな奴らの仲間になりたくないという”理性”で、
俺は困惑していた。
花火は終盤に向かって、次第に盛り上がっていく。
それまで、ずっと黙って花火を見ていたヒロミが、
俺の肩に首を傾けてきた。
ビックリしてヒロミを見た。
ヒロミは黙って花火を見ている。
「ヒロミ・・・・。」
「・・・・このままで・・・・いさせて。」
「いいけど・・・・タバコ吸っていいか?」
「・・・・うん。今だけだよ。」
タバコを吸わずにはいられなかった。
そうじゃなきゃ、何をしてしまうか解らない。
手を伸ばせば、
キスをする事も・・・・、
抱きしめる事も・・・・、
何でもできるような気がして。
でも、心の何処かに、そんな俺にSTOPをかける”何か”があった。
花火が終焉を迎えた。
心臓に響くほど多きな爆発音。
いくつもの花火が大空で花を咲かせる。
そして、”花火の音だけの静寂”は破られ、
帰る奴らの”せわしない雑音”が辺りを包み始めた。
「さて、ヨージ達探そ。」
そう言って立ち上がろうとしたが、
ヒロミは俺の腕をつかんだまま、力を入れて立ち上がろうとしなかった。
「もう少しだけ・・・・。」
俺にSTOPをかけた、
”何か”=”悪い予感”は、
”確信に限りなく近い予感”となり、俺を支配した。
俺は、何も言わず、ヒロミの隣に座り続けた。
『ヒロミの気が済むまで、付き合ってやるよ。これが最後だ。』
そう心の中で話し掛けた。
息苦しいような沈黙の中だった。
しばらくすると、何処からか呼ぶ声が聞こえた。
「トシロー!」
「ヒロミー!」
「何処だー!」
「おーい!」
なんと表現したら良いか・・・・。
そう、”できるだけ声を押し殺した、できるだけ大きな声”とでも言おうか。
「ごめん、ありがと、もう行かなきゃ。」
ヒロミは腕を放し立ち上がった。
「今夜の私、どうかしてた・・・・気にしないで。」
「うん・・・・。」
気にしないでといわれても、気にしないでいられるはずがない。
『きっとヒロミは、アキラを見て淋しくなったんだ。
だから俺に腕を組んだり、もたれ掛かったりしてきたんだ。
所詮、俺はアキラの代わりだったんだ。
俺はヒロミの心の隙間を埋めるだけの存在だったんだ。
今までの行動も、発言も、すべてそうだったってことだ。
俺は結局一人で有頂天になっていただけなのか・・・・。』
さっきまでの決心はどこかに消え去り、
敗北感のような、絶望感のようなものだけが頭の中を渦巻いている。
『もう、うんざりだ・・・・。』
ヨージとカオリの方へ早足で歩いた。
「おう!トシロー、もう、何処行ってたんだよ。探したぜ〜。」
「ホント、急に二人で居なくなるから、心配しちゃった。」
「ふざけんな!勝手なことばかり言いやがって!
てめぇ達の事しか考えてねぇくせに、偉そうに言うな!
もう俺は降りっからな・・・・。」
「な・な・何怒ってんだよ、トシロー。」
「うるせぇ・・・・。」
早足で坂を下った。
早くその場から逃げ出したかった。
あいつらには罪はない。
そんなこと解りきっていた。
俺は、敗北感の余りに、八つ当たりしただけの事だ。
『俺は最低だ・・・・。』
自己嫌悪に押し潰されそうだ。
「クソッ!何でいつも俺ばかりがこうなるんだ・・・・。」