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約束  作者: 猿丸
11/23

第十一章・真夏の夜の花火

「第十一章・真夏の夜の花火」



夏が来た。

後、一ヶ月半で文化祭だ。


文化祭では、約一時間の持ち時間なので、

8曲程にレパートリーを増やさなくてはいけない。

オリジナルを書きながらも、アレンジ、ベースの練習と、

ハードな毎日が過ぎていく。


そんな中、この町最大のビックイベント、

”夏祭り”が今年もやって来た。


”盆”、”暮れ”、”正月”にさえ帰郷しない”この町の出身者”の多くが、

”夏祭り”だけは帰って来るというほど、

祭りに異様な執着が、この町の人々にはある。


とはいえ、特別変わった事が行われるわけでもなく、

神輿が町を練り歩き、後は花火・・・・それくらいか・・・・。


俺は隣町の出身ではあるが、やはり楽しみにしていた。

「今夜は俺に仕切らせろ!」と、

ヨージが妙に張り切っているので、任せる事にした。


待ち合わせは六時半に駅。

「どうせ同じ町なんだから、一緒に行こう」という、俺の誘いを、

「いや、色々段取りがあるから・・・・。」とヨージに断られ、

「スマン、俺、今夜、一緒には無理だ・・・・。」とキョウはお姉さんを選び、

チョットふて腐れ気味に、一人で駅に着いた。


「トシロー!遅い、遅い!」

「仕方ねぇーだろ!電車なんだから。」

「まぁまぁ、実はさ・・・・。今日は、二人で歩くんじゃないんだ。」

「えっ?なんで?俺、うっとうしいの嫌だぞ。」

「解ってるって。でも、その前に、紹介したい人がいるって言うか、

 何と言うか・・・・。」

「あ〜?誰だよ、うっとうしいなぁ・・・・。帰ろうかな・・・・。」

「トシロー君!!」


いきなりの声に振り向くと、クラスメイトの”カオリ”だった。

「おう!カオリ、祭り見に来たのか?」

「いや、そーじゃないんだ、紹介したいってのは、カオリなんだ。」

「カオリなら紹介しなくても知って・・・えっ?!まさか・・・・。」

「そう、そのまさかなんだ・・・・。」

「え〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

「ビックリしたでしょ、トシロー君。私が付き合ってって言ったの。」

「うそだろ?カオリ、よく考えろ?ヨージだぞ、ヨージ。」

「そういう言い方は無いだろ、トシロー!」

「ヨージ、お前・・・・この話には何か裏があるぞ!だまされるな!!」

「何よそれ・・・・。私は本当にヨージ君が好きなの!!」


そう言って、カオリはヨージと手を繋いで見せた。


”カオリ”は背が小さく、少しぽっちゃりしている。

昔で言うなら”トランジスタ・グラマー”というやつだ。

髪は軽めの天パーで、

切れ長の目をして大人っぽい顔つきをしているので、

学校でもモテるほうだ。


あの”テル”が、女好きになったのも、

もともとは、中学時代からカオリの事が好きで、

でもカオリが一向に相手にしてくれないため、

これ見よがしに女を口説くようになったらしい。

テルはカオリに五回フラれている・・・・。


「奇跡だ・・・・。しっかしカオリ、何でヨージなの?

 カオリなら選び放題だったのに。まぁ、他の奴はともかく、

 何で俺じゃないの?」

「私、ヨージ君みたいなのタイプなんだ。やさしいし、頭良いし・・・・。

 それに、トシロー君はヒロミのものでしょ?」

「えっ?」

「見てれば解るよ。私、ヒロミとは付き合い長いし、

 ヒロミ、絶対トシロー君の事、好きだと思うな。」

「う〜ん、実はそうでもなさそうなんだよな・・・・。」

「聞いた。アキラさんの事でしょ。

 でもあれは、きっと憧れみたいなもんだと思うな。

 もっと自信を持った方がいいよ。」

「おい、ヨージ、てめぇ何でも話してるのか、この裏切り者!!」

「いや、俺はトシローにも幸せになって欲しいと思ってさ・・・・。」

「くそっ!何が幸せだ。

 それになんで俺がお前らと一緒に歩かなきゃいけねぇんだよ。

 お前ら二人で歩けば良いだろ!」

「そう言うと思って・・・・ヒロミも誘ったよ、トシロー君。」

「えっ、ヒロミ来るの?」


「いや、ホントはさぁ、文化祭まで、俺たちが付き合ってるのバレたくないんだ。

 文化祭で皆をビックリさせたいってことになってさ、だから頼む!」

「なんだ、結局、俺はカモフラージュか・・・・。

 そういうことなら仕方ないか・・・・。ヨージ、ジュースおごりだぞ。」

「ホントはヒロミが来るからなくせに。」

「あれ〜、そんなこと言っていいの〜?!学校行ったら、喋っちゃおうかな〜。

 それとも、今でも良いよ〜。みなさ〜ん!」

「解った、解った、ジュースおごる。

 もしかしたら、一番ヤバイ奴に知られちゃったかも・・・・カオリ・・・・。」

「大丈夫、大丈夫。

 トシロー君、ヨージ君いじめたら、ヒロミに言っちゃうからね。

 トシロー君がヒロミのこと好きだって。あっ、ヒロミ〜!」

「そんな芝居に騙されねーぞ!言いたきゃ言いやがれ!」


「お待たせ〜!」

本当にヒロミがやって来た。

「ヒロミ〜、あのね〜、トシロー君がさ・・・・。」

「解った、ごめん、カオリ、ヨージと俺は親友で〜す!!」

「何?何の話してたの?」

「いや、なんでもない、ちょっとバンド内のゴタゴタを・・・・。」


てな訳で、四人で町を練り歩く事になった。

カオリの巧妙なシナリオ通り、

最初は俺とヨージ、ヒロミとカオリのペアで、

前後に別れて町を歩いた。


「おい、ヨージ、何で黙ってたんだ!」

後ろを歩く二人に聞こえないように、小さな声で話した。


「ゴメン、言おうと思ったけど、カオリが絶対内緒だって言うからさ・・・・。」

「もう尻に敷かれてんのか!なっさけねぇーなー。

 でも、すげぇラッキーだったな。お前、一年の時から好きだったもんな。」

「あぁ、初めは信じられなかったよ。」

「んで、いつからなんだ?もうヤッたのか?」

「そんな、ヤレるわけねぇーだろ!まだ付き合って二週間だぞ。」

「キスくらいしたのか?」

「それもまだなんだ・・・・。」

「よし、私に任せなさい!今夜は忘れられない夜にしてやるぜ!」

「いや、いい。余計な事すんなよ、トシロー!」

「遠慮しなさんなって。」


「コラ!何コソコソ話してんの?」

「いや、べつに・・・・。」


タイミングを計ったかのように、カオリが入れ替わろうとしてきた。

カオリの頭の回転の良さには脱帽する・・・・。


そして俺は、ヒロミの横を歩いた。


「ねぇ、お似合いだよね。あの二人。」

「お前、知ってたのか?」

「うん、随分カオリから相談されたから。

 カオリ、いつになく真剣だったよ。」

「へぇ〜、カオリが相談ねぇ・・・・。」


前を歩く二人は、完全に自分たちの世界に入り込んだようで、

もう誰も寄せ付けないような”オーラ”を放っていた。


『あ〜あ、ヨージにも彼女が出来たか・・・・。

 キョウの奴だって、今頃お姉さんと・・・・。

 なんで、俺だけ”パッ”としねぇのかな・・・・。』


確かにヒロミは、隣を歩いているのだが、

何の確信も持てるはずがなく、少し気分が落ち込んだ。


しばらく歩いていると、急にヒロミが立ち止まった。

ヒロミの見つめるその先に・・・・アキラがいた。

やはり夏祭りに、帰ってきていたのだ。

しかも彼女らしき女連れで。


横目でヒロミの顔を見た。

気のせいかもしれないけど、悲しそうに見えた。


「ヒロミ、俺、金魚すくいやりたい。」


思いつくままに、近くにあった”金魚すくい屋”へヒロミを誘った。


幸い、まだアキラは俺たちに気付いていない。

このままアキラをやり過ごすのも、ちゃんと挨拶するのもヒロミ次第だ。


「私も。」そう言って、ヒロミは俺の隣に座った。

『やっぱり、顔合わせるのは辛いか・・・・。』

そう勝手に解釈をし、わざと中々すくえないようなフリをして、

気配を消しながら、アキラが通り過ぎるのを待った。


アキラが通り過ぎてから、ヒロミは少し無口になったような気がした。

そして俺も、何を話していいかわからず、無口になった。


『ヒロミは、明らかにアキラに対して何らかしらの感情がある。

 そうじゃなきゃ、アキラに挨拶したはずだ。

 なのにヒロミは隠れた。俺と一緒だったからか?いや、違う。

 それじゃぁなぜ、ヒロミは俺の周りをウロウロするんだ?

 なぜ、いつも思わせ振りな態度を取るんだ・・・・。』


そんなことを考えながら歩いていたら、

突然、「ドーン!」と花火が上がった。


「確か、カオリのシナリオでは、花火は学校で見るんだったよな。

 仕方ないから、学校へ行こう。」


金魚すくいをしたせいで、ヨージ達と逸れたままだった。


「うん。もう学校へ行ってるかもね。」

「うん。それとも、これで解散して二人だけにしてあげようか。」

「えっ?もう帰りたいの?」

「ううん、そうじゃないけど・・・・。」

「それなら、学校へ行って花火見ようよ。二人だけでも良いじゃん。」


『二人だけでもって、ホント何考えてんだろう・・・・。』


二人で学校を目指して坂を上がり始めた。


「おい、トシロー!!ヨージとカオリが探してたぞ。」


クラスメイトのタカシ達だ。

男五人で歩いて、何が楽しいんだか・・・・。


「それで何だって言ってた?」

「何でも、急にトシローとヒロミがいなくなったって、

 二人きりになりたきゃ言えばいいのにって、

 いいダシに使われてたって、

 何も言わないから心配してんだって、カオリと二人で探してたぞ。

 トシローとヒロミ、やっぱそういう仲か。ニクイねぇ・・・・。」


『クソ〜、あいつら・・・・俺たちをダシにしてるくせに・・・・。』


「そうじゃねぇ、タマタマ逸れたんだよ!んで、奴等は?」

「学校の方も探してみるって、会ったら言っといてくれって言ってた。」

「そうか、サンキュー!」


「やっぱり、もう学校行ってるんだね。」

「あぁ、でもあいつら、完全に俺たちをダシにしてやがる・・・・。」

「しょうがないよ。ダシになりに来たんだから。私は全然平気だけどな。」

「そんならいいけど・・・・。」

「早く学校行って、ゆっくり花火見よ!」


ヒロミはそう言って、俺の腕に自分の腕を絡め、歩き出した。


時々上がる、花火の音を合図に立ち止まっては、

空を見上げ、花火を眺めた。


暗がりの中で、よく見えないヒロミの顔も、

花火が上がるたび、ピンクになったり、青になったりして浮かび上がる。

それがとても綺麗で、ドキドキした。


それよりも、時々腕に当たるヒロミの”胸のふくらみ”の感触は、

もっとドキドキした。


『もうアキラのことは気にしねぇ。絶対にヒロミを彼女にするんだ!』


そう考えながら、「このまま時間が止まればいいのに」って思った。


 


 











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