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1.始まり

運命の日。

全てが終わった日。

戦乙女達が力を解放し、戦乙女達が再び伝説として『消えた』日。

その日は私達にとっても最後の日となった。

華々しいとは言えない死を味わった同志達。

残された私達。

仲間を殺した人達。

様々な人が空を見上げ、様々なことを思ったのだろう。

何故、私達は争ったのだろう。

何故、私達は戦争という、消せない傷を残す癖に何も残らない事をやっていたのだろう。

何故、私達は戦う以外で解決をできなかったのだろう。

涙は流れない。

流れずとも、深い悲しみはさらに深く、深く奥底へと沈んでいくばかり。

もう、何も見えない。

何も感じない。

痛みも、戦場の血生臭い臭いも、隣にあったはずの彼の温もりも。

何もかも失った。

これはきっと報いなんだ。

沢山の人を殺して、沢山の人に傷を負わせて、沢山の人を悲しみの底へと突き落とした、報いなんだ。

私はここで終わる。

きっと、もうこの先なんてない。

この戦争が始まる前に言ってくれた彼の言葉。

『この戦いが終わって、きっと僕達は死ぬけど。それでも、もし生きていたら家族としてこの先を生きていこう』

素直に嬉しかった。

素直に悲しかった。

死にたくなかった。

なんで、私達はこんな場所で散らなければならないのだろう。

確かに人に言えないことは沢山してきた。

けれども、それでもこの先があってもいいと思う。

贅沢な事を言ってるのはわかってる。叶いっこないことだってわかっててもそう思ってしまう。

怖い。

この世から消えてしまうのが怖い。

昔とは違って私だって一人じゃない。

怖い。

怖い。

「死に、たく……ない、なぁ……。ロレ、ンス。愛、して……」





その日、ウェンスドリア帝国とアースドルト公国の戦争、後にゼウシース大戦と呼ばれる戦争の幕はウェンスドリア帝国に伝わる『伝説の戦乙女』達の力により終結した。

同時に、アースドルト公国に尽くしてきた少年少女達も、生涯を閉じた。

呪いにより全ての感覚を失い殺された少女。

弟の為に自ら命を絶った少年。

家族を自らの手で殺めてしまい、壊れた少年。

単独行動中に敵に見つかってしまい、辱めを受けた上に頭を潰されてしまった少女。

仲間達が死に行く中、自らも一緒に命を絶った少年。

アースドルト公国独立戦闘部隊『レイヴン』

戦争において活躍し『表面上は』華々しく散ったとされる彼ら。

この話は彼らの、ゼウシース大戦における悲しく、惨く、そして誰もが聞いても信じない真実の話である。




聖霊暦153年。8の月。

「ん……。ここは……?」

少年が目を覚ました。

「ここはアースドルト公国。緑豊かな大地と山や海がとても綺麗で、とても素晴らしい国よ」

少年のベッドの傍らに座る少女が誇らしげに説明をする。

「アースドルト、公国……?ボクは確か、ウェンスドリア帝国で……ッ!?」

何かを忘れている気がする。

何かはわからない。けれどもとても大事な……、そう弟について。

少年は正確な時間まではわからないが恐らくは数時間前までは弟と一緒に遊んでいたはずだ。年齢は2、3ぐらい離れているがとてもしっかりした弟で今から成長が楽しみだった。

「ボクは、何でここに……?」

少年が少女に対して首を傾げてそう問う。

少女は言い難そうに顔を上げたり下げたり、うーん……とうなっている。

やがて決心したかのように

「貴方はね、捨てられたの」

そう言った。




少女の名前はリアーデという。

少年の名前はロレンスという。

捨てられた、そう聞いたロレンスは「そっか……」といいそれっきり黙ってしまった。

リアーデはまずは自己紹介、と思ったのか黙るロレンスを見かねたのか自らの名前を名乗り、ロレンスにも名乗らせた。

捨てられて当然ではあっても、みてて辛いものがあったリアーデは落ち込むロレンスの手を引っ張り、城の中庭へと連れ出す。

「ねえ、リアーデ。ここは一体アースドルト公国のどこ、なの?」

「ここはアースドルト公国の中心にあるお城、アスタル城よ!」

「お、お城!?こんなところにいてボク達大丈夫なの!?こ、殺されたり、しない……?」

リーアデの袖に捕まり背に隠れるようにしてロレンスは辺りを見回す。これは説明をちゃんとしなかったリアーデも悪かったと反省する。

「貴方はね、このお城で3番目ぐらいに偉い人に拾われたのよ!私のことはみーんなよく知ってるから、私といれば大丈夫!」

それを聞くと少し安心したのか、まだ少し警戒心はあるのだろうがロレンスがリアーデに素直についてきてくれるようになった。

「ここなら丁度いいわね」

そういってリアーデは中庭の椅子へと腰を下ろす。

「う、お、おじゃまします……」

ロレンスもリアーデの無言の催促を受けやむなしとリアーデの隣へと腰を下ろした。

「私もね、ロレンスと同じように捨てられちゃったんだ」

リーアデはぽつぽつとそう切り出した。

もともと彼女はアースドルト公国の貴族の娘であった。

しかし、父親の重なる借金に呆れた母がまず家を出た。

次に父親の重なる酷い暴力により使用人が全員姿を消した。

最後に残ってしまったリアーデは父に酷い暴力や辱めを何度も受けた。

しかし彼女に逃げる場所はない。やがて父親も借金取りに追われリアーデを捨てて逃げていってしまった。リアーデは貴族の娘。こんなことになるなど予想だにしていなかったし、生きる為の手段など家にいる以外は知りもしなかった。だが彼女には帰る家はなくなってしまった。行く当てもなく路地裏へと迷い込み、通り魔に会い、殺されかけたところをロレンスを助けた人物と同じ人物がリアーデを助けたのだという。

彼女はそれを淡々とロレンスへと話した。

ロレンスはなんと言えばいいのかわからず困惑してしまう。何故彼女はボクにこんな話をしてきたのかと。

やがて何も言葉が出ず、まず動いたのは口ではなく手だった。

その手は迷うことなくリアーデの頭へと置かれ、優しくリアーデを撫でる。

「ロレンス……?」

「大丈夫、だよ。君もボクも、同じ仲間。これから一緒に頑張ろ?」

ロレンスのその言葉にリアーデは静かに涙を流した。

彼はまた困ったような表情をしたが、撫でることはやめなかった。

どのぐらいの時が過ぎたのかはわからないが、外は少し肌寒くなっていた。

「戻ろうか」

「うん、そうだね」

リアーデとロレンスは手を繋ぎ、先程ロレンスが目覚めた部屋へと戻る。

「おお、おかえり。リアーデに、ロレンスだったかな?」

部屋に戻ると見知らぬ老人が窓際に立っている。

当然初対面なロレンスは警戒し、無意識のうちにリアーデを背中へと隠そうとした。

「はっはっは。もうそこまで仲良くなるとはリアーデも、お主もやるのう」

「お、お爺様……。恥ずかしいのでやめてください……」

「おお、すまんすまん。わしは君を助けた名をティキーラという。皆はわしのことをティキ爺だの呼ぶ、お主も好きに呼ぶがよい」

にっこりとしわだらけの顔を精一杯に笑わせ、ティキーラはロレンスの頭を撫でる。

「……ティキさんはなんでボクを助けたの?」

死ぬかもしれなかった人間なのに。

口には出さないがそう付け加えておく。

「死ぬかもしれないからこそ、助けたのじゃよ」

「どういうこと?」

「なぁに、老人の気紛れだったと思っておくれ」

かっかっかとティキーラは楽しそうに笑い、再びロレンスの頭を優しく撫でた。

後にロレンスはこう思った。

『何故あの時捨てたままにしてくれなかったのかと』

かなり重い描写が多いですが、お付き合いいただけると幸いです。

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