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暗殺少女の理想郷  作者: 白銀悠一
第四章 友と友
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困惑と葛藤

 ゆらり、ゆらりと揺れる影。その足取りはあまりにもおぼつかず、まるで死人のようだ。

 しかし、別に死者が甦ったり、妙なウイルスでゾンビが発生したわけではない。

 月明かりが当たらず薄暗い廊下の中で、きらり、と煌めく黄金色。

 真っ白な肌をさらに蒼白に染めて歩くその少女は、狭間心だった。


「…………」


 先程の衝撃的展開から、未だ立ち直れずにいる。

 彼女の想い人である神崎直樹が、この国の国王であるフレッド王に、娘のフランと婚約? したのが約三十分前。

 単純に考えれば冗談の類であると言っていい。しかし、あくまで相手は一国の王である。

 そんな人物が何の考えなしに、娘と結婚しなさい、などと言うか?

 そう思うと、心は硬直化し、胸がずきずきとしてしまう。

 もはや心にとって、神崎直樹は何が何でも手中に収めたい人間だ。

 そう、単純に、好き。それ以上でもそれ以下でもない。

 きっかけは何だったか、それすらもどうでもいいくらい好きなのだ。


「…………」


 月光煌めく廊下に響く、黙る少女の息遣い。

 自分がどこに向かっていたのか、それすらも曖昧になってくる。


(とりあえず、炎達の所へ……)


 と思い至った心は、自分が逆方向へ向かっていることに気付き、踵を返した。

 そうだ。とりあえず炎の元へ。そして、ベッドで横に立っている水橋達の所に行き、この先どうすればいいか考えよう。

 まだ敵はいる。クイーンを発見出来ていない。今回の戦いは重要でこそあったが、クイーンを見つけないことには心の戦いは終わらない。

 それは炎も同じはずで、水橋達も同様だった。

 現状、世界の情勢を鑑みるに、クイーンは鍵なのだ。

 それが理想郷への扉を開く鍵なのか、暗黒郷への道しるべなのかは知らないが。

 それに、彼女には個人的な用もある。クイーンは心と炎の家族を殺した。


「……クイーン」


 幸運なことかは定かではないが、心は直樹からクイーンへと意識を割く事に成功した。

 静かな廊下に響くクイーンということば。女王という単語は、文字通り彼女が世界の女王であることを示す。

 炎を簡単に操ったように、彩香を遠隔操作したように、クイーンは世界を掌握出来る。

 ただ、そう考えると疑問が頭をもたげる。なぜ、今のような状態を創り上げているのか、と。

 やろうと思えば世界を掌握出来る。つまり、今はやっていないということだ。

 クイーンは間違いなく異能者側の人間だ。なのに、無能者を生かしている……いつでも殺せるのに。

 そこに心は疑問を感じずにいられない。

 やれないのか、やらないのか。せめてそれだけでもわかれば――。


「おっと、いたいた。病室から出ていたんだね」

「……っ!?」


 急に声を掛けられ、心は反射的に拳銃に手を伸ばす。

 だが、思いとどまった。声を掛けてきた主を知っていたからだ。


「フレッド……王」

「ああ、うん」


 スーツ姿の男は苦笑しつつ頷いた。

 思わず心は赤面する。危うく協力者、しかも国王に向けて銃を向ける所だった。

 それほど、彼女はクイーンについて考え込んでいた。


「懐かしいな」

「え? どういうことです?」


 意図が理解出来ない発言に心が困惑する。

 初対面である相手なのに、なぜ懐かしいと言ったのか。

 その疑問にフレッド王は笑いながら答えた。


「ああ、君のお父さんのことだよ。……初めてあった時、私は銃を向けられたのだ。お前は味方か? そう問い詰めるような口調でね」

「……え」


 かろうじで、言葉を返す。

 衝撃的な一言だった。ある意味、直樹とフランの婚約云々よりもなお。

 心にとって父親は、常に多忙で、仕事の合間を縫って自分と弟の相手をしてくれる、そんな人だった。

 その評価は、伯父である狭間京介に真実を教えられ、暗殺者として身をやつした今も変わらない。


「君のお父上には感謝しているよ。彼がいなければこの国は存在しなかった。……君はそっくりだね、その目が。……自分の信念は絶対に曲げないという瞳が」

「……そう、ですか」


 本当は色々聞きたいのに、言葉が発せない。

 はっきり言って心は父のことを全然知らない。家庭にいる父親の話はよく聞いたが、母親とのなれ初めや、なぜ理想郷を創ろうとしていたのか、そういう狭間信はざましんという男の全容を知りえなかった。

 自分にあるのは、伯父から学んだ暗殺技術と、理想郷を創り上げるという信念、生まれつき持っていた再生異能、そして、理想郷ユートピアという銃だけである。


「……うむ、それだけではないな。恋でもしてるのか? ああ、あの男もそうだったよ。丁度、恋をしていたようでね……」


 それは母親のことなのだろうか、と心は思ったが、ただ茫然のまま話を聞くだけだ。

 ふと、疑問が頭を巡る。今の言い方だと、母親もこの国に関わっていた?

 いや、心の母親である狭間愛は、事故で激しい運動が出来ない身体になっていたはずだ。

 いや……その事故こそが?


「うむ、昔話はこれくらいにしておこう。……君が望むなら、いつでもこの国に移り住んでいい。他の友達もな。子どもが戦う理由はないのだから。親が何を成そうとしていても」


 多忙の身であるフレッド王は言いたいことだけを言い、すぐに踵を返した。

 だが、心とて話したいことがある。しかし、引き留めるのも申し訳ない。

 そう思った彼女は、一番伝えたいことだけを口にした。


「子どもが戦う理由はありませんが、私には、成すべきこと……ううん、自分が行いたいことがあります」

「……そうか、そうだな。あの男の娘だし、頑固に決まっていた。……あ、そうそう、君が恋してると思われる神崎直樹君についてだが」

「っ!?」


 はっきりと物言いした心が慌てる。フレッド王はにやりと笑いながら、


「あれは本当にいい男だ。映像ログを見たが、娘を救い、さらに敵を殺さず、見事救ってみせた。あれ程の逸材はぜひとも婿に欲しい! だから、頑張って口説き落とさないと、本気でフランと婚約させてしまうぞ?」

「そ、それはこま――」

「ハハッ、ではな」


 自分が言いたいことだけを言い、フレッド王はそそくさとどこかへ向かってしまう。

 残された心は深いため息を吐くと、拳銃を手に取り、全体を見つめた。

 あらゆるセキリュティシステムに引っかからないとされるマシンピストル。その代償として視認性はあがっている。

 至近距離ならそこらのライフルなどにも負けを取らない破壊力。

 父親はどういう考えでこれを注文したのだろうか。


「父さん……」


 静かに、心は呟いた。父親に想いを馳せながら。




「あは……はは」


 病室に見舞いに来ていた炎は、ベッドに寝そべる四人の面々を見比べて苦笑した。

 無論、ここはアミカブル医療センターであり、新興中立国家アミカブル王国の最先端医療が詰まった最新鋭の病院である。

 その206号室。並べられたベッドに横たわる、青、黄色、緑、黒。

 もし、ここに自分が並べば信号機になるのかなぁ、などと考えつつ、炎はぎこちない笑みを崩さない。

 そう、四人である。左から、水橋、矢那、ノエル、そして。


「うっ……く……もうお嫁にいけない……」


 としくしく泣いている彩香がいた。

 心との無線を終えた後、彼女の身に“とても口には出せない”ことが起こったらしく、彩香は再起不能になっていた。

 特に恋している相手もいないというのに、お嫁にいけないと、五分に一回のペースで言っている。


(彩香ちゃんどうしたんだろう)


 ――興味あるなら教えますよ? 直接そのお身体に……ふふふ。


「うわっ!?」


 急に頭の中に声が響き、炎は飛び上がった。

 メンタルと部屋の隅で談笑していたはずの小羽田が、眩しく、そして邪悪な何かを感じさせる笑みを向けてくる。びっくりするほど肌がつやつやだ。

 彩香がああなった原因――それは確実に小羽田にある。

 故に、炎は後ずさりをしながら断った。


「い、いいよ。間に合ってるよ」

「そうですか。ちぇっ、残念。あ、そういえば――異能殺しさん公認で、久瑠実さんをお持ち帰りしていいって言われてたんですよねー」

「え? 何それ、私聞いてない……ひっ!?」


 ふふ、良いではないかー! と久瑠実に牙を向けた小羽田から顔を背け、炎はまず一番左にいる水橋のベッドに近づいた。


「水橋さん、お加減は……」

「……健斗から返信が返ってこない」

「え?」


 身体の調子を尋ねたはずなのに、中立派エージェントは青い瞳に涙を溜めながら、うぅ、と泣きそうになっている。

 ふと、手元に炎が目をやると、さっきからメール更新を連打しまくっているようだが、毎回、新規メールはありません、とのメッセージが表示されている。

 そのたびに、水橋は電波状態を確かめ、国境の問題で云々とぶつぶつ呟くのだ。


(だ、ダメかもしれないね……)


 炎は口に出さず、お医者さんを呼んだ方がいいかも、と思った。

 もちろん、呼ぶのは精神科である。


「うぅ……なぜだ。傷のせいで動けぬ間に決心を固めたというのに……なぜ……」

「あ、はは。頑張ってくださいね」


 これ以上は面倒臭くなる、と思った炎は、矢那のベッドに移動した。

 彼女は携帯ゲーム機を手に持ち歯を食いしばっている。……なぜそんなにボタンを連打しているんだろう?


「くっくそー! やっぱ音ゲーはクソゲーだわ!」

「そ、そんな……自分が出来ないからって」

「うるさいわね! 私が気持ちよく勝てないゲームは全てクソゲーよ! ああもうムカつく!!」


 電気娘は、ゲーマーの風上にもおけないことをのたまっている。

 いつゲーム機を自身の異能で黒焦げにしてもおかしくない状況だ。


(この人もお医者さん必要かも)


 炎は冷や汗を掻きつつ、隣のベッドへ移動した。

 今度はノエルである。彼女は空中をボーッと見上げて、


「なぜ……人は食事を摂るのでしょう」


 などとよくわからないことを言っている。


「え、えとノエルちゃん?」

「不思議です。栄養を取るだけなら、おいしさを考慮する必要はありません。栄養パック、健康促進サプリメント、補給ナノマシンを行使すればいいだけのこと。しかし、人は科学が発展した今でも食事を摂ります……なぜかわかりますか? ホムラ」


 唐突に振られ、戸惑う炎は首を振りわからないよアピールをした。

 するとノエルは待ってました、と言わんばかりの顔で、


「食事には力が備わっているからです。人の心を動かし、原動力となる力が。人は食事を食べ、あらゆる行動の活力とするのです。日本にもあるでしょう。腹が減っては戦が出来ぬ、ということわざが」

「……えっと、つまり?」

「お腹空きました。病院食だけでは全然足りぬのです。もっとごはんが食べたい! 点滴なんてものはこの世から消えてしまえばいいのです! 栄養は口でとってこそなのです!」


 と、点滴チューブを引きちぎらんばかりに叫ぶノエル。

 全員にお医者さんが必要かもと炎は思い、本気で呼ぶかどうか真剣に悩んだ。


「ミンナ、変わらないわね」

「メンタルちゃん……。正直、病室にいる時はもっとしんみりしててもいいと思うんだけどね……」

「アナタに言われたくないと思うけど」

「え?」

「いや、何でもない。姉さんは……?」

「うーん、どうだろう。直樹君といっしょにフランちゃん達のとこにいると思うけど」


 何か失礼なことを言われた気がしたが、炎はすぐに心の居場所を予想し答えた。

 メンタルはそう、と納得したように頷き、炎に耳打ちする。


「案外、ライバルが増えたりして」

「……え? え、ええっ!? それは困るよ!」


 最初こそ何を言われたかわからなかった炎だったが、すぐに思い当たり顔を真っ赤にして反論する。

 人はそんな簡単に恋しないよ! と言いかけた炎だったが、自分の例がある為、強く言い出せない。

 人というものはびっくりするほど簡単に恋へと落ちてしまう。流石にフランとノーシャがそうなるとは思えないが……。


「フッ冗談。……それに、直樹は姉さんのものだし」

「そっそれも困る……のかなぁ……」


 微妙な顔になる炎。

 困るという反面、親友の恋が実って嬉しい部分もある。

 恋って難しいね、などと恋愛論的なことを炎が口に出すと、メンタルがドアに向かい始めた。


「メンタルちゃん?」

「姉さんのところへ。炎はミンナのとこにいて」

「なら私も――」


 といっしょに炎が行きかけた時。


「ほ、炎ちゃん! 小羽田さんが恐いよ!」

「え、ええっ!!」


 突然久瑠実が背に隠れ、盾のようにされてしまう。前に立つ小羽田は、どこか息が荒く、ゆっくりと迫ってくる。

 う、と思わず身じろぎしてしまった炎。そこへ歩み寄る小羽田――だったが、


「あ、メンタルさん、どこかに行くなら付き添いますよ!」


 と急に方向転換し、メンタルについて行った。


「な、何だったの……」

「さぁ……?」


 各々が不満を吐き出す病室の中、炎と久瑠実が理解が追い付かず、呆けた。





「メンタルさん、メンタルさん!」

「……静かにして」


 周りをくるくる回っている小羽田に、メンタルが注意する。

 が、彼女はなかなか言う事を聞かない。自分の思うまま行動し、自分のしたいことをする。

 それが小羽田美紀であり、間違いなくメンタルが救った少女だ。


「そこまで嫌がってないくせに~いぇいいぇい!」

「…………」


 一瞬、助けなきゃよかったかしら、と本気で悩んだ。

 今日の小羽田はやけにご機嫌である。恐らく彩香にとても憚られることをしたからであろう。


「いいですね、いいですね! メンタルさんといれば、この味気ないうすぐら廊下も天の回廊のようです!」

「……それは良かったわね」


 どうも自分は好かれているらしい、ということはメンタルも実感していた。

 別にそのこと自体に不満はないが、こうもしつこいというのは問題だ。

 はぁ、とメンタルが嘆息すると、小羽田は彼女の前に立ち、くるりんとわざとらしく一回転した。


「フフフ、メンタルさん」

「なに」


 進路を妨害されて、メンタルが止まる。

 実際には、ただ邪魔をされたから止まったわけではない。彼女が何か言いたそうにしていたからだ。

 今までのようなどうでもいいことではなく、とても大事なことを。


「……はっきり言いましょう。あなたの姉……異能殺しさんはたぶん死にます」

「なっ……」


 大雑把に大事なことだと思っていたメンタルは、戦慄した。

 それは、とても、とても大事なことである。自分の人生と言ってもいい。

 姉は、狭間心は、メンタルにとって自分そのものと言っても過言ではない。


「……正直、今までが奇跡だったんです。クイーンに目を付けられてここまで生き残れた人間はそうそういない。たぶん、日本に帰ればクイーンが本気を出してくることでしょう」

「……そんな」


 メンタルは小羽田の文言を一蹴することも、鼻で笑うこともせず、蒼白な面持ちのまま、その言葉を噛み締めていた。

 とても苦すぎる。まるで自分に死刑が言い渡されたような衝撃。


「心さんなら何とか出来る、という幻想は捨ててください。……炎さん達も恐らく抗う術は持ちません。……神崎直樹にでさえも」

「……ワタシが命に代えても――」

「そういうの嫌ですね」


 と捨て身の宣言をしようとしたメンタルを、小羽田が首を振って否定する。


「もう無茶はやめましょう。素直に銃を捨て、この地でのんびりと暮らすんです。そうすれば、きっとクイーンも見逃すはず。……心さんを説得出来るのはたぶんあなただけですよ」

「……ッ……でも、姉さんは……理想郷は」

「ユートピアってどういうものかわかりますか?」


 狼狽するメンタルに、小羽田が問いかける。


「理想郷……」

「その答えも間違っていません。まぁ、理想郷の定義も色々曖昧ですがね。人によってどういう状況が理想なのかによっても変わりますし。……どうせ男共はハーレム囲ってうはうはとか、女しかいない世界に転移だとか……あ、女しかない世界なら私も――」

「小羽田」


 震える声で、先を促す。

 小羽田はコホンと申し訳なさそうに咳をして、


「まぁ、ここで言う理想郷は、狭間心さん達が目指すもの、です。……でも、ユートピアって元々、どこにも存在しない場所をさすんです」

「…………」

「つまり、そもそも願うこと自体が間違い。絵本の中の世界を羨んでも、私達はその中に入ることは出来ない。夢を見ることは可能ですが、夢は所詮夢です」

「でも……ッ! じゃあ、この国は」

「ちょっとしたバグ、みたいなものですかね。ゲームで言う所の」


 小羽田の口調は冷たい。メンタルはどうすればいいかわからず、黙って聞いていた。

 反論することも出来た。だが、反論してどうするのだろう。

 反論する意味を、メンタルは失っていた。姉の命がかかっている。


「不具合です。不具合はいつか修正されます。たまに修正されないこともありますが、そんなものは例外中の例外。基本的に修正されるものです。創り手の思うままに。まぁ、ここで言う創り手は神でもゲームプログラマーでもなく、クイーンですが」

「…………」


 返す言葉が思い浮かばない。

 絶句するメンタルを、小羽田が上目遣いで覗き込む。


「メンタルさん。これが本当にホントの、最後です。自分にとって何が最善なのか、よく考えてください。私は、あなた達が悲しむ顔を見たくないですから」


 小羽田はもう一度ターンし、


「では行きましょう! ふふ、フランさんとノーシャさんを何とかして抱き込めないか考えないと」


 シリアスから一転、とてもにこやかに先を歩き始めた。


「く……ワタシは――」


 どうすればいい?

 答えはたぶんわかっている。だが、その答えが本当に正しいのか判断するには、メンタルは幼すぎた。




 月明かりに立つ、暗い影。

 影色の戦闘服に身を包んだ男は、装備を確認すると、滑走路に用意された特注の戦闘機へと歩み始めた。

 そこへ、場に不釣合いな高級スーツを着込む男が歩んでくる。


「行くのか」

「……行きます。恐らく避けられない」

「第三次世界大戦……。皮肉なものだ。第一、第二と続き、その規模は大規模に拡大していく」

「食い止められなければ滅びます」


 シャドウは、装備品の類をコックピットに乗せながら、振り返らずに応えた。

 フレッド王は特に気にするそぶりも見せず、会話を続ける。


「この国か? 世界か?」

「両方です」


 荷物を搭載し終えたシャドウが、アミカブル国王と向き合った。


「私には人がそこまで愚かとは思えんのだが。異能者然り、無能者然り」

「……人はあなたが想像する以上に愚かで、学習しない生き物です。……それに、無能者も異能者も現状問題ではない。重要なのは数ではなく……ある、たったひとりの存在」


 珍しく言葉多いシャドウが、端末を取り出し、一つの画像を映し出す。

 国王がその画面を覗き込み、眉間にしわを寄せる。


「やはりこいつが存在するのか」

「ええ、確実に。……世界を破壊する存在……破壊の異能者……そして」


 端末を持つシャドウの手が激しく震える。これまた珍しいことだった。


「妹を殺した男」


 端末に写っている画像には、ひとりの男が写っていた。

 監視カメラが盗撮したであろう画像。そこには、男だけでなく、血だらけの少女も写っている。

 黒い髪を血で真っ赤に染めて、男は邪悪な笑みをこぼしていた。


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