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暗殺少女の理想郷  作者: 白銀悠一
第四章 友と友
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影対天使

 直樹はフランに連れてかれるまま、市街地の中を縦横無尽に走り回っていた。

 避難警報が発令されたようで、街中は無人だ。皆、避難場所に逃げたか家の中に籠っているかだろう。

 そして、それは非常に困ったことであった。なぜならば。


「何で自分の国なのに道に迷うんだよ!」


 直樹は見知らぬ相手に勢い余って怒鳴った。

 フランがムッとしたのを見てハッとしたが、よその土地で迷子予備軍になって興奮しているのだ。

 これくらいは許して欲しい。


「しゃーない! 私は近辺を訪問した事が皆無である!」

「なら何でこっち来たんだ、さっきの人達といっしょに逃げれば良かっただろ!?」


 直樹の正論に前を走っていたフランが立ち止まり、ぐぬぬ、と悔しがってる様子で彼を睨む。

 言い返せないのだ。


「止まるなって! 俺が悪かったからさ」


 流石に言い過ぎたか、と直樹は思い謝った。

 彼女もきっと混乱しているに違いない。直樹は自分が初めて異能事件に巻き込まれた時のことを思い出した。

 最初の最初、心による暗殺に巻き込まれた彼は、何の事情もわからずに犯人の手を引っ張って駆け出していたのだ。アレを思い返すと随分自分が情けなくなる。


(でも、情けなくなってる場合じゃないよな……)


 直樹は気を取り直し、フランに訊ねた。

 携帯のことを思い出したからだ。マップ機能を使えば一発で道がわかる。


「携帯のマップを使おう」

「……! 失念していただと」


 フランも自分の携帯に備わってる便利な機能をすっかり忘れていたようで、ズボンに収まってるはずの携帯を探し始めた。

 だが、いつも仕舞ってる場所に携帯がないようで、あちこちに手を突っ込む。

 その拍子に上着がめくれたので直樹はドキッとした。


「いや、落ち着け」

「ないない、なぜ? こんなことが起きていいわけがない……あ」

「何でない……って、あ」


 二人は同時に思い当たり、顔を見合わせる。

 少し前、直樹達がノーシャに撃墜された直後、フランは救急センターに電話を掛けようとし、復活した直樹にビビり……携帯を放り投げたのではなかったか。


「お前が悪いんだ……! お前が、謀ったからぁ!!」

「俺? 俺なの!? いや確かに説明してなかったけど……って一回それは謝っただろ!」


 ポカポカと叩いてきたフランを宥め、しかしどうすると直樹は頭を悩ませる。

 そしてすぐに思いついた。自分の携帯を使えばいいのだ。

 電話は何かしらの通信妨害かで繋がらなかったが、GPSは問題なく使えるはず。


「えーっと、アミカブルの周辺マップ……ってえ」


 と意気揚々とマップを開こうとした直樹は絶句した。


〈このマップは日本国内専用になります。海外には対応していません〉

 

 などとアプリがのたまったからだ。

 そもそも、日本国内からの出国を日本政府は禁じている。暗黙の了解として。

 出られたら世界情勢というものがばれてしまうからだ。

 異能者と無能者はドンパチしてて、日本はなぜか立場を明確にしていない不安定な国である、ということが。

 だから、マップが海外に対応していなくても何の不思議もなかった。


「くっそどうすりゃ」

「寄越してくれると感謝します!」


 直樹が悩んでると、フランが彼の携帯をひったくった。ピッピッ、と慣れた手つきで操作する。


「……電話帳に名前が少々……ぼっち?」

「違う! 俺は俺を理解してくれる奴としか……ってそれはいいんだよ!」


 なぜか直樹の電話帳をチェックしてるフランに突っ込む。

 すると彼女は仕方ない、今ダウンロードしてる、と返した。


「我が国アミカブルには多くの国から人々が集っているの。で、大抵の国は通信設備に難ありなのです。故に、共有アプリをダウンロードすれば、携帯をアミカブル専用に変貌させることが可能なのだ」


 ちょっとドヤ顔で言うフラン。

 専用は仕様の言い間違いだよなと思いつつ、直樹は頷いた。


「わかった。それでルート検索を」

「その通り! これで私も王城へ帰る……っ、何でもありません……」


(自分の家のことを王城って……外国人で日本語不自由ってわかってないと相当痛いよな今の……)


 口を塞いだフランを横目で見つつ、率直な感想を心の中で述べながら、念のために周囲を警戒する。

 心がいたら警戒遅すぎとか突っ込まれるのだろうか。


 ――敵が暗殺者だった場合、あなたはもう既に術中に嵌ってる場合がある……。


 心のありがたい暗殺者トークを直樹は再び思い起こした。

 真面目に聞いておいてよかった、と思いつつ彼女のセリフを思い返す。


 ――でも、生きてるなら朗報。まだ相手は仕掛けてないか、あなたの周りにたくさんの罠を仕掛けているかのいずれか。

 相手が直接手を下すタイプだった場合……背後か、遠距離、頭上、突然正面から駆け出してくるかもしれない。

 でも、何かを媒介にして殺すタイプだった場合……。


 と、回想していた直樹は記憶探りを中断するはめになった。

 近くから、突然近くから爆発音が聞こえたからだ。


「えっ!?」

「くっ……狙いは俺達か!?」


 透視異能を発動させた直樹は周囲を見渡したが、怪しい人影も危険な罠も発見することが出来ない。

 直樹がまだ不慣れなため見つけられていないのかもしれないが。


 ――……罠にターゲットを誘導しようとする。爆発とか、火事とか、何かしらの騒ぎを起こして。

 危機感を感じた人間は単純。爆発があったら、反対方向へ逃げる。そこが安全だと信じて。

 でも、暗殺者と対峙する時、それは間違っている。相手の狙いがそれで、逃げた先が最も危険という場合がある。

 だから……。


「……っ! 来い!」

「うぇ!? なぜに爆発の方向へお向かいに!?」


 フランが直樹を錯乱したかのような眼差しで見つめる。しかし、直樹は取り合わない。

 心の教えを忠実に守り――危険を承知で爆発の方向へと走り出す。

 だが、彼は心の話をちゃんと聞いていなかった。

 聞いていたと思っていただけで、聞き漏らしていたのだ。

 その話をした後、心はこう言っていた。


 ――まぁ、爆発が起きただけでそう判断するのは危険だけど。今言ったのはただの例で、実際にはその逆のおびき出しもあるし。

 直樹は絶対判断しないで。……代わりに私が判断するから。


 そっぽを向いて顔を赤らめていた暗殺者の言葉は想い人に届いていない。

 直樹は敵がいる可能性がある場所に敵のターゲットである少女を引っ張って連れて行った。





「……ナニコレ」


 漆黒の翼をはためかせ、異能派の隠れ家に戻ったノーシャは茫然と呟いた。

 ターゲットを殺せば解放してやると確約していた異能派の拠点が、爆発で煌々と燃え盛っている。


「いったい……誰が……ッ!?」


 ノーシャの問いに答えるように轟く、フルオート射撃。

 盾の展開が間に合わなかった彼女は、両腕をクロスさせ弾丸を防いだ。


「なに……っ」

「…………」


 銃撃があった方向にノーシャが目をやると、影があった。

 影色の男。装備された影色の防護ヘルメット、同じように影色の戦闘スーツ……。

 一般的な軍人と装備に大差がないはずなのに、圧倒的な殺気と明確な意思。

 口元がスカーフに覆い隠され目元しか見えない。

 片手で持たれた小型のサブマシンガン。元来なら素人と失笑するはずのそれも、男の存在感が笑うことを赦さない。

 それに、よく見ると男は何の考えもなく右手でサブマシンガンを持っているわけではないようだ。

 左手に小型の端末が見え、ノーシャが訝しんだその瞬間。

 男が端末を操作した。

 ピッという音と共に何かが発射される音。そう、まるでミサイルのような何かが……。


「……ッ!?」


 ノーシャが後方を振り返ると、自分の背後から対空ランチャーから放たれたミサイルが迫って来ているのがわかった。

 いくら避難が完了しているからって街中でランチャーを撃つ!?

 と、相手の正気を疑ったノーシャだが、敵に考えを馳せている暇はない。

 翼から羽を射出し、ミサイルを迎撃する。市街地の郊外で、花火のように破裂するミサイル群。

 と、突然視界がぶれた。


「くあっ!?」


 悲鳴を上げつつ、高度を徐々に落とすノーシャ。

 慌てて目を凝らすと、先程立っていた別の位置から、男が対異能ライフルを構えている。

 ノーシャがミサイルに気を取られている間に、片翼を撃ち抜いたのだ。


「く……無能者のくせに!」


 ノーシャは両腕を変化させた。

 右手はマシンガンの銃身。左手はロケット砲の砲身。


「くたばれっ!!」


 掛け声と共に放たれる、無慈悲な破壊。

 男が立っていた場所は凶悪過ぎるマシンガンとランチャーの雨によりアスファルトは抉れ、底に埋まっていた土、さらにはその下にあった島を構成する鉄組まで露わにした。

 しかし、ノーシャに死体を確認する暇はない。

 再び現れるミサイル達。爆発する危険な鉄の鳥に、ノーシャはマシンガンを向けた。


「置き土産ってヤツ……ッ!?」


 てっきり死ぬ前に発射した死者の残り火、と思っていたノーシャの予想は裏切られる。

 残っていた右翼がもげた。誰にやられたか思考を巡らせるまでもない。


「まさか……あぁ!!」


 翼がもがれた天使は地に堕ちるのみ。

 ノーシャは地上へと落下していった。

 ボロボロにもがれた翼を消し、息荒くノーシャは男を見つめる。

 男が何者かはわかっている。男のコードネームはシャドウ。

 この国の同志達――異能派も無能派も口をそろえてあの男は危険だと言っていた。

 ただ、ある筋の情報によると、シャドウは無能者、つまりただの人間だという。

 異能殺しのように銃器を使用する異能者、というわけではない。

 とすれば、現状ノーシャの有利は揺るがない。

 ノーシャは自分のカタチを想い通りに変化させることが出来る異能者だ。

 戦闘能力はこちらが上。事実、銃器に頼るシャドウは脆い部分である翼を撃ち落とすぐらいしか出来ていない。

 だというのに――この、感情は何だ?

 ノーシャは戸惑っていた。異能殺しのように何らかのデバイスを装備しているわけではない。

 余裕も余裕。さっきの戦闘よりも楽なはず。

 しかし、ノーシャの恐れは消えない。

 コイツは――武装が貧弱だからこそ侮れない。

 直感がそう告げている。

 そもそも、今シャドウが爆発させた秘密基地にいた連中は、全員異能者だ。

 それを無能者が殲滅した。たった一人で。パワードスーツも装備せず。

 脳裏をよぎった疑問が、気づくと口を衝いていた。


「……お前は一体……」

「……俺はただの人間だ」


 ノーシャの問いにシャドウは低い声で答える。

 しばらく睨みあっていた二人だが、ここで止まっている暇はない、と判断したノーシャが先に動いた。

 背中を翼ではなく、ジェットパックに変化させ、左手を剣にする。

 そして、右腕のマシンガンを撃ちながら、シャドウに接近した。

 常人ならマシンガンを撃つだけで事足りる。だが、シャドウは回避し続けた。

 ノーシャの射撃位置を予測して、ステップを踏むように避け続ける。

 もちろん反撃も行う。サブマシンガンを再び構えてノーシャに直撃させてくる。


「――くっ」


 弾丸など取るに足らない。当たっても硬質化させ、自分をぴったり覆うように変化させた漆黒の鎧が全て防ぐ。

 防御するのは痛いからで致命傷を受けるからではない。

 なのに……怖い。怖い?


(……ッ! 有り得ない! 恐怖など感じる理由がない! ただの……人間! 何の力もない、ただの……!!)


 銃弾を左手で切り刻みつつ、シャドウに接近したノーシャは、右手も剣に変化させ、近接攻撃を行った。

 対してシャドウは右手でナイフを引き抜き応戦してくる。

 何のことはない。普遍的なナイフでの斬撃。

 相手は一本のナイフ、こちらは二本の手剣。勝機はこちらにあるはず。

 だが。


「……なぜ防げる!?」

「…………」


 シャドウは極限まで研ぎ澄まされた技巧で、ノーシャに急迫してくる。


「バカな……ッ」


 ノーシャは幻でも見ているような感覚に襲われた。

 有り得ない。百歩譲って技能は負けているとしよう。しかし、力ではこちらが上。

 攻撃力、殺傷力もこちらが高い。なのに――これはどういうことか。

 ノーシャの両手剣を受け流すだけでは飽き足らず隙をついて反撃してくる。


「…………!」

「くっうっ!?」


 シャドウの刺突が、ノーシャの腹に突き刺さる――。

 鉄壁の防御を持っているはずのノーシャは、咄嗟に回避行動を取った。

 取ってしまった。

 自身の粒子化――ひとつひとつ自分のカタチをバラバラにし、キラキラと怪しく光る漆黒の粒へと変化する。

 だが、それこそが……シャドウの狙いだった。

 無論、シャドウとて、敵の全貌を知りえるわけではない。

 異能者というのははっきり言ってデタラメだ。

 どれだけ傷ついても回復する再生異能や、環境に全く影響を与えず、自分の部位に太陽の如き輝きを纏う火炎異能など。

 無能者が銃を持って戦っているのがバカらしくなってくるほどの未知なる可能性を秘めている。

 しかし、無限の可能性を持っていても変わらない部分がある。

 それは……異能者も結局人である、ということだ。

 故に――勝機は十分にある。例え神のような異能を持っていたとしても、人であるならば。

 シャドウは再び背中に仕舞ったサブマシンガンを抜き、粒子に向かって引き金を引いた。

 ノーシャの欠片に大量の弾丸を浴びせる。


「…………ッッッ!?」


 シャドウから少し離れた場所で再構成されたノーシャは苦悶に身体を歪ませた。

 四肢のあちこちから血が零れている。

 内出血もしてるだろう。シャドウの狙い通りのダメージを彼女は受けていた。


(まさか……まんまと術中に嵌った? もう見抜かれていた? 粒子化中は防御出来ないってことを!?)


 そういった意味では、ノエルはノーシャ撃破まであと一歩という所だった。

 粒子化は、当たる直前の攻撃を防ぐことが出来る。だが、粒子化した直後の彼女は無防備なのだ。

 粒子状にバラバラになった彼女に、銃撃やその他兵器の攻撃は有効。

 故に彼女は一つに戻った時、身体中の至る所が赤く染まっている。

 行動に差し支えないが……ダメージ以上の衝撃をシャドウはノーシャに与えていた。


(コイツ……見切ったの? あたしを? あたしの特性を? だから強気だったの? もしかして全部罠だった……? ミサイルもこの爆発も全部?)


 ノーシャの思い込みは止まらない。

 この男に全て見透かされているのではないか。思考を読まれているのではないか。

 戦力差は歴然のはずなのに、ノーシャはシャドウを恐れてしまった。

 矢那やノエルに致命傷を与えた、変則的な変化と言う奥の手がまだ残っている。

 にも関わらず、ノーシャから戦意は失せていた。


(……ダメだ。コイツは異常だ……そもそも、コイツと戦う理由がない。支部が潰された今、別の支部と連絡を取る必要がある。あたしの目的はもう達してる……だから)


 逃げよう。

 ノーシャは背を向け、バーニアを吹かし、別の支部へ飛行していった。

 銃を構え逃走を見守っていたシャドウは銃を仕舞う。


「逃げたか」


 悔しがる素振りも見せず、次の目標地点を確かめた。




「停止! 緊急停止! 疲労困憊である!」

「悪いが止まってる場合は……! いつ敵が来るか……」


 と、直樹が心のアドバイスを勘違いしつつ、疲れをみせるフランと共に爆心地へと全力で走っていると、火が煙がもくもくと昇っている場所へ出た。

 黒焦げになり、剥き出し状態の鉄骨。

 元は豪華な邸宅だったであろう家屋が、炭色に染まっていた。


「……テロ」

「フラン……?」


 フランから放たれた不穏なワードに、直樹が顔を驚かせる。

 意識してなかったが、確かにこれはテロなのかもしれない、と彼は思った。

 そもそもこの類の騒動に巻き込まれた一番最初が爆発なので、直樹は慣れっこになっていたのだ。


「この国家には、敵意を募らせる敵対勢力が二種類ある……」

「異能派と無能派、だろ」

「よく心得ておりますね、日本人。その回答は正当。憎むべき外敵は、常日頃からこの国と、国民を狙っている。絶対許せん。……私の命なんてどうでもいいから、SP達は国民を……」

「何言ってんだ。お前だって大事だろ」


 生き残りがいないのかと周囲を見回しながら、直樹が怒りに声を震わせているフランに言う。


「え? 如何様な」

「だって、お前だって国民じゃないか。ってか、正直嫌なんだよ、人を殺すとか殺されるとか。そういうのはフィクションだけにしとこうぜっていつも思う。特にこういう異能ちからに目覚めてからは」

「あ、うん。そうであったな」


 フランが冷や汗を掻きながら頷いた。そして、不思議そうに訊いてくる。


「慣れっこなの? こういうこと」

「お互い様って感じだけど……。どうなんだろう。まぁ、初心者ではないかな」

「初心者ではない……?」

「なんか言い方間違ってる気がするけどさ。俺は最初自分が無能者だって思ってたし、それに知ってるか? 日本って世界がどうなってるか国民に説明してないんだ。だから、俺達は国が説明することをうのみにして生活してた。俺は好きな物買って、ニュースで異能者って怖いなとか思いながら平凡に過ごしてたよ」


 直樹はほんの数か月前の自分に思い馳せる。

 毎日学校に通い、悪友とだべって、宿題やら勉学に励んでいた日々。

 当時こそつまらない面倒だ、と思っていたが、あれが創られた現実ではなく、本当の現実であれば良かったのに、と思う。

 だが、そうでない気持ちもある。もし自分が異能に目覚めてなかったら、誰も助けられなかったのだから。


「……聞き及んでます。……日本だけでなく、世界のことちゃんと知ってる方が奇特」

「正直、この国いいよな。まだちょっとしか見てないけどさ。異能者も無能者もみんないっしょに暮してる。そりゃあ探せば粗も出てくるだろうけど……」

「我が国に粗なんてない! 殺すぞ!」

「……物騒な日本語は控えてくれ……。とにかく、住んでみたいな、って思った。……心達が目指してるのはきっとこんな国なんだな……」


 直樹が感慨深く呟くと、フランが反応した。


「ココロ?」

「ああ。異能者も無能者も……いっしょに暮らせる世界にしようと頑張ってる女の子だよ。……俺と同じ年だってのに、俺なんかより全然すごい奴だ。……他にも炎って奴がいて、こっちもすごくて……っていうか俺の周りみんなすごいんだよ。たまに自信を無くしかかるぐらいに。でも、頑張らなきゃなって思えてくる。月並みなセリフだけど、みんなが頑張ってるなら、俺も頑張らなきゃなって」


 とどこか臭いセリフを直樹が言うと、フランはクスッと笑い、


「……悪臭ひどい」

「……それは全力でバカにされてるのかな……?」


 直樹が苦笑すると、フランはううん、と首を振る。


「でも、いいこと。頑張るってのは意外と困難だった。……ココロって人はここに存在する?」

「……いるよ」


 過去形はミスなのかどうなのか。

 そう悩みつつ直樹はフランに答える。

 すると、彼女は微笑して、合流したい、と言った。


「如何様な人間か、私が見極めてくれるわ」

「なんかすごい悪役みたいな……。まぁいいや。とにかくここは誰も……」


 いないみたいだし、と続けようとした直樹は背後に気配を感じ、フランを庇うように振り向いた。


「誰だ……!?」

「……遅いな。それでは誰も守れない」


 そう言いながら一人の男が歩いてくる。全身影色の怪しい男。

 足、背中、左腰に銃を装備している姿を見て、直樹が警戒を露わにする。


「下がっ……」

「シャドウ!」


 下がってくれ! とフランに言ったはずが、彼女は前に駈け出した。

 反応から見るに知り合いのようだ。しかし、直樹は警戒を解く気にならなかった。


「助太刀ありがとう! そこにいる彼と私を……」

「申し訳ないが、お前達は二人で行動してくれ」

「なぜ? 私と直樹を保護……」

「今、敵を掃討している。そこの男なら……問題ないだろう」


 シャドウは値踏みするような視線を直樹に向けた。

 そして、行ってしまうのか!? と困惑するフランから背を向け歩き出す。

 だが、途中で立ち止まり、


「いい思想だ」


 と一言直樹に言い残し、どこかへと去って行く。


「何がなんだか……」

「私にも不明。シャドウは理解不能な部位が顕在している」


(お前の言葉もさっぱりわからん)


 とフランに突っ込んだ後、直樹は心達と合流するべく、携帯をフランに渡しルートガイド通りに移動し始めた。

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