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暗殺少女の理想郷  作者: 白銀悠一
第三章 異端狩り
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四つ目の決着

 ラファル改め、ノエルの視線はロベルトへと釘づけになっている。

 気取ったコートの内側から見える対異能物質サイキリウムで作られた強化鎧パワードアーマー

 腰に刺さったサーベルと、ノエルが持つ銃とは内装が異なる古式銃フリントロックピストル

 ロベルトは手に鐘を持っていた。クルセイダ―チルドレンなどというふざけた造語の子供達を操り、殺人を強要する鐘を。


「……ッ」


 あの鐘が鳴れば、ノエルはまた操られてしまうかもしれない。

 幼い頃からじっくり時間をかけてかけられた洗脳に、身を屈してしまうかもしれなかった。

 だが、ロベルトが長い年月でノエルにかけた呪いを解くために、話しかけ続けた男がいる。

 ロベルトが壊したノエルに、新しい在り方を提示した男。

 そして、それを引く継ぐ少年が、彼女の傍に立っている。


「おい、アンタがロベルトなのか」


 片腕を失ってなお、少年はノエルの前に立つ。

 自分の信念に従って。


「誰だ、お前は。いや、知っている。神崎直樹……世にも珍しい複写異能の持ち主。そして……クイーンのお気に入り」

「何のことだ?」


 直樹はロベルトの言葉の意味がわかりかねた。

 自分がクイーンのお気に入りなどということは聞いたことがない。


「知る必要はないし、知っても意味はないだろう。なぜなら、お前は死ぬのだから」


 パン。

 乾いた音が住宅街に響く。

 あまりにも早すぎた早撃ちに直樹は反応することが出来なかった。

 腹部から真っ赤な鮮血が流れ落ちる。


「うっぐぅ!!」

「ナオキ!」


 直樹は倒れそうになり、踏みとどまる。

 ノエルがボロボロの姿で彼を支えた。


「ナンバー2。よもやお前が裏切るとは思いもしなかったぞ。私の最高傑作は、私の予想をこうも裏切るのか」


 ロベルトは名残惜しそうな顔を作ると、瞬間、ノエルの目前へと移動した。


「くっ!!」


 ノエルは直樹を庇いつつ、サーベルで斬撃に応じる。

 しかし、ほぼ強化機能を失った鎧と、傷ついた身体での剣戟は彼女にすさまじい負担を与えていた。

 風の力で補強しなければ、追い付けないくらいだ。


「残念だ、残念だよノエル。お前を見つけた時、私は一級品を見つけたと思ったのだ」

「……ッ!? あなたは、私の本名を知っていたのですか!?」


 てっきり、ロベルトはノエルのことを知らないと思っていた。

 ノエルとて先程の戦闘、直樹による打撃によって自分の本名を思い出したのだ。


「ああ、知っているとも。お前の両親を殺したのは私だよ。最期まで喚いていた。私達の娘を、ノエルを殺さないで――。きゃんきゃん犬のようにな」

「――ッ!!」


 両親のことは考えないようにしていた。

 どうしようもないから。死者は生き返らないから。

 いや、自分を保つ為、その記憶から目を背けていたのかもしれない。

 今まで忘れていたのが嘘のように、ノエルの脳裏に悲鳴が轟く。

 母親の声。父親の声。

 どちらも最期までノエルのことを案じていた。

 緑髪の彼女を。彼女を孕まなければ、育てることがなければ、死ぬことはなかったかもしれないのに。


「ロベルト……ロベルト!!」

「お前を従順にするのは、実に簡単だった。幼い子どもほど簡単に染まる。食事、睡眠……人間としての当たり前に欲する機能を制限し、褒美として与えるだけで、子犬のように忠実になる。……いや、悪魔だったか」


 ロベルトの言葉が余計にノエルの神経を逆なでにする。

 今、ロベルトは人間だと言った。わかっていたのだ。

 ロベルトが悪魔と呼ぶ異能者も、結局人間であることを。

 それを知りながらも、ロベルトは異能者に異能者を殺させた。

 ノエルにジェームズを殺させたのだ。

 自分に人とは何か、人間とはこうあるべきだと説いてくれた恩人を。


「ロベルトォ!!」


 ノエルの威勢と剣幕は物凄い。

 しかし、その剣技はロベルトの方が圧倒的だった。

 どちらが悪魔なのか、わからなくなるほどに。

 有利か不利かで言えば、ノエルの方が有利なはずだった。

 彼女には風の異能がある。この街すら吹き飛ばせる驚異的な風が。

 だが、ロベルトはその発動を許さない。怒涛の如く繰り出される斬撃が、異能の発動を阻む。

 最初の一手で後れを取っていた。刻み込まれたロベルトへの畏怖が、ノエルの勝機を奪っている。

 ロベルトの姿を確認した時点でノエルが異能を最大出力で穿てば、直樹は銃弾を受けることもノエルが剣を振るう事もなかったというのに。

 いや、それすらもロベルトの算段だったのかもしれない。

 今回のタイミングでノエルが裏切るとはロベルトも予想していなかっただろうが、もしノエルが裏切った時の方策を、ずっと前から固めていたに違いない。


「ああ、悪魔よ。お前達の業はお前達自身の死を持って赦される」

「く――」


 ロベルトの剣がノエルの手を足を身体を徐々に切り刻んでいく。


「の、え……る……」


 倒れまいと踏ん張っている直樹の、苦しそうな声が響く。



 直樹の意識は朦朧としていた。

 踏ん張ってこそいるものの、目の前で行われている情景がどんどん遠ざかり、ぼやけている。

 急所こそ外れてはいたが、重傷である。

 元々左腕を斬り落とされた時点で大事だったのだ。

 直樹が平然としていたのは、弱い自分をみせまいと強がっていたに過ぎない。


「あ……みんな……」


 無論、彼には再生異能がある。

 心から借りた、どこか違和感を覚える力。

 現状でも死ぬことはない。心臓を貫かれたり、脳を破壊されることがなければ。

 だが、意識は遠のいていく。

 白い空間に吸い込まれる。


「ダメだ……ノエルが……」


 呟くが、辺りはどんどん白くなる。全てが真っ白。何色にも染まらない純白に上書きされていく。

 そんな白一色の場所に、別の色が現れる。

 黒。黒い髪の少女。

 後ろで髪を束ねている快活そうな少女。

 彼女はあらら、と驚いて、直樹に語りかけてくる。


「ダメ、ダメだよ神崎直樹。まだ君はここに来ちゃダメ」

「……どういう……」

「ここには彼女が来てから来るの。君だけが先に来てはダメ」

「誰の……ことだ……」


 直樹の問いかけに、少女は答えない。


「異能は想いの力だって、優ちゃんに聞いたかな?」


 少女の問いに直樹は首を振って否定する。


「あらそう。なら、胸に秘める想いを吐き出して。君は何をしたいのか、思い出してみて。じゃないと、君はいつまで立っても百点にならない」


 少女の言葉に直樹はかぶりを振る。


「百点なんかに……ならなくてもいい……俺には……何の力もない……けど……」

「けど?」


 直樹は言葉を続ける。自分の想いに正直に。


「誰かを……守りたい……例え……借りものの力でも……」


 直樹のことばに、少女は笑った。とても嬉しそうな笑みで。


「うん、良し! ごうかぁーく! ちょっとカッコ悪いけど……君はヒーロー足りえるよ。そんな君にアドバイス。想像して……創造するの。強い自分を、誰かを守れる自分を。君には思考する頭があって、行動に移せる身体がある。死んだ私とは違ってね」

「あ、あんたは……?」


 苦しみに耐え、捻りだした直樹の問いに、少女は元気いっぱいに答える。


「私は天塚結奈! かつてヒーローに憧れてた人だよ! ま、もう死んじゃったけど、今は別の役目があるし」

「べ、別の役目……」

「そう! 例えば……君にエールを送ったりね。頑張って! あなたを必要としている人がいることを忘れないで。そして、また会おうね。役目を果たすその時まで」


 急に空間が歪んで、軋み始める。

 世界の崩壊が始まった。


「どんな状況に陥っても、絶望しちゃダメ。絶望は人を奈落に突き落とす。でも、希望は人に光を与える。さぁ行って。まずは風の少女を助けて――」


 次の瞬間、直樹は現実に引き戻されていた。

 目の前で、どんどん切り刻まれていくノエル。

 ぐしゃり。

 肉が裂ける音と共に、ノエルの砕かれた鎧へと、ロベルトの剣吸い込まれた。


「ノエル!!」


 直樹はまた幻を見ているのかと思う。

 そして、左腕の痛みと、腹部の銃創が、幻でないことを教えた。

 今ある光景は現実だと。

 お前が気を失いかけたせいで、ノエルはロベルトの剣に串刺しにされた、と。


「――あ」

「私に教育されたのだ――。私に勝てるはずがないだろう?」


 呆けるノエルと、邪悪に笑うロベルト。

 二人はしばし見つめ合い――ノエルが血をまき散らしながら倒れた。


「ぁ……ぅ……」

「さぁ死ね」


 ロベルトが息絶え絶えなノエルにトドメを刺そうとする。

 だが、それを良しとする直樹ではなかった。


「やめろぉ!」

「……ふん」


 ロベルトはつまらなそうに笑うと、真っ直ぐ突っ込んできた直樹の右腕を、いとも簡単に斬り落とした。


「が……ぁ……!」

「これで腕はなくなった……次は足か?」


 言って、ロベルトは右肩から血が迸っている直樹の右足を撃ち抜く。

 次に、左足を剣で突き刺した。

 両腕両足が使い物にならなくなった直樹が、地面に倒れる。

 痛みが激しすぎて、気を失う暇もない直樹の顔に、サーベルの切っ先が向けられた。


「弱いな」

「くっ……」

「たまたま、他人の力を借りて調子に乗っていたようだが、それは本来の力ではあるまい。お前自身には何の力もない」


 言われるまでもないことだ。

 直樹とて重々承知している。口癖であるくらいだ。

 たまたま稀有な異能を持ち、たまたま強い味方がいた。

 偶然に偶然が重なっただけの存在。棚にぶつかったら、ぼた餅が落ちてきただけ。

 だが――それがなんだと言うのだ。

 直樹は拳を握る。

 斬り落とされたはずの右手で。


「なに?」


 流石のロベルトも驚いた。

 突然、神崎直樹の両腕が生えたからだ。


「そうだよ。俺には何の力もない! でもな、ズルでもなんでもいいんだ! 人の命を救えるならっ!!」


 直樹は複数の異能を一気に発動させる。

 炎、再生、水、透明、雷。

 燃えて治し冷えて消えて光った。


「そんなものは予測済みだ!」


 ロベルトは消失して殴りかかる直樹の拳を避ける。

 透明になろうと、どれだけ攻撃力を高めようと、狙いは決まっている。

 故に、いとも簡単に回避出来る。

 そして、フルオートの弾丸に晒された。


「むっ!?」

「間に合った!」


 上空からの援護射撃。

 戻ってきた炎と、彼女に掴まっている心による攻撃だ。

 しかし、制圧射撃そんなものにやられるロベルトではない。

 サーベルで弾きつつ、迎撃の為に銃を構える。

 そして、すぐにピストルが使い物にならなくなったことを悟った。

 狙撃により銃身に穴が空いたからだ。


「何者!? ……いや、失敗作か」


 ロベルトは即座に理解した。

 自分の死角から、さらに乱戦時への狙撃。

 それが効果的であると分析出来るのは、自分と対峙した白いパーカーの少女のみ。

 してやられた。

 だが、ロベルトはピストルを躊躇いなく捨て、腰に差してあったナイフを抜く。


「だが群れて戦うというのは弱者の戦法だ!」


 ロベルトは狙撃地点、そしてその後の移動位置を予測して短剣を投げた。

 強化鎧によって有り得ない射程を確保した短剣は、遥か遠くビルの屋上からスナイパーライフルを構えていたメンタルに直撃する。


『きゃ!』


 メンタルの悲鳴が、直樹達全員のイヤホンから出力された。


「あんた……!」


 ロベルトと対峙した直樹が怒りに顔を歪ませる。


「よもやこの程度の戦力差で勝った気になったとでも言うのか?」

「味方は全滅してるのよ?」


 降り立った心が、静かな怒りを感じさせつつ言う。

 怒っているのだ。外道な手を使い子供を戦わせたロベルトに。

 妹を傷付けた騎士道精神の欠片もない騎士に。


「味方? もとより奴らなど味方ではない……。ただの駒だ」


 ロベルトは笑い、


「私一人でも十分だったが……一人では手間がかかる。だから、利用したのだ。味方など最初からおらん。私の戦力は私一人のみだ。……それで十分なのだ」


 余裕と自信を見せる。

 だが、ロベルトは失念していた。

 メンタルの悲鳴は“全員”に出力されていたのだ。


「じゃ、こういうのはどうかしら!?」


 突如、轟く雷鳴。

 ロベルトの立つ位置に向けて、雷が落ちた。


「ほう、これは!」


 しかし、それでもロベルトは倒せない。

 ロベルトは雷が鳴り自分を丸焦げにする直前に、サーベルを上空へ放り投げた。

 避雷針代わりとなったサーベルが、矢那の電撃を食い止める。

 拡散した電撃が、街の中に落ち家や建物を焦がした。


「マジで? しぶといわね」

「矢那さん!」


 炎が顔を輝かせる。

 矢那が壁に背をついて立っていた。


「気名田矢那、か。もう傷は治ったのか」

「結構前からあんたの道具は裏切っていたみたいよ? 明らかに私を殺せたのに手加減してたし」


 矢那は不敵に笑う。

 その笑みは、ロベルトのものとは違い直樹達を安心させた。


「なるほど」


 ロベルトは納得したように頷き、


「で、それで勝ったつもりなのか?」

「当然。あんたもう武器ないでしょ?」


 ロベルトのサーベルは、先程雷撃を受け黒焦げになっている。

 が。


「何を言っている? あるではないか」

「なに……っ!?」


 ロベルトは答えると、拳を振り上げ矢那へ迫った。


「私自身が武器である!」

「あんたバカなの!?」


 矢那は雷を飛ばし迎撃するが、それがなんだ、と言わんばかりにロベルトは真っ直ぐ突撃してくる。

 さらに驚愕すべきことに、ロベルトは矢那の雷を殴り消した。

 これには、矢那も一瞬我を忘れそうになった。

 ロベルトは確かに身体能力を向上させる強化鎧を身に着けている。

 だが、所詮はパワードスーツの類。いかに防御力が高まっているとはいえ、直接雷を受ければそのダメージは内部にも響く。


(どういう身体してんのよ!)


 矢那は心の中で言いつつ、雷を両手に纏わせて迎え打つ。

 拳と拳。機械と雷に覆われた二つの凶器が交差する。

 ロベルトと矢那は全く同じ動作をした。

 右手で相手を殴り、左腕で防御するというもの。

 だが……。


「痛そうだな」

「……っ……そんなことないわ」


 矢那は顔をしかめつつ応えた。

 恐らく、左腕にヒビが入っている。

 そしてそれはロベルトも同じはずだった。

 なのになぜ、この男は平然としている?


「私自身が剣であり、銃。ならば、痛みなど無意味なものだ。違うか?」

「ぐぁ!!」


 ロベルトは当然と言わんばかりに笑い、矢那を蹴り飛ばした。


「矢那さん!」


 炎の悲鳴。そして、火が噴く音。

 炎は異能を発動させ、ロベルトに接近していた。

 その少し後ろを心がデバイスを起動させ、走る。

 そんな二人の動きを見た直樹も、ロベルトへと突撃した。

 三方向からの攻撃。しかし、ロベルトは余裕だった。


「子供の考えそうなことだ」


 ロベルトは順序良く攻撃を対処する。

 まず、炎の炎拳を受け流し、蹴りを見舞った。


「うっ!?」

 

 次に、心の警棒を受け止め、右手に持っていた銃の銃身を掴み明後日の方向へ撃たせると、頭に向かって思いっきり頭突きする。


「うぐっ!?」


 最後に、心から奪った警棒を直樹へと振りかざす。


「ぐっ……この……!」

「ほう、根性をみせたか」


 直樹が警棒を受け止めて、ロベルトが感心する。

 ロベルトはこの少年について評価を改めていた。


「ただの雑魚ではなく……愚か者の雑魚か!」

「なっ……ごぉ!」


 ロベルトはあっさり警棒を離し、直樹の顔面を殴りつける。

 右、左、と交互に殴り、直樹をぼこぼこにしていった。


「私はお前達のような手合いが嫌いなのだよ。そう、特にお前がな」

「うっ……がっ……!!」

「大した努力もしてないくせに、出来もしない理想を思い描く。有り得ない幻想を見て、笑っている。無能者と異能者のわかり合い? 実にくだらない。そんなことを口にするのも恥ずかしい」

「おぁ……ぬぐっ……!!」

「さっさと目を覚ますことだ。そして死ね。愚かな夢を想像したその代償として」


 ロベルトが踏込み、現状発揮出来る最大威力の拳を、直樹に叩きつける。



 

 顔の形が変わるかと思うくらい殴られて、直樹は何度も気を失いそうになった。

 しかし、気を失う直前にまた殴り起こされる。そしてまた、気絶しそうになる。

 さっきから痛いな。痛すぎる。

 直樹は他人事のように思った。

 ロベルトは冗談抜きに強い。

 

(少なくともロベルトには、自分の考えを当てはめてやる? だいぶ厳しそうだなぁ)


 直樹は思わず諦めそうになる。

 打撃の合間に、みんなが見えた。

 苦しそうに倒れている矢那。まともに息が出来ず咳き込んでいる炎。

 直樹! と自分の傷も顧みず叫んでいる心。

 そして、今にも死にそうな、緑髪のノエル。


(厳しい? ああ、そうかもな。でも)


 直樹は目を見開いた。


「やるしかねえだろ!」

「なに!?」


 ロベルトの最大火力。

 頭をぐちゃぐちゃにしようとした拳を直樹は左手で受け止めた。

 壊れたプラモデルのように、ボロボロになる左腕。

 だが、構うものか。

 直樹は右手を振り上げる。


「無能者も異能者も争わない理想郷! 確かに絵空事かもしれない! でも、そうやって何もしなかったら何もかわんねーんだよ!」


 ロベルトの顔面をお返しとばかり打撃した。

 ぐ、とよろめくロベルトに、壊れた左腕を叩きつける。


「いいじゃねーかよ! 何でそうやって否定すんだ!」


 ぐちゃ! と血肉が散らばった。

 自分の血が自分に付着しても構わずに、直樹は攻撃を続ける。


「そんなおかしいことかよ! ただみんないっしょに過ごす、それだけのことが!」


 心達が志すものは、別に思想を一色に染めようというものではない。

 ただ、むのうしゃいのうしゃか、どちらかに塗りつぶされそうな画用紙セカイに、いろんな色を描こうとしているだけ。

 世界にはたくさんの人がいる。色んな人間がいる。

 それで、いいのだ。世界は単色ではなく、様々な色で彩られているのだから。


「無能者だけが生きる世界……? 異能者だけが生きる世界? そんな世界……俺は!!」

「おぁ……貴殿は!!」


 ロベルトが見下した相手に使うお前ではなく、それなりに評価出来る人間に対して言う貴殿という呼称を、直樹に使った。


「嫌だぁああああ!!」


 ロベルトの芯を打ち砕く、泥臭い、そして真っ直ぐな一撃。

 ロベルトが宙に浮き、近くの民家へ殴り飛ばされた。



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