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暗殺少女の理想郷  作者: 白銀悠一
第三章 異端狩り
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二つ、三つ目の決着

 直樹達がラファル=ノエルと戦っている間に、水橋と中立派、メンタル達は街に繰り出そうとする対異能部隊を奇襲していた。

 森から街に侵入する一歩手前で、食い止めることに成功したのだ。


「攻撃だ! 迎撃しろ!」


 兵員輸送のトラックから指揮官らしき男の怒号が聞こえる。

 坂道の真ん中に仕掛けられたトラップで行動不能に陥ったトラックの中から、アサルトライフルを所持した隊員達の群れが現れた。

 だが、先手を取られた時点で敗北は決まったようなものだ。

 中立派の持つハンドガンやサブマシンガンなどの軽量な銃器に、フル装備の自衛隊員がなす術もなく戦闘不能に追いやられていく。

 殺しはしない。どうせナノマシンの後処理で勝手に自壊を始めるからだ。


「戦車だー! 戦車で撃ち殺せ!」


 トラックやオフロードカーを踏み砕きながら強引に姿を現す戦車。

 喧しいキャタピラ音に顔をしかめながらも、水橋は水鉄砲を向けた。


「私の前ではただの的だぞ」


 シュッ! と子供が暑い日にじゃれて遊ぶ為の水鉄砲から、戦車をやすやすと射抜く水圧カッターが放出される。

 本来なら有り得ないこと。だが、それが有り得てしまうというのが異能というものだ。

 時代はどんどん変化していく。戦車などという旧世代の遺物では、異能者に太刀打ちすることは出来ない。

 それを知っていながらも、未だに常識に囚われていた戦車の乗員は、嘘だろという呟きと共に自分が駆る戦車が動かなくなったことを悟った。


(ここまで呆気ないとなるとこいつらは囮だな)


 大方、ロベルトは彼らを露払いに利用したに違いないと水橋は思っていた。

 ロベルトの実力は知らないが、流石に水橋達中立派全てを相手にするには分が悪いはず。

 邪魔者を一時的に隔離する囮として、対異能部隊を呼んだのだ。


「ちょっと可哀想な気もするが……。街中に戦車まで持ち込む連中に同情する必要もないか」


 生き残っていた兵士達も、中立派とメンタルズによっていとも簡単に倒されていく。

 水橋は奇襲に割いていた人員を早急に街へと戻すべく指示を出した。


「手の空いた者は街に戻れ! 残った人間は――」

「水橋……」


 名前を呼ばれ、水橋が振り向く。

 彼女の正面に、健斗が立っていた。


「私が片付ける」


 水橋は水鉄砲を健斗へと向けた。



 みずでっぽうアサルトライフルを向け合う、二人の男女――。

 オモチャに見えて、破壊力は圧倒的。実銃であるはずなのに、オモチャより劣る殺傷武器。

 異能者と無能者が、互いの獲物を黙って突きつけあう。

 かつては友のはずだった。

 だが、一人の女の死が二人の立場を変えた。

 天塚結奈。水橋の親友であり、健斗の想い人であった彼女の死が。


「やらなきゃならないか?」


 水橋が問う。健斗が首肯する。


「ああ、僕は君を――結奈を拒絶した異能者を、殺す」


 銃の威力であれば水橋は勝っていたが、絶体絶命な状況には変わりなかった。

 戦車すら射抜ける彼女の異能も、回避に転用することは出来ない。

 早撃ちで、健斗を、自分が恋焦がれた男を撃ち殺す。

 それしか、彼女が生き残る算段はなかった。

 そう。“かつて”の彼女ならば。


「健斗、君は私には勝てないぞ」

「ああ。でも、君も僕には勝てない。違うかい?」


 水橋は不敵な笑みで否定する。

 なぜなら、彼女には。


「生憎だが、私には結奈が付いている!」


 健斗がライフルの引き金を引き、フルオートの弾丸が水橋へと轟いた。

 だが、水橋はローラースケートでもするかのようにスーッと地面をスライド移動する。


「なにっ!?」


 健斗は本来ならばバースト撃ちが正しいことを知っていながらも、水橋を追尾して引き金を引き続けた。

 あまりにも予想外過ぎた動きだったからだ。

 だが、健斗が放った弾丸は全て外れ、水橋は故障したオフロードカーの裏に隠れた。


「健斗。君に刺された後……私は結奈に説教されたのさ。全く、死んでもなお私を振り回す、困った奴だ」


 水橋は障害物越しに水鉄砲を撃つ。紙のように車体に穴が空き、健斗の立つ位置へ水が奔った。

 すんでの所で避けた健斗は、グレネードを水橋がカバーする車へと投げる。

 轟音がした。オフロードカーは爆発と共に見るも無残な鉄くずへと姿を変える。


「やったか……?」


 ナイフで刺した時とは違う。

 人の手で行う刺突より、ピンを抜くだけで人を殺すには十分な爆発を行うグレネードならば一切の慈悲なく水橋を殺すことが出来るはずだった。

 だが、グレネードが捕らえたのは壊れていた車だけであり、肝心の水橋には全くダメージを与えてなかったことを健斗は知る。

 声が、したからだ。


「異能は想いの力、だそうだ。全くえらそうに……異能者としては私の方が先輩なんだぞ」


 声は上からした。

 健斗は反射的にアサルトライフルを向ける。

 

「だが、人間としてはアイツの方が出来ていた。これは間違いない。私を引っ張ってくれたのは、間違いなく結奈なのだから」

「な、んだ……」


 健斗は銃を撃つ事が出来ない。

 情に駆られた訳でも、弾が弾倉に入っていなかった訳でもない。

 リロードはグレネードを投げる前に済ませておいた。

 彼が引き金を引けなかったのは、水橋を八つ裂きにする事が出来なかったのは。

 水橋が泡に包まれて浮いているという、想定外の光景を目の当たりにしていたからだ。


「な……どういう……」

「単純な話さ。私は異能者でありながら、自分の可能性を狭めていた。凝り固まった頭で、あれは出来ないこれは出来ないと勝手に考えていたのさ」


 異能とは、すなわち想像力である。

 自分の力を持って何が出来るか。自分の素質を用いてどう発展させられるか。

 自分の持つ力を知り、それをどう動かすかは自分次第。

 しかし、生まれついての異能者でありながら、水橋は初歩的な部分で止まっていた。

 ただ、水鉄砲を介して水を飛ばすこと。それしか想像出来ないでいた。

 故に、弱かった。大した事が出来なかった。

 そんな状態で市民会館が火の手に包まれた時、彼女は直樹に説教したのだ。

 何を言っていたんだろうな私は、と彼女の中に羞恥が湧き起こる。


「我ながら、バカだったよ。もっと色々出来たのに」


 水橋は左手を健斗に掲げた。

 反射的に健斗が引き金を引く――が、銃口からは一発の弾丸も発せられなかった。

 健斗が慌てて銃を確認すると、銃口から銃身にかけて、水橋を包む泡のようなものが付着している。


「何をした!?」


 健斗の問いに、水橋がとぼける。


「何をした、か。何をしているんだろうな。……そうやって理論的に考えてしまうと、一気に力が落ちる。知る必要があるのはその銃が使い物にならなくなったという事実だけだ」

「そうか!」


 健斗は躊躇なくライフルを捨てると、拳銃を取り出し、撃った。

 だが、これまた有り得ない事に銃弾が泡を貫通しない。


「バカな……」

「健斗、君は無能者だからわからないかもしれないな。これは。ただ異常事態が起きているとしか認識出来ないだろう」


 水橋は図星を突いている。

 健斗はもう理解を放棄していた。

 対異能者戦の知識は脳内に存在する。

 常識に囚われず、一人一人効果的な戦術で始末しろ。

 文字に書くのは簡単だが、実行するのはとても難しい。

 シュウシュウと何かが溶け出すような音が辺りから聞こえてきた。

 隊員達の悲鳴も。ナノマシンによる自己崩壊が始まったのだ。

 もはやバレバレな部隊を、それでもなお存在しないと言い張る為の処置。

 米国にあったとされるデルタのように。

 いや、彼らより凄惨かつ非道だ。

 戦とは時の運。

 どれだけ準備をしようとも、負けるのはおかしいと言おうとも、勝つ時は勝ち、負ける時は負けるのだ。

 なのに、彼らには再戦の機会すら与えられない。

 当然ともいえば当然だ。彼らは代わりが利く。

 必要なのは命令に従い銃を撃つ兵士だ。訓練さえ積めば一定以上錬度のある兵士は確保出来る。

 多少のスペック差はあるかもしれないが、誤差の範囲だ。

 そんな誤差は異能者と戦う上で無意味。

 少なくとも、それが対異能部隊を取り仕切る日本における無能派の考えだった。


「でも、もはやしょうがないんだ。どれだけおかしい、ありえないと言ってもそこに存在しているのだから。私達に出来るのは、ただそれを認めて受け入れることだけだ」

「……でも、結奈は」

「結奈はこうも言っていた」


 水橋は、健斗の言葉を遮る。


「今、私達が想像する彼女は、私達の想像上の産物でしかない。健斗、君が想像する結奈は何を囁いた? 私の復讐をしてくれと言ったのか? 私が想像した結奈は、こう言った。異能者と無能者の争いを止めよう、と。ま、単純にそうしないと生き残れそうになかったというのもあるが」


 結奈が死んだ後、水橋は殺されそうになった。

 無能者達に。結奈を殺した人間達に。

 怒りのままに復讐をしようという考えが頭をよぎった。

 だが、実行する前に止まった。ある考えが湧いてきたからだ。

 結奈だったら、復讐するのだろうか。

 そんな考えが。

 答えは否。間違いようなく、否。

 結奈は復讐しない。それどころか、戦った相手に手を差し伸ばす。

 どこか異常だった。しかし、その異常さが水橋を救った。

 別の可能性を考えさせてくれたのだ。

 異能者も無能者も、仲良く暮らせるそんな社会を。


「……そう言えばまだ言ってなかったことがあるな」


 水橋はすぅ、と深呼吸した。

 何をする気だと健斗が訝しむ。

 もはやこれまで散々常識を打ち砕かれている。

 例えば突然海がここに発生してもおかしくはない状況だ。

 しかし、次に水橋が放った言葉は、どんな異能よりも理屈に欠いたことばだった。


「健斗。私は君が好きだ」

「なに……?」


 健斗は理解が遅れた。

 元々思考停止寸前だった所に、さらに理解不能なことばが投げかけられたのだ。


「ずっと好きだった。ああ、高校生の時からな。結奈にはよく相談に乗ってもらったよ」

「水橋……」


 けんとに告白するみずはしともに告白されたとも

 おかしさの塊だった。

 平時ならともかく、ここは戦場である。

 例え水橋が圧倒的優位に立っていたとしても、それは異常なことだった。

 いや、だからこそなのかもしれない。

 恋慕など、おかしいことなのだ。まともな理論が存在しないデタラメなもの。

 異能と同じだ。異能が異能法則で動いているのなら、恋愛だって恋愛法則で動いている。


「で、返事はどうなんだ?」


 水橋は降下し、地面に降り立って訊く。

 その顔はどこか緊張している。

 先程まで銃を向け合ったというのに、それ以上に緊張の面持ちなのだから、健斗は一周回って笑いが込み上げてきた。

 だが、彼の本来ある生真面目な性格は、ここで笑うことを良しとしなかった。

 真摯な表情で、水橋に想いを伝える。


「残念だけど……僕はまだ結奈が好きだよ」


 言って、健斗は拳銃を突きつけた。

 水橋は一瞬悲しそうな表情になり、水鉄砲を健斗へ向ける。


「そうか。なら口説き続けるしかないな」


 両者が引き金を引く。

 結果は言うまでもなく、水橋の勝利に終わった。

 水橋は勝利と敗北を同時に手にすることとなった。

 戦いの勝利と、恋愛での敗北を。

 


 アスファルトの上に寝転がる健斗の首筋に、水橋は注射を突き刺した。

 健斗の体内にあるナノマシンを中和する為の薬液だ。

 これで、健斗が自己崩壊することはない。


「……」


 水橋はその顔を複雑な表情で見つめる。

 フラれた。親友に負けた。

 わかっていてなお、胸に突き刺さる。

 水橋は健斗の頬を撫でた後、立ち上がった。

 積み重なった仕事を終わらせる為に。


「彩香君、そっちの状況はどうだ――?」





 彩香から見て、心の状態はあまりいいとは言えなかった。

 モニター越しに彼女が追いつめられてるのが視え、胸が締め付けられそうになる。


「心! 上!」

『……ちっ!』


 心は舌打ちと共にカバーしていた柱から飛び出した。

 ギリギリでの回避。狼少女の一撃は心の持っていたアサルトライフルを両断する。

 心は取り出した警棒とナイフで、少女と格闘。一瞬の隙をついて少女を気絶させた。


『これで三人目……』


 心が戦っている市街地では、先程気絶させた少女を含め三人の子供達が倒れている。

 誰一人死んではいない。心は誰も殺さなくなった暗殺者だからだ。

 だが、人を殺すよりも、人を殺さない方が困難である。

 人は、殺そうと思えば想像する以上にあっけなく殺せる。

 しかし、人を殺さないというのは相手に必要以上にダメージを与えてはいけない、ということだ。

 単純な強さでは、成すことが出来ない。

 加えて、心はデバイスを使用していない。というのも、いつ必要になるかわからないからだ。

 デバイスは心にとって頼みの綱である。その機動力と攻撃力は、いざという時の保険だった。


「大丈夫ですか、心さん!」


 突然、彩香の背後から声が掛かった。

 小羽田美紀。彩香と似ていて別な嗜好の持ち主。

 思念を用いて他人の思考を錯覚させるというゲス(彩香視点)の異能者が無理やりモニターを覗き込んでくる。

 隠れ家、と言えど心の家とは違い手狭だ。作業中に無理やり狭い部屋に入って来られると、いつも以上にイライラする。


「ちょっと離れててよ!」


 流石の美紀も気を使ったのか、彩香から離れる。

 彩香は集中して敵を探った。そして、気づく。


「心! 後ろに敵がいる!」


 彩香の悲痛な叫びに、心は振り向いた。

 瞬間、おぼろげだった敵が姿を現す。敵はカメレオンのように配色を変え擬態していたようだ。

 心は咄嗟に左手のナイフを投げ捨てると右手の警棒を左手で掴み、右袖から小型ピストルを取り出した。

 中身は非殺傷のゴム弾である。

 カメレオンの少年が持つナイフを警棒で受け止めると、腹部にゴム弾を撃ち込んだ。


『はぁ……はぁ……四人目……』


 心の息が荒い。ここまでの連戦は、心にとっても彩香にとっても初めてのことだった。

 いつも暗殺対象と暗殺者、そのサポートである自分の三人だけだったのだから。

 とりあえず、危機は去った――。

 安堵したのも束の間、相棒に新たな危機が迫っていることを彩香は知った。


「心! 上!」


 心の頭上に、剣を振りかざす騎士が迫っている。





「くっ! デバイス起動!」


 心にはデバイスを使う以外に手はなかった。

 相手は強化鎧パワードアーマーを着込んでいる。先手を取られれば通常状態で勝ち目はない。

 心が倍速で動き出した地点を騎士の剣が抉った。

 心はゴム弾を撃ちつつ騎士に接近する。

 しかし、先程のカメレオン少年や狼少女とは違ってがちがちの重装備である。

 ゴム弾の衝撃ではびくともしない。

 ならば、と心は小型ピストルを投げ捨て、レッグホルスターに差さっている金色を抜いた。

 理想郷ユートピア。マシンピストルのフルオートならば、衝撃は中身に伝わるはず。

 心は近くに捨ててあったナイフを警棒で騎士に向け打ち放った後、ユートピアの引き金を引いた。

 回転しながら飛んできたナイフを騎士は剣で払い、すぐさま襲いかかってきた銃弾を同じように払い続ける。

 だが、騎士はどんどん勢いを増す銃弾に後れを見せ始めた。

 それもそのはず。心は銃を撃ちながら接近していた。早送りで。

 だが、装弾数はロングマガジンで36発。撃ちっぱなしではすぐ弾が切れる。

 ユートピアの弾倉が尽きるのが先か、心が騎士に接近するのが先か。

 賭けは心の勝ちだった。

 騎士に接近した心は、騎士が銃弾にかまけている隙に、急所への一撃をお見舞いした。


「きゃあ!」


 少女の悲鳴。フルフェイスで中身が男か女かわからなかったが、今倒した騎士は少女のようだった。

 倒れる騎士を見て、心は怒りを隠せない。


(こんな子供に……人殺しを強要させる。赦せない……!)


 心はマガジンを排出し、予備弾倉を装填した。

 次の敵はどこだ、と周囲を見渡した彼女の耳に、相棒の悲鳴が聞こえる。


『心っ……!! したぁ!!』


 心の下方、コンクリートと融合していた新手が、彼女を殺そうと迫る。




(心ちゃん!)


 彩香から報告を受けて大至急戦地へと戻っていた炎は、親友の危機を見て取った。

 このままじゃ心ちゃんが危ない!

 炎は自然に体が動く。仲間を友達を助けるために。


「心ちゃーん!!」

「炎……っ! きゃ!」


 デバイス効果が切れ、新たにデバイスを起動させようとしていた心を、赤い塊が空中へさらう。


「……何するの!」

「えっ、いや、ピンチかなぁと思って……」


 心の口から出たのは感謝ではなく叱責だった。

 てっきり褒められると思っていた炎はしょんぼりする。

 心はその顔を見てう、と言葉に詰まるとそっぽを向きながら、


「ありがとう」


 ぼそりと言った。

 炎はパッと顔を輝かせて、うんうん! と元気を出す。


「じゃあ、さくっと片付けちゃおう!」

「……ええ。こんなこと終わりにしましょう」


 炎はぐるりと方向転換した。

 ロベルトに洗脳された子供達を救い、こんなことを終わりにするため、親友と共に戦場を飛翔する。



 決着はあっという間についた。

 炎が燃え盛る拳で敵を殴り、心が精確な射撃で撃ち倒した。

 心と炎のコンビネーションは、日々を重ねるに連れて強化されているように思える。

 初めてあった時、心は暗殺者として、草壁炎を異能省のスパイではないかと疑っていた。

 実際には警察の協力であった彼女。

 心はそんな彼女にあなたは敵だと、過度のデバイス使用によってボロボロの状態で言ったのだ。

 そう思うと笑えてくる。あの時の自分に未来を教えてやりたい。

 あなたが敵と言った相手は、すぐ親友になるよ、と。


「これで終わりかな?」


 炎が辺りを見渡して言う。

 心の暗殺者としての勘もここは終わりではないか、と告げていた。

 あくまで、“ここは”だが。


「彩香、聞こえる? ロベルトの動向について――」


 と訊いた心のイヤホンから、相棒の焦った声が響いた。


『まずい……直樹達のとこにいる!』

「えっ!? 直樹君今左腕ないのに!?」


 一瞬理解が及ばなかった。

 直樹の左腕がない?

 まさかまたあの男は無茶をしたのかという想いが心の頭をよぎったが、今はそれどころではないと判断し、炎の腕に掴まった。


「行って、炎!」

「うん!」


 赤い弾丸が空を駆ける。

 想い人を助ける為、二人分の想いをのせて。


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