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暗殺少女の理想郷  作者: 白銀悠一
第三章 異端狩り
57/129

新たな異能

「水橋さん……」「まさか、本当に」


 水橋が目を覚ました。

 起きないと思っていた矢那は驚き、直樹もびっくりした表情をしている。

 信頼していなかったわけではないし、すぐ起きるとも思っていたのだが、こうやって唐突に起きられると驚きを隠せない。


「どれくらい、寝ていた?」


 水橋が二人に尋ねてきた。

 直樹は三日程、と期間を教える。


「そうか。ちょっとした休息だったな」


 水橋は点滴を外し、病室のベッドから起き上がった。

 もう動ける状態である。傷はまだ痛むようだが、業務に支障はない。


「誰か来てくれ」


 水橋の呼びかけに応じて黒服がひとり現れた。

 ずっと矢那を尾行していたという監視員だ。

 それを見て矢那が微妙な表情になったが、水橋は構わず話を続けた。


「状況は?」

「無能派が動き出しています。ロベルトが中心となって戦力を集めている。近々この街に大規模攻撃があるかと」

「街を襲ってくるっていうのか!?」


 直樹が思わず声を荒げる。

 確かに、心が来てからというもの殺人事件が起きたり、小規模な戦闘があったりはした。

 だが、今度は明確に攻撃してくるという。

 元、ただの高校生と言えど聞き捨てならなかった。


「そうみたいだな。こちらも応戦しよう。安心してくれ。こういうのは得意だ」


 水橋が不敵な笑みを浮かべて言う。

 こういう時ばかりはその自信家に見える笑みも頼もしかった。

 そんな水橋を、自信過剰なはずの矢那が不安そうに見つめる。


「大丈夫なの……?」


 直樹は知らない。その問いには二つの意味があったことを。

 だが、水橋は承知していたようで、力強く頷いた。


「ああ、もう大丈夫だ。……君は、どうかな」


 矢那がどきっとしたかのような表情を浮かべる。

 そのやり取りにどんな意味があるのか直樹にはわからない。

 矢那が心に秘めている苦悩も、水橋の悪夢も、彼は感知していない。

 だから、ただ頼むしかない。矢那に、異能を複写させてくれ、と。


「矢那さん」

「わかってるわよ」


 矢那はしぶしぶ立ち上がった。


「じゃあ、後で連絡する」


 気を使ったのか水橋が病室を出て行く。

 二人残された直樹と矢那は話し始めた。


「これ、私から力がなくなったりしないわよね?」

「大丈夫です。ただ、異能の一部を複写させてもらうだけですから」


 直樹は答えて、手を伸ばす。

 矢那が握手しようとして、止まった。


「じゃあ、私をダウンさせたあのパンチは何?」

「あのパンチ……?」


 直樹は矢那と戦った時を思い出す。

 最後に、ふらつく矢那を倒した時のパンチだろうか。

 だが、矢那が訊いたのはそれより少し前のことだった。


「パワードスーツをぶっ壊したあれよ。……お気に入りだったのに」


 矢那が悲しそうに呟く。

 死にかけたメンタルを救った、直樹の一撃。

 そのことについて、矢那は問いを投げかけていた。


「あ、あれは無我夢中で……」


 しかし、訊かれても直樹は困る。

 直樹はただ約束を守っただけだ――みんなの力でみんなを守る、という。


「……そう」


 矢那は訝しげな視線を直樹に向けたが、ま、このバカが隠し事してるわけないわね、と納得して手を握った。

 瞬間、直樹の脳内に雷のイメージが流れ込んでくる。

 そして、水橋よりも自信過剰の性格が。


「……終わりました」


 試してみたいものの、ここは病院内だ。

 直樹は異能を発動せず、矢那から手を放した。


「私の異能は強力よ。これで勝ったも同然ね」


 矢那が自信満々に言う。

 なら何であなたはそこで寝ているんだ、とは言わなかった。

 矢那にも、きっと何かがある。

 異能者とは傷を負った存在なのかもしれない、と直樹は思い始めていた。

 心に殺された者達も、今身近にいる仲間達も、何らかの傷を負っている。

 そしてまた、無能者達も傷付いている。

 何ともやりきれない想いが直樹の中を巡ったが、すぐに気持ちを切り替えた。

 どんな理由があるにしろ、ロベルトのやり方は赦せない。

 ラファルは絶対に取り返す。

 直樹は包帯を外し始めた。


「……外しちゃっていいの?」

「もう大丈夫です。ラファルを助けに行かないと」

「ヒーローごっこ?」


 矢那の呆れ声。

 その言葉に直樹は首を横に振る。


「いや、俺はヒーローなんてものじゃないです。でも、自分の気持ちに嘘はつきたくない。人を助けたいという気持ちに。炎か、心あたりの想いが移っただけかもしれませんけど」

「そう。いってらっしゃい。生意気なガキ」


 傷が治っていない矢那は直樹に手を振った。

 直樹は、新しい異能と共に街へ繰り出していく。

 今度こそラファルを救う為に。例え誰かから力を借りただけの偽善者でも。




「炎か、心あたりの想い、ねぇ。ま、私の性格が移ったわけじゃないことは確かね」


 自嘲気味に独り言を言った矢那は、自分の腹部に巻いてある包帯を緩めた。

 傷口はほぼ塞がっている。動こうと思えば動けた。

 だが、矢那は肉体的理由ではなく精神的理由で動けずにいる。

 いや、それは逃げだ。矢那は自覚していた。

 逃げているのだ。自分自身から。

 直視することを、避けている。

 メンタルズに、自分と向き合うと約束した今も。


(結構、キツイなぁ……)


 今まで逃げていた過去に向き合うこと。

 現実を直視し、逃避を終えること。

 それはとても辛く険しい道だ。

 別に甘えていたわけではない。

 ただ、怠惰で逃げていたわけでもない。

 そうしなければ、自分を保てなかった。壊れてしまう恐れがあった。

 だから、逃げていた。自信過剰に振る舞っていた。

 だが、もう逃げられない。背水の陣だ。自分で自分を追いつめた。

 

 ――本当に?


 疑問が頭をもたげる。

 本当に自分は逃げられないのか?

 いや、そんなことはない。この病室から逃げ出してしまえばいい。

 妨害してくる奴は一人残らず殺す。異能派には捕虜になっていたとでも言えばいい。

 そうだ。まだ逃げられる。私はずっと逃げていられる。

 そんな風に矢那がまた過去との逃亡生活を続けようとした時。

 無垢なる者達が、声を掛けた。


「矢那」

「……来てたの」


 矢那は気づくと、九人のメンタル達に囲まれていた。

 これほどメンタルというコードネームを皮肉に思ったことはない。

 精神メンタルに囲まれて、矢那は逃げ出せなくなった。


「泣いて、どうぞ」

「何それ」


 矢那は呆れ、笑みを浮かべる。

 メンタル達はじっと矢那を見つめていた。

 突然、生暖かいものが頬を伝う。

 気づくと、矢那は泣いていた。

 逃げ出せなくなった恐怖に。

 襲いかかってくる現実に。


「……私は……今まで何をして……っ」


 無垢なる者達に見守られながら、矢那はひたすら泣き続けた。




 一方で、塗りつぶされた無垢達に囲まれた者がいる。

 コートの内側に甲冑を隠す男が、死んだような瞳をした少年少女達を見下ろしていた。

 その中には緑髪の少女もいる。


「これくらいで十分だろう。これでも過剰ではあるがな」


 ロベルトは室内に整列している十人の子供達をひとりひとり確認するように歩いた。

 ナンバー2やナンバー5のような初期ナンバーではない。

 100代、200代のものまでいる。

 10歳になったばかりかという子供もいた。

 だが、ロベルトの瞳は冷酷だ。

 それもそのはず。彼は子供達を人として見ていない。

 異能という自然とは違う、邪の力を持った悪魔として見ている。

 しかし、悪魔も使いようだ、とロベルトは思う。

 上手く利用すれば――悪魔同士で潰し合ってくれる。


「お待たせしました」

「沖合健斗……対異能部隊はどうなっている?」

「五十名程、集めました」


 十分過ぎる数だ。ロベルトは満足げに頷いた。

 あぁ……囮としては十分過ぎる。


「良し。明日、一斉攻撃を仕掛ける」

「今からではないのですか」


 ナンバー2、もといラファルが口を開く。


「そうだ。我々は準備万端であるが、対異能部隊はまだだろう。迫撃砲の設置は済んだのか?」


 ロベルトが訊くと、健斗は否定した。


「まだです。今夜には。夜襲も可能ですが……」

「それはダメだ。華がない。戦場には華が必要なのだ……」


 そうですか、と答えたが、健斗は納得した様子ではない。

 夜襲で一気に片付けた方が民間人に被害が出なくて済む。

 だが、ロベルトの考えは違う。

 異端狩りで死ぬということは名誉だ。

 悲しむことも憤ることも必要ない。


「貴殿はまだ経験が足りない。悪魔を殺すことに犠牲はつきものだ。なら、何も気に病む必要はあるまい……」


 そう言って、ロベルトは邪悪に笑う。

 

 

 その笑みを見て健斗は、そこの子供達よりもロベルトの方が悪魔に見えた。

 だが、止まらない。

 止まる必要もない。

 健斗は、異能者達に復讐する。

 立派に彼らについて考えていた結奈を殺した奴らを。

 その先には、平和な世界があるはずだ。

 結奈が目指したはずの理想郷が。


 ――それじゃあ、人を殺しちゃうよ。


 不意に頭の中によみがえった結奈の声が、健斗の心を抉る。

 だが、と彼は頭を振った。


(結奈……僕は先に進む。君に何を思われようとも)





「あのあの、そんなことしてないで私といいことをしましょうよー」

「静かにして」


 メンタルが小羽田に文句を言う。

 彼女達は心の隠れ家に来ていた。

 ロベルト達をどうやって対処すればいいか思案している所である。

 本来ならば姉達と共に行うのだが、心はいつも彩香と作戦を立てていた。

 だが、彩香と小羽田を同じ部屋に入れておくととても面倒なことになる。

 故に、今はメンタルの部屋で二人きりである。

 一つ屋根の下もなかなか危険なのだが、小羽田はどうしてもついて行くと言って訊かなかった。


「心さんは取られちゃいましたからねー。妹さんは私が頂いていくのです」


 そんな事をのたまいている。

 炎も姉の部屋にいたが、きゃー炎さーんとか言って小羽田が抱き着きついた為に、隔離中だ。

 心や自分、彩香ならば問題ないだろうが、炎なら思念に錯覚させられそうだからでもある。

 狙撃地点やトラップ設置場所を、監視ネットワークを通して探しているメンタルだったが、小羽田がうるさすぎて集中出来ない。


「うるさい」

「ホテル代は私が出しますから! それに、援助しますよぉ。お金、ないんでしょう?」

「……ッ」


 その提案はメンタルにとって少し魅力的だった。

 姉は最近金がないと嘆いている。家計が火の車だと。

 それも当然で、働いてもいないのに二人を養っているからだ。

 日常生活に必要な出費はもちろん、本業の暗殺業ボランティアの為に莫大な金が必要となる。

 人を殺さなくなったので暗殺と呼んでいいかは微妙ではあるが。

 加えて、彩香が趣味であるCDやら本、グッズなどを大量購入している。

 メンタルは見たのだ。たまたま、夜遅く水を飲みに台所へ降り立った時、せっせと封筒か何かで内職を行う姉の姿を……。


「五万でどうでしょう……? その身を私に委ねるだけで五万……」


 財布から万札を取り出して、プラプラと広げる小羽田。

 クローンとして生まれた故、性に関心がないわけではないし、姉の為になるのなら……。

 メンタルは静かに小羽田に訊く。


「本当に? 小羽田」

「小羽田なんて呼ばないでください。美紀、と名前で……」

「こぉーら何してんの!」


 と顔を赤らめた小羽田美紀の言葉は、下階からの怒鳴り声で掻き消された。


「げっ邪魔しないでください!」

「売春! 無垢な少女に売春を持ちかける悪女がここにいますよー!」


 透視して全てを盗み見ていたのか、彩香が大声で叫ぶ。

 ライバルの妨害にぐぬぬ、と歯ぎしりする美紀は、いつの間にか背後に立っている心の殺気に身を竦ませる。


「メンタルに手を出すな、と警告したはず」

「ひ、ひいごめんなさい!」


 美紀は目じりに涙を溜め、本気で謝った。



 後から来た炎の、それくらいにしてあげようよ、という一言で、美紀の謝罪は終わった。

 その直後、炎さんありがとう! 結婚して! などと言ってまた土下座が始まりそうになったが。


「しかし、これではまともに作戦を立てられないわね」


 心が嘆息混じりに呟いき、呆れた。

 無能派が大規模な戦力を持って、街を“壊し”にかかることは予想出来ている。

 彼らにとって重要なのは異能者を殺すことであり、何の価値もない民間人が死のうと関係ないのだ。

 しかし、心達にとっては違う。

 異能者も無能者も、分け隔てなく平等に扱う彼女達にとって、その破壊は看過出来ないものだ。

 だから、逃げるという選択肢はない。

 そして、殺す、という選択肢も消失済み。

 殺さず生かして、相手を倒す。

 そんな困難な、しかしある意味至高な方法を取らざるを得ない。

 それを成す為には入念に練った作戦が必要不可欠だ。

 だからこそ、先程から会議を行っているのだが……。


「面倒くさいこと考えなくても大丈夫ですよ。私の嫁……じゃないや。あなた達の戦闘力は彼らを十分にしのいでいます」

「……でも、私はラファルに負けた……」


 心が苦々しげに漏らす。

 いとも簡単に負けた。自分は本当に異能殺しなどと呼ばれていたのかと疑いたくなるほどに。

 しかも、炎とメンタルという強力な仲間と共に挑んだのだ。

 それでも勝てないとなると、戦い慣れしている心でも自信の喪失は致し方ない。

 それに、大事な人が殺されかけて、彼女らしからぬ――ある意味本来の彼女らしい――葛藤に、心が惑わされている。


「そりゃあ、ラファルっていう人には負けたかもしれませんよ? でも、そもそもずっと勝ち続ける人間なんていないのです。強い人でも負けます。一度や二度負けたからと言って弱いわけでもない」

「私は一度や二度じゃないけどね……」


 炎が今までの戦闘結果を思い出したのか暗い表情を浮かべる。

 炎はずっと負けっぱなしだ。それに足を引っ張ってもいる。

 異能スペック上ではかなり強いはずなのに、勝てる相手は銃を持った無能者ばかりだ。

 私って、もしかしてすごい弱いのかな。

 などという想いに囚われ始めても仕方ないことだった。


「炎さんの半分は優しさで出来てますから。手加減しているのですから、負けてもしょうがないです」


 頭痛薬のCMみたいなことを言われ苦笑する炎。

 だが、少し元気が出てきたようだ。

 同じように心も、めげている場合ではないと頭を切り替える。


「もちろん、メンタルさんもです」

「ワタシも?」


 自分が言われるとは予想していなかったメンタルが、驚いた顔をした。

 美紀はどこか得意げにメンタルのいい部分を上げていく。


「メンタルさんは純粋なのです。姉とそして自分を受け入れてくれた人達を守ろうと頑張っている。でも、少し頑張り過ぎですね。だから、空回りする。もっと周りに頼っていいのですよ」


 美紀は笑顔で白い少女に告げた。

 メンタルはあったかい気持ちになり、ありがとうと感謝する。


「ええ、ですからね、私が手取り足取り、大人の階段を昇らせひぅ!?」


 せっかくいい感じだったのに、余計な事を言い始めた美紀に心が無言で警棒を突きつける。

 少々やり過ぎかもしれないが、妹の貞操の危機である。この程度、致し方ない。


「じょ、冗談ですよもう」


 ハハハ、ヤダなーと冷や汗を掻きながら頭を掻く美紀。

 そんな彼女に向けて、彩香が少し照れながら褒めた。


「い、意外と良いこと言うじゃない……」


 と、あまり人を褒めない彩香の珍しい賛辞を、


「は? 話しかけないでくれます?」


 という美紀の一言がぶち壊した。


「なぁー! なぁー!? せっかく人が褒めたのに!?」

「腐女子の言葉なんか聞いたら私の耳が腐ってしまいます。あーやだやだ。イヤホンしよ」


 イヤホンをして音楽まで聞き始めた美紀に、彩香は激怒。

 ミュージックプレイヤーを奪い取り、メンタルの部屋で取っ組み合いを始めた。

 すると、その拍子に棚の上にあった段ボールが落ち、美紀のマウントを取っていた彩香の後頭部を直撃。

 その勢いのまま物凄い頭突きを美紀にかまして、二人とも目をぐるぐる回して気絶した。


「あ、ワタシのコレクション……」

「大丈夫、クッションがあったから傷ついては……何これ」


 心が段ボールからこぼれ落ちた本を一冊手に取って固まった。

 実に肌色が多い本で、確実に未成年が買ってはいけない物だ。


「コレクション」

「……え」

「コレクション」


 大事なことなのかは不明だが、メンタルは二回言う。

 心は頭が痛くなった。

 腐女子と同居してる時点で辛いものがあるのに、新しく出来た義妹はエロ本集めが趣味らしい。

 しかし、メンタルはクローンであり生まれて間もない無垢な存在。

 性的興奮を感じる為ではなく、単純な生物学として興味があるはずだ。

 心はそうやって自分を納得させた。


「…………わぁ」

「炎?」

「っ!? いや、お片付けしててね!?」


 心が妹に頭を悩ませていると、炎がこそこそ本を読んでいた。

 髪の色と同じく、顔を真っ赤にさせている。片付けていると言っているが……。

 冷たい視線を向ける心に耐え切れなくなったのか、炎が乾いた笑いをしながら本を差し出す。


「い、いやこの本の人、心ちゃんに似ているなぁ、と」

「……っ!?」


 今度は心の顔が赤くなる番だった。

 確かに、自分に似ている人物が、男といかがわしいことを――。


「集めるの、大変だった」


 メンタルが後ろから言ってくる。

 心はぷるぷる震えだした。


「ちなみに、炎に似ている子のもある」

「えっ!? ……参考までに、どんな内容なのかな?」


 恐る恐る恥ずかしさに顔を赤らめながら訊ねる炎に、一切の羞恥心を感じさせないメンタルが答える。


「触手でいたるところを」

「聞かなきゃ良かったよ!」


 炎がすぐさま耳を塞いだ。

 ちなみに、姉さんと炎が触手に――などと、メンタルが流暢にどんな本があるかを語り出した所、とうとう心の許容限界を超えた。

 心が大声で、叫ぶ。


「これは全部、没収!」

「そ、そんな……姉さん!?」


 メンタルを甘やかしていたこころが、初めて厳しく接した瞬間だった。





『――という手筈だから。明日は朝早く起きてね』

「わかった。じゃあ、また明日」


 直樹は心に作戦概要を聞き終えると、電話を切った。

 今彼がいるのは炎との修行でだいぶお世話になった空地である。

 作戦など彼はどうせ立てられないのだし、心達にそういった小難しいことは丸投げして、矢那の異能を試していた。

 それだけでなく、異能の組み合わせも。

 矢那の雷は水橋の水と組み合わせることが出来た。


(後は、この力でラファルを助けて、みんなを守るだけだな)


 矢那の異能を発動させたせいもあってか、どうも自信に満ち溢れてしまう。

 劣化した異能とはいえ、この力。自信過剰になっても仕方ないなと直樹は思った。

 だが、戦場で油断は出来ない。

 自分だけでなく心達も危険に曝すことになる。

 それに、ラファルを救えなくなってしまう。

 だから。

 自分の持てる異能を最大限に発揮し。

 仲間との絆の力を惜しみなく使う。

 そして、みんなを守る。

 ひとりの力ではなく。

 みんなとのキズナで。


「やってやる……ラファル、待っててくれ!」


 直樹は矢那の異能を発動させ、雷を放出する。

 そんな直樹の背中を、優しいそよ風が包むように吹き抜けた。

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