悲劇と痛み
「ひどいな……これは」
凝固した大量の血痕と共に、アスファルトに斃れ伏している死体を見下ろして、水橋は独りごちた。
倒れた少女は、何の光も持たない瞳で天を仰いでいる。
剣が、胴体から突き刺さっていた。
まるで中世に戻ってしまったような錯覚を水橋はしている。
だが、すぐに現実に引き戻された。
浅木が声を掛けてきたからだ。
「身元は不明よ。死んだ原因は一発だろうけど」
「ああ。この剣だな……」
水橋と浅木は、銀色の剣を見つめた。
装飾品としても一級品なようで、博物館に飾っていても不思議はない。
とても、とても不思議な一品だ。
水橋はその剣を見てある考えに至り、中立派の同僚を呼んだ。
「この剣を解析してくれ。たぶん、対異能物質である、サイキリウムだろう」
未だその存在についてよくわかっていない金属であるサイキリウムは、銀色の素材である。
数十年前にある科学者が発見し、不思議な事に世界中から突然湧いて出たというモノ。
まるで、異能者の存在と連動しているような――。
「面倒ねぇ。何で私まで」
「暇なんだろう? 働け」
気怠そうにやってきた黄色髪の声で、水橋は思考を中断する。
矢那は、せっかくゲームしてたのになどとのたまいていたが、血まみれの少女を見て目つきが変わった。
「……この子、知ってるかも」
「なに?」
矢那は少女の顔を覗きこみ、呟く。
「名前は知らないけど。たぶん……」
「無能派、ですね。異能者という異端を狩る……聖騎士達」
「メンタルと……小羽田ね」
水橋と矢那、浅木の視線の先から二人の少女が歩いてきた。
メンタルと、思念の異能を持つ異能者、小羽田である。
「……昨日、小羽田はこの少女に襲撃された。それをワタシが助けた」
「はい。メンタルさんにまた助けられちゃいました。かっこいいなぁ、メンタルさん。もしよければいっしょに……」
と小羽田がきらきらした瞳でメンタルを見上げたが、彼女は無視した。
「敵は明らかに小羽田を狙っていた。明確な殺意を持って。でも……これは……」
この現状が何なのか、彼女の身に何が起こっているか把握できないメンタルは言いあぐねていた。
それもそのはず、惨死体となっている少女は、自身の甲冑に剣を突き刺した形で斃れている。
まるで――自害したような様子で。
「メンタル君の仕業じゃないとすると――」
「考えられる可能性は……」
水橋と矢那の視線が、無視されてがっかりしている小羽田に向けられた。
二人の視線を感じ取った小羽田は、違います、違います、と首を振る。
「私じゃないです。私はただの占い師ですから」
「……念思を使えば自殺をさせることも――」
「してません。してませんよぉ。私は何もしてません。メンタルさんだって傍にいたでしょう? 私は近距離の、しかも一人相手にしか念思出来ないんです」
と小羽田は説明したが、異能者について良く知っている三人は、疑いの眼差しで小羽田を見つめた。
一人わからない浅木が説明を求める。
「えっと、そう言ってるんだし、信じてあげれば?」
「あなたは本当に警察官か? 刑事なのか? 異能犯罪の捜査は――」
「たいていが疑わしきは殺せ、なのよ? 無理言わないでよ。殺人事件は担当したことはあるけど、異能者のちゃんとした捜査なんて初めてなんだから」
「そういえば、珍しいですね。無能集団である警察が、ちゃんとお仕事するなんて」
小羽田の言葉に、警察官や刑事たちがムッとする。
こ、言葉が過ぎました……と小羽田が謝罪した。
「……新垣達也の遺産はかなり役立っているな。アレのおかげで、ここら辺の警察は随分まともとなった……」
「そうね。警察だけでなく街も。冗談抜きに、日本で一番治安がいい街かも」
「それは……どうかな。こういった事件が起きてるし……」
浅木に苦笑しつつ、水橋は本題に戻った。
「で、小羽田君。君がやっていないという言い分は?」
「そんなものやってないって言うしかありませんよう。証拠なんてありませんし」
一昔前ならば、証拠が出なければ容疑者ではあれ、犯人にはなりえなかったが、今の社会では証拠の有無に関わらず犯人とされてしまう。
異能事件に関して重要視されるのは異能者かどうか。それと、犯人の可能性が一パーセントでも含まれているか。
たった一パーセント。ジョークだろうと笑い飛ばしたいところだが、そうやって笑っていた人間のほとんどは一生笑う事が出来なくなった。
「ふむ……厄介だな。……死者に問いかけることが出来ればな」
彩香君ならば透視出来るか――?
と思考に耽り始めた水橋に、小羽田が言う。
「出来ますよ?」
「なに? 本当か?」
「信じる信じないはあなた達次第ですけど」
小羽田にその場にいた全員の視線が集中する。
警察の人間のほとんどは疑っていたが、異能犯罪対策部に協力している浅木と、異能省所属のエージェントである水橋、その仲間である矢那とメンタルは、信じるに足る、と思っていた。
そもそも心を読み取れる知り合いがいる。出来ないという方がおかしい。
しかし、それはあくまでその異能の存在についてであって、小羽田自身が信頼出来るかどうかは別問題だった。
だが、信じられないと疑って何もしないよりも、信じて先に進んだ方が得策だ。
間違っていたのならば、修正すればいいだけのこと。
水橋達は小羽田に頼むことにした。
「ではやってくれないか?」
「いいですよ。お代は……そうですね。私と共に夜の営みを……冗談ですそんな目で見ないで下さい」
女性陣の冷めた目に晒された小羽田は、シュンと項垂れて、少女の死体へと近づいた。
「では始めましょう。答えて下さい、哀れな子羊よ――」
小羽田が念思で、少女の心に問いかける。
剣を抜き去った少女、ナンバー5は、堂々と殺害対象のいるドアへと接近した。
(敵を、殺し、ます)
騎士流のドアのノックで叩き切って侵入し、細長い廊下を歩いていく。
徹底的に仕込まれた方策。
痕跡を残すことで、この世に存在する悪魔達に、お前達の逃げ場はないというメッセージを残す為、破壊活動を行う。
カーテンを切り裂き、置いてあった花瓶を割った。
窓を一枚、一枚、割っていく。
「……何事です!?」
迂闊にも、小羽田が廊下の先から現れた。
5は、何の感慨もなく、すべき行動を取る。
「死んで、下さい」
「い、異能者、ですか? ……やめて下さい。私は――」
「あなたは、悪魔、です」
騎乗する騎士がよく獲物として用いていたロングソードを、ナンバー5が振り回す。
派手に壁や物を傷付けつつ、小羽田に近づいた。
「うわ、冗談ではないのです……っ!?」
「死んで、下さい。鐘が、鳴りました」
「鐘? ……きゃっ!!」
ナンバー5の目の前で、小羽田が転倒。
確実に屠れる状態となった。
本来の殺人者ならばほくそ笑みそうな状況も、ナンバー5は、何も思わない様子で、淡々と目標に歩んだ。
一歩足を踏み出す事に、小羽田の悲鳴と甲冑の音がシンクロする。
「終わり、です。悪魔は、異端は、異能者は、死ぬだけ、です」
「……っ! そうですか……ここで、私も死ぬんですか。――なら、せめて、女体盛りを試したかった……」
目を瞑って放たれた小羽田の最期の言葉を聞き届け、ナンバー5は剣を振り下ろした。
しかし――その異能者用に創られた剣が、小羽田を切り裂くことはない。
直後に放たれた轟音に、ナンバー5は苦悶の表情を浮かべた。
「何事、です?」
「――小羽田は殺させない……」
ナンバー5は、銀色の拳銃を持った、パーカー姿の敵を見て取る。
(……殺害、対象の、ひとり、です。でも、今回、命令、されたのは、小羽田の、殺害、です)
自分に銃撃が当たることも厭わず、ナンバー5は、小羽田を殺害しようとした。
敵の鎧に銃弾の効果がないことを悟ったメンタルは、姉と同じように機械仕掛けの魔法を紡ぐ。
「デバイス――起動!」
「……なっ――」
スライディングで割り込んだメンタルが、ナイフで剣を受け止める。
廊下に響く金属音。小羽田は知る由もなかったが、メンタルとナンバー5は共に驚いていた。
(パワード、アーマーを、受け止め、ましたか。それが、デバイスの、効果なのですね)
「……矢那と同じ強化服の類……! くっ!」
両者の剣とナイフは拮抗し、つばぜり合いとなっている。
デバイスの効果時間を気にしたメンタルが、先に動いた。
銀色の拳銃、暗黒郷を、騎士の胴部分に突きつけ、引き金を引く。
ダンッ! ダンッ! ダンッ!
重厚で悲しい、戦いの音をメンタルが奏でる。
引き金が引かれるたび、ナンバー5は苦悶の声を上げた。
「……投降して」
「聞け……ません。私は、任務を、果たすだけ。鐘が……鳴りましたっ!!」
「……っ!?」
突然、薄暗い廊下に眩しい光が降り注ぐ。
ナンバー5の光の異能だった。
凄まじい量の光で相手の目を曇らせ、叩き斬る単純かつ強力な戦法。
だが、元より不意を突く事が信条であり戦闘方法であるメンタルには効き目がなかった。
目が視えなくとも――この家の構造は完全に把握している。
メンタルは、デバイスの効果が終了する前に小羽田を抱きかかえ、逃走した。
「逃げられ、ました」
特に悔しがる様子もないまま、ナンバー5が呟いた。
目標を殺せず帰還していたナンバー5は、その道中、自分を統括する騎士、ロベルトに連絡を取った。
月明かりと、自身の異能により、闇夜でも迷うことなく歩く事が出来る。
『首尾は?』
「逃げられ、ました」
『何だと?』
ロベルトは静かに、だが、怒りを孕んだ口調で言った。
『化け物に……この世に巣食う害虫に逃げられただと? お前はそう言ったのだな』
「はい。申し訳、ありません」
『謝罪などよりもやるべきことがあるだろう。異能者を殺せ』
ナンバー5の謝罪を無視し、ロベルトは命令を出した。
だが、無理な相談である。敵は遥か遠く。土地勘もある。
外国から来たばかりのナンバー5には、追跡はおろか痕跡さえ発見出来ない。
ただの敵ならばともかく、敵は暗殺する為に創りだされたクローンである。
索敵は事実上不可能と言えた。
「追跡は、不可能、です」
『……そんな命令を出したか?』
そこで、初めて。
ナンバー5は感情を露わにした。
声が震えだし、顔が恐怖に引きつる。
剣を持つ手ががくがくと震え揺れた。
『私は異能者を殺せ、と命令したのだ。目標を設定したが、逃げられてしまったのでは致し方あるまい。――私はお前に教えただろう? 鐘が一回なるたび、化け物を一人は殺せ、と』
「し、しかし」
『恐いか? それは誤った反応だ。お前達は人ではない。人ではない悪魔がなぜ人と同じ振りをする? その必要はない。何の感情も思い起こさず、命令を守ればいい。さすれば――神は、お前を救ってくれるかもしれんぞ……なぁ、化け物』
「……ぁ……ぅ……」
カチャカチャと剣の柄と籠手が当たる音が聞こえる。
冷や汗が流れ、目じりには涙すら溜まっていた。
ナンバー5の、心の奥底でやりたくないと思う感情が、ほんの僅かに出現する。
隠された気持ち。生きたいという本心。
だが、それを上書きするように、携帯から、鐘の音が鳴った。
『お前が救われたくば――その剣を腹に突き刺せ。それが化け物であるお前達異能者に残された、唯一の道だ』
「…………はい………っ……ぁ……ぅ……」
返事をしたナンバー5は、鐘の音に従って、剣を腹へと突き立てる。
痛みは一瞬だった。
走馬灯のように巡る記憶。
だが、最初の一ページで全てが狂わされた。
思い起こすのは鐘の音だけ。
自分の目の前で殺された両親とのあたたかい記憶は、もうない。
「……ぁ……ゎ……た……ㇱ……おか……さ……」
異端狩りの騎士であるナンバー5は、命令を忠実に遂行し、異能者をひとり、殺害した――。
「――というのが、私が念思した記憶です」
全員が、押し黙っていた。
水橋も、何か言わねばとならないのだが、言葉が出てこない。
「よもや……これは悲劇だ」
「……」
メンタルは黙っている。
だが、その瞳は怒りに満ちていた。
彼女と似たような境遇の存在は、この世にたくさんいる。
だが、数が多いからなんなのだ。
全員が正しいということが本当に正しいのか?
それが世界の在り方なのか?
いいや、違う。
その事をメンタルは知っていた。自身の姉に教えてもらっていた。
だからこそ、憤りを隠せない。
そんな彼女を諫めようとした水橋が、口を開いた所で携帯が鳴った。
「くそっ! 何だこのような時に……っ!!」
「どうしたの?」
水橋は、メールの送信相手を見て固まった。
その相手は、何を隠そう彼女の親友であり、想い人でもあった男だからだ。
(け……健斗? なぜ? ずっと音信不通だったのに)
「いや、色々推理しなきゃいけない時に固まんないで……って、何? 男?」
「なっななななそんなモノじゃない!」
「……もしその反応で隠し通せると思っているなら、言っておく。バレバレよ」
矢那が呆れ混じりに突っ込んだ。
メンタルもふーっと息を吐き、男……? 汚らわしいと小羽田が呟く。
浅木も奇妙なものを見る眼差しで水橋を見ており、結果として全員の気を紛らわすことに成功したようだ。
「……くそ、ああくそ!」
「何、今度はどうしたの」
「いや……私情で申し訳ないのだが……どうしても今から会いたいと先方が言っていてな。わ、私は……」
と水橋がやきもきしていると、中立派のエージェントのひとりが彼女に声を掛けた。
「行って下さい、エージェント水橋。これ以上何もわかることはないでしょう」
「あ、ああ。すまない。後は任せた」
と言うや否や、水橋は猛ダッシュで目的地に急いだ。
仕事着なのが悔やまれるが、致し方ない。
それよりも健斗に会うという事が最優先だった。
「って、ああ! アンタ! ゲーセンで私をぼこぼこにした奴!」
「お気づきになりましたか。実はずっとあなたを尾行していたんですよ?」
「う……嘘、マジで? 全然気づかなかった……」
という会話が聞こえたが、水橋は気にすることなく、先を急いだ。
「あ……う、待ったか?」
「いや、今来たところだよ」
「そ、そうか……」
息を整えたはずなのに、呼吸が荒い。
緊張にはなれたはずなのに、ドキドキが止まらない。
水橋は、待ち合わせ場所に指定された公園にいた。
ベンチに座っていた健斗が立ち上がる。
「……三年振りだね」
「うむ、そうだな……結奈が死んで以来か」
今まで何をしていた等、聞きたい事が山ほどあったはずなのに、喉元につっかえて出てこない。
代わりに発せられたのは、結奈についてだった。
「懐かしいね」
「ああ、とても。今だ鮮明に覚えているよ。彼女との日常は」
「そうかい?」
「うむ。トラブルメーカーで、お節介焼きで……いつも私を巻き込んでくれた」
懐かしむような口調で言う水橋に、健斗もまた同じような表情を浮かべた。
同じように思い返しているのだろう。
あの、激動で騒乱で、楽しかった日々を。
「私はまだ、彼女が考案した水鉄砲を使ってるぞ。ほら」
「まだ、持ってたんだ」
感慨深く言葉を漏らす健斗。
彼に見せるため、水鉄砲を渡した。
それを見ているうちに、水橋はいつも自分を引っ張ってくれた結奈に、背中を押された気がした。
だが、物事には順序がある。
まず、聞くべきことを訊こう。
そう思った水橋は、健斗に疑問を投げかける。
「今まで、何をしていた?」
「……何もしてないよ」
言いにくそうに返す健斗に、思わず水橋は声を荒げた。
「……何だ、それは? 私はずっと君を心配して――」
「そうかい? 奇遇だね。僕も君の事を想っていた」
「……え?」
荒くなったはずの水橋の声が、戸惑いの色を持つ。
想定外、予想外の返しだった。
物事の順序というものがめちゃくちゃだ。
本来なら、ふざけるな、と言わなければならない水橋も、冷静さを欠いてしまう。
「な、ななな何を……!?」
「ずっと想っていたよ、君の事を。結奈と同じくらいには」
「……あ、そうか」
結奈との名が出て、水橋は現実を知った。
まだ、健斗は結奈が好きなのだろう。
水橋が、健斗に恋焦がれてるのと同じくらいに。
死してなお、あのトラブルメーカーに振り回されてしまう。
その事は嬉しくもあり、悲しくもあった。
と、複雑な表情を浮かべていた水橋の肩を、突然健斗が掴む。
再び、水橋は慌てだした。
「なっ、何だ!?」
「君に、言わなくちゃいけないことがあるんだ」
「……ど、どうしたというのだ……そんな思いつめた顔をして……」
健斗の真剣な表情に、水橋は戸惑いを隠せない。
結奈が死んで三年。彼女と同じ志を持っていた中立派に所属し、場慣れしていた。
だが、それでも水橋は、動じずにはいられない。
今、自分の肩を掴むのは、密かに想いを寄せていた相手なのだから。
「僕は、結奈を殺した犯人が赦せない。そして、連中と同族である、異能者もね」
「なっ……あ……」
突如、痛みが全身を駆け巡った。
それは身体の痛みでもあり、心の痛みでもある。
何が起こったかはわかっていた。でも。
信じられなかった。
現実だとは思えなかった。
これは、夢ではないか?
そう疑ったが、この痛みは、本物だ。
痛みが、水橋に認識させてくれる。
間違いなく、自分は健斗に指されたのだと。
「な……何で……」
「ごめんね、優。僕は――対異能部隊に所属しているんだ」
「な――ダメ――だ……それは……結奈を殺した……」
日本の自衛隊。その中の部隊の一つ。
対異能部隊は異能者を殺す為の特殊部隊だ。
水橋は、彼らについて良く知っている。
何せ……水橋の親友である結奈を殺したのは、連中なのだから。
「いいや、違う。彼らは操られただけさ。クイーンに」
「バカな……け、健斗……ダメだ……」
「じゃあね、優。――君に会えて本当に良かったよ」
そう言って、血を流して倒れる水橋に目もくれず、立ち去る健斗。
「待て……待ってくれ……私は……君の……ことが……ぁ……」
しかし、水橋の告白は、想いは、健斗に届くことはない。
水橋の意識は、そこで途切れた。
告白の返事を聞く事がないまま。
一方その頃、珍しく炎も心もやって来なかった為、一人で登校しようとした直樹は、玄関を開けた矢先絶句した。
「…………」
「スゥー、スゥー」
なぜか、家の前に緑髪の少女が、眠っている。
とても幸せそうに。
「フフフ……もう食べられないです……」
「……何がどうなってんだ……?」
だが、眠る少女は答えない。
代わりに、一陣の風が、吹き抜けた。




