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暗殺少女の理想郷  作者: 白銀悠一
第二章 ニセモノ
31/129

タイサク

 いつも通りに帰った家はいつも通りではなかった。

 しかし、悪い意味でも不審な意味合いでもない。

 一人だった家が二人になり、二人だった家に三人目が現れただけだ。


「やほー心」

「お帰り、姉さん」


 相棒と妹に出迎えを受ける。

 なぜだか、とても嬉しかった。

 昔を思い出したからかもしれない。

 家族と過ごしていた日々を。


「……ただいま」


 少し照れながら、家の中に入り、妹にお土産を渡した。

 これを買う為に、心は直樹達と別れたのだ。


「……これは?」

「心、流石にそれは」


 彩香が呆れ混じりに呟く。

 彩香はそのビニール袋の中に入っている箱が何かわかった。

 プラモデルキット。

 暗殺者である相棒の意外すぎる趣味。

 しかし、メンタルはその箱に興味津々だった。


「プラモデル……」

「どう? 気に入った?」


 期待した眼差しで訊く心。

 メンタルはこくん、と頷いた。

 別にプラモデルでなくても良かったかもしれない。

 姉から何か貰うという経験が嬉しかった。


「――さて、対策を考えようと思う」


 心の言葉を受けて、呆れていた彩香と、箱を嬉しそうに眺めていたメンタルの顔つきが変わる。

 お仕事モード。サポートとアタッカーの顔だ。

 彩香はノートパソコンをリビングのテーブルに置いた。

 気名田矢那の顔写真が映し出される。

 黄色いロングの髪。黄色い瞳。心達より少し一つ二つばかし年上の顔。


「矢那の異能は雷ね。……正直、銃撃と相性は悪い」


 彩香の説明を受けて、心は父親である気名田に銃弾が全く効果を発揮出来なかった事を思い出す。

 雷で作り上げられた盾……バリアとでも言うべきものに銃弾は弾き飛ばされてしまうからだ。

 メンタルと狙撃戦を行う前に矢那に対して狙撃銃を撃っているが、それも例外なく弾かれた。


「……でも私の戦闘力は銃器に依存している……」


 心はユートピアを取り出し、金色の拳銃を見つめる。

 派手な色合いの拳銃。隠密性には欠けるがそれはあくまで目視のみであり、あらゆる情報セキリュティに引っかからない性質を持っている。

 それに、異能殺しという異名を知る相手に恐怖を与えるという副次効果もあった。

 その金色に犯罪者は恐怖するのだ。自分を殺しに来た暗殺者が現れたと。

 だが、そんなものは矢那に対して無意味だ。

 銃撃が効かない矢那に拳銃を向けても最悪、自分が放った弾丸に撃ち抜かれかねない。

 心がどうするか、と悩んでいると妹であるメンタルが口を開いた。


「たぶん、銃撃は使えると思う」

「どうして? メンタル」


 メンタルに心と彩香が目を向ける。

 メンタルはかつての同僚が使用するであろうパワードスーツの説明を始めた。


「矢那はアスプという特殊スーツを着込むはず。生物兵器を撃ち込む為に。アスプは対異能部隊が開発していたパワードスーツ。エネルギー問題を解決出来ずにお蔵入りになっていたものを矢那が盗み出した」

「パワードスーツ……。無能派もまた変な物を作ってるわね……」


 彩香が呆れながら言う。

 その為に、とメンタルが言葉を続けた。


「矢那は自分自身をバッテリーとしてアスプを動かしている。だから、あれを着ている間は雷の力を使うことが出来ない。……ただし、被弾者を細切れにするパルスマシンガンと対象を切り刻む超電磁ナイフ、遠距離射撃が可能なパルスライフルに……レールガンまで装備されている」

「……」


 メンタルの言葉を受けて、心が熟考する。

 そもそもパワードスーツに理想郷ユートピアによる射撃が通用するのか。

 対異能兵器であるユートピアは、通常の拳銃とは比較にならない攻撃力を秘めている。

 しかし、結局拳銃でしかない。

 至近距離で撃ち込めばダメージも見込めるだろうが、それではパルスマシンガンとナイフの猛攻を受けることになる。

 デバイスによる身体強化という手もあるだろうが、三度しか使えない手だ。何があるかわからない状態で、それを頼みの綱とするのは危険だ。

 それに今回は仲間と共にいる。自分一人の戦術を組み立てるのではなく、仲間の援護も考慮に入れるべきだろう。


「一人では……厳しいわね」


 ぼそりと呟かれた弱音とも取れる心の言葉。

 しかし、相棒である彩香はその言葉を嬉しそうに聞いていた。


「そうね。だから直樹達と協力しなくちゃ。一人じゃなく、みんなでね」

「ワタシも出来ることをする」


 メンタルは携帯を取り出し、地図アプリを起動させ、座標をマーキングする。


「ここにワタシが姉さんを殺す為に持ってきた兵器がいくつかある。アンチマテリアルのアンチテーゼであるアンチサイキックライフルもある」


 アンチサイキックライフル、という言葉を聞いて、心は道が開けた気がした。

 このライフルは、異能省が対異能兵器として開発したライフルの一つだ。

 対物ライフルであるアンチマテリアルをベースに対異能ライフルとして作られた凄まじい破壊力の狙撃銃。

 反動があまりにも強くちゃんとした狙撃態勢を取るか、デバイス起動による身体強化で強引に撃つかしないと、衝撃で狙撃手がダメージを受けかねない。

 念力使いの襲撃でホテルの一室と運命を共にしたライフルが、何か別の運命に導かれたかのように心の手元に戻ってきていた。


「……それなら何とかなりそうね」

「丁度、二丁ある。姉さんとワタシの分。ワタシ達でないと扱えない」


 ダメージを受けても回復出来る再生異能。

 それを持ち得る心とメンタルにはうってつけのライフルだ。


「サブマシンガンかアサルトライフルも欲しいところ。警官から奪ったものでは使い物にならない」

「もちろん、それらもある。姉さんに使ったところで有効にはなりえないから使っていなかったけど」


 同じ顔をした色違いの暗殺者が、銃器について話し始める。

 対異能弾はどれほどあるのか、だとか、カスタムパーツはいくつある、だとか。

 銃器に関して詳しくない彩香は、二人を見つめながら苦笑した。


(結局……姉妹ね。危なっかしいところまで似ないといいんだけど)





 心達とは別に気名田矢那について分析している者がいた。

 会議室のような場所で、パソコンをカタカタと撃ちながら、考え込んでいる。

 はぁ、と水橋は息を吐いて、会議テーブルの上に置いてある水鉄砲を見下ろした。


(……相性が悪い、か。逃げ言葉にしか思えんな)


 そう言って逃げてるだけにしか思えない。

 自分は異能省中立派に属する紛れもないエージェントであり戦闘員……の予備だ。

 正直、異能の力はそこまで強くはない。

 水鉄砲という媒介を使って初めて異能を行使することが出来る。

 前衛か後衛か問われれば、後衛向き。

 前に立つ誰かがいなければ、水橋はすぐにやられてしまう。


(結奈……お前が生きてればな……)


 死んでしまった友人の事を思い出す。

 アイツほど前衛向きの奴はいなかった、と。

 だが、水橋に前衛が必要だったように、結奈にも後衛が必要だった。

 そして、水橋が必要だった時に、彼女の傍に入れなかったように、水橋が必要な時にも、彼女は現れない。

 今思い返しても、過去を嘆いても、何も変わりはしない。

 水橋は感傷に浸ることを止めて、対策を考える。


(理論上は、戦えないわけじゃない。水が雷を通してしまうように、雷も水を通す)


 別に戦えないわけではないのだ。やられる可能性が高いだけで。

 水橋は水鉄砲による水圧カッターでの射撃と斬撃で戦う。

 攻撃力に関しては申し分ない。例え装甲車だろうと戦闘機だろうと、何でも撃ち抜いてみせる。

 しかし、相手が移動力に秀で、射撃能力も持つ相手だと、途端に水橋は不利になる。

 そして、気名田矢那はその両方を兼ね備えていた。

 故に相性は最悪。水橋が先手を取って矢那を捉えることが出来れば倒す自信はある。

 だが、矢那に回避されてしまい、逆に捕捉されてしまえば、水鉄砲を放つしか能のない水橋はただ殺されるだけだ。

 しかし。


(そうやって、戦いを避けて……。また誰かが死ぬのを見るのか? 結奈のように、新垣達也のように)


 結奈が死んで、それが嫌だったから異能省に協力しているのではなかったか。

 他人に任せて、そのせいでまた誰かが死んだら、今度こそ自分が赦せない。


 ――私は前で暴れるから、優ちゃんには背中を預けたよっ!


 屈託な笑顔で笑う親友を思いだし、水橋は青い髪を掻きむしった。


「ええい、何かいい方法があるはずだ! ……しょうもないプライドは捨てるんだ。……何としても、みんなを守るんだ。アイツのように」




 

 放置された木材、資材の数々。

 誰もいない空地から気合の籠った声が響く。

 木々に囲まれたそこは、街の中心部から遠く人目につくことはない。

 その為、修行をしている二人にとっては打ってつけの場所と言えた。


「もう一度だよ、直樹君!」

「おう! 来い炎!」


 やああ! とほむらが拳を握り絞め、直樹に突撃する。

 直樹もほのおを纏わせた拳で応じた。

 打撃音と火の吹き出す音が空地に鳴り響く。

 直樹と炎は戦いに備えて修行をしていた。

 拳を振り上げ、足を蹴り上げる。

 炎の力で加速する。跳躍する。

 元々、気名田との戦いで慣れていた直樹は炎に引けを取らなかった。

 炎のパンチを受け流し、蹴りを見舞う。

 その蹴りを炎が防御し、殴り返す。

 直樹と炎が動きたびに何かが燃えるような音がした。

 近くで見ていた久瑠実は、火が木材や木々に燃え移ってしまわないか不安の表情で見つめている。

 しかし、それは杞憂であり、二人は火が移らないよう細心の注意を払っている。

 それに、直樹は驚いたのだが、どうも燃やす対象を選択することが出来るらしい。

 思えば、何でもかんでも燃えていたら炎はすぐ裸体を晒すことになっていただろうし、直樹自身もすぐ服が燃えて全裸だったはずだ。

 炎を用いた跳躍時も、靴の裏から炎を噴き出させたが、靴は全く燃えていなかった。

 炎曰く私の半分は優しさで出来ているからね! と言っていたが、実際の理論はどうなのやら。


「集中!」「うおっ!?」


 考え事をしていた直樹に、炎の拳が迫る。

 かろうじで防御して、あぶねーとぼやいた。


「もう! 集中しないと危ないよ!」

「大丈夫だ! 俺には心の異能があるからな」


 直樹には心の異能である回復能力がある。

 しかし、この異能は炎や水橋のものと比べて少し特殊なのだ。

 直樹自身上手く言えないが、二人のものと違い明確にイメージしなければならないような……。


「それでもいやだよ。私は直樹君を傷付けたいから修行するわけじゃないからね」

「ん、わかった。次から気をつけるよ」


 直樹の言葉を聞いて、炎が約束だよ、と念を押す。

 直樹は炎と向き合い、再び打ち込みを始めた。


 

 時間こそ二時間程度だったが、かなり疲労していた。

 異能を使うと消耗が激しい。炎がいくら食べても太ることはないと言っていたが、全くだ、と直樹は思った。

 夕暮れの中、直樹と炎が空地に寝転んでいると、久瑠実がタオルとペットボトルを差し出してくる。


「直ちゃん、炎ちゃん、お疲れ様」

「サンキュー」「ありがとう! あれ、私のなんか小さい……」


 直樹のと比べ小ぶりのペットボトルを見つめ、炎が複雑な表情をする。

 久瑠実のよくわからない暗示はまだ完全に解けていない。

 それでも久瑠実はちゃんと飲み物を準備していたのだ。例え小さくとも。

 願わくば、矢那を倒した後には戻っていて欲しいが。


「じゃあ帰ろう直ちゃん。ついでに炎ちゃんも」

「ああ」「つ、ついで……。ううん、めげないよ……」


 久瑠実の言葉の端々が炎の言葉に突き刺さる。

 耐えてくれ、炎。後少しだ。

 そう思いながら直樹は立ち上がり、座っている炎に手を伸ばした。


「え?」「ほら、手を貸すぞ」


 直樹の手を逡巡した様子で見つめた炎は、おそるおそるその手を掴み立ち上がる。

 若干顔が赤いのは、身体を動かして疲れたからだろう。


「明日も頼むな」

「う……うん」


 直樹と炎、久瑠実は鞄を取り帰路につく。

 疲れていた為、無言で道路を歩く。しかし、気分は悪くなかった。

 身体を動かすと気分がいい。異能を使うということにもだいぶ慣れてきた。


「じゃあまた明日」

「じゃあね直ちゃん」「また明日!」


 直樹は二人に別れを告げて、家路についた。





 炎が家に帰ったのは、買い物をしてからだったので、七時過ぎだ。

 時間がなかったのと疲れていたこともあり、コンビニで弁当を買ってきた。


「達也さんに怒られちゃうかな、ハハ」


 そう言いながらアパートの扉を開けると、閉めたはずのドアが開いている。


「……」


 念のため拳を握りしめつつ、警戒した様子で家の中に入る。

 そして杞憂だった事に気付いた。

 浅木の声が聞こえたからだ。


「おかえり、炎ちゃん」

「浅木さん……」


 良かった、と胸をなで下ろす炎。浅木はキッチンで料理をしていた。


「あら、お弁当買って来ちゃったのね」

「いえ、明日食べますから」


 炎は鞄を置きつつ、弁当を冷蔵庫の中に突っ込んだ。

 制服を脱ぎながら、私服に着替える。

 着替えていると、浅木が声をかけてきた。


「炎ちゃん」

「はい?」


 着替えを止めて、炎が後ろを振り返る。

 料理が出来上がったのか皿に炒め物を載せつつ、浅木が言った。


「……戦うの?」

「……」


 炎は直感する。浅木がここに突然来たのは、その事を聞くためだと。

 そしてその返答如何では……。

 それがわかっていながら、炎は正直に答えた。

 炎は嘘を付かない。嘘を付くよりも、騙される側の人間だ。


「はい」

「……そうなの」


 浅木は炎の返答を聞いて、食事の準備に戻った。

 炎も中断していた着替えを終わらせる。

 こじんまりとしたテーブルに二人分の食事が用意された。

 ご飯に肉と野菜の炒め物、味噌汁。

 素朴な家庭料理だ。しかし、炎は大好きだった。

 豪華な食事は金さえあればありつける。しかし、このような誰かが誰かを想って作ってくれる食事は、どれだけ金を積んでもありつけるものではない。

 家族が居ればふつうなはずのそれも、家族のいない炎にとってふつうではなかった。


「いただきます」


 炎は箸を取って食事を取り始める。浅木も食べ始めた。

 しかし、両者は無言だ。テレビも、流れるのはプロパガンダなので点けてはいない。

 もし達也がいればここまで冷え切ったものにはなっていなかっただろうな、と炎は思った。

 炎と浅木はよく話していたし、寝食を共にした事も多い。

 その時の話題は達也についてだった。

 なぜ私と付き合ってくれないのとよく愚痴られたものだ。

 しかし、浅木が恋焦がれ、炎の大切な人だった達也はもういない。


「ごちそうさまでした」


 終始無言で食事は終了した。

 しかし、炎は悪い気はしない。しないのだが、気まずくはあった。

 なぜ会話が出来なかったのか。達也の死もあるがそれだけではない。


「……私がもし、戦うのをやめてって言ったら、やめてくれる?」


 浅木が核心を切り出した。

 浅木はそれを言いたかったのだ。

 そして、炎が予想していた問いでもあった。

 炎は食器を片づけながら、浅木に答える。


「無理……です。私は気名田矢那を止めるため、戦います」

「どうしても?」


 炎はゆっくりと頷いた。


「どうしても」


 キッチンで食器を洗っていた浅木は突然、キッチンに入ってきた炎の両肩を掴んだ。

 突然の出来事に、炎が食器を手放してしまい、割れてしまった。


「何で!?」

「それは……それが、私の仕事だからです」


 炎は伏目がちに言い放つ。

 浅木の気遣いは嬉しい。自分を心配してくれていると実感出来る。

 故に、申し訳ない気持ちで一杯だった。自分はこんないい人を不安にさせてしまう。


「仕事!? 炎ちゃんは高校生でしょ! 別に戦わなくても誰も文句を言わないわよ!」


 ヒステリックに言う浅木。言葉が炎の胸に突き刺さる。

 だがきっぱりと、炎は告げた。


「いえ、私が言います。私が私を責めちゃいます。……自分には力があって、それを行う覚悟もある。……なのに、戦わないなんて……とても耐えられない」

「……不安なのよ」


 浅木が本音を漏らす。


「達也さんのように……炎ちゃんまで死んじゃうんじゃないかって。またあんな思いをしなくちゃいけないんじゃないかって……」

「大丈夫です。私は――」

「嘘よ」


 指摘されて、炎は言葉に詰まる。

 別に炎は嘘をついたわけではない。大丈夫なつもりでいる。

 しかし、いくら大丈夫だと言っても炎は矢那に敗北している。

 しかも、暴走した……自身の異能を最大限に発揮した状態でだ。


「今の炎ちゃんじゃ……気名田矢那には勝てない。そんな状態で、私が行かせると思う?」

「……っ」


 浅木は勝てないとわかっていた達也を止めることが出来なかった。

 みすみす死地に達也を向かわせてしまったのだ。

 もう二度と同じ過ちは繰り返さない。

 決意を秘めた瞳で浅木は炎の瞳を覗き込む。


「……今日は……もう終わりだから、後六日。それまでも今と変わらないようだったら、私は炎ちゃんを拘束する」

「浅木さん……!」

「ごめんね、炎ちゃん。……食器後で弁償するから」


 浅木はそう言って部屋を出て行った。

 一人残された炎は茫然と、呟いた。


「浅木さん……っ。達也さん、私、どうすればいいのかな……?」


 だが、答えは帰って来ない。

 割れた食器を片づけながら、炎は自分に問いかけ続けた。




 一人、勉強机に向かいながら考え事をしている。

 だが、直樹の頭ではいつまでたっても答えは出そうになかった。


「くそ……何とかなるってビジョンが見えねえ」


 偉そうなことを言った手前、何とかする方法を見つけ出したいのだが、何も思い浮かばない。

 もちろん、直樹は自分が弱いということを良く知っている。

 だから、みんなと力を合わせて気名田を倒すのだと。

 しかし、だからと言って何も考えなくていいわけではない。


「えーい、くそ! 弱気になるのはナシだって言ってんだろ! ……でも考え付くのが拳でぶん殴るとかそこいらなんだよな……」


 部屋でぼそぼそと独り言を言っていると、入るよーと妹の成美が入ってきた。

 何だ突然、と直樹が妹を怪訝な顔で見つめる。


「いやあ、後約六日だよ!」

「……何が?」


 と素っ気なく訊いたものの、内心はドキリとしていた。

 どこかで気名田について口走っていたかもしれない。あれはばれたらまずいなんてレベルではなかった。


「え? 衣替え! 暑くてさ、制服」

「あ、ああ……そういやもうそんな時期だな」


 そろそろ六月。衣替えの時期である。

 うっとうしい冬服から解放され、夏服となる。

 男達が女子の夏服にときめく至高のイベントだ! と智雄が言っていたのを直樹は思い出した。


「楽しみー。兄もそう思わない?」

「いや、そこまではな……」


 まぁ、少し、ほんのちょっとだけ智雄の意見には同意だ。

 と考えて直樹は頭を振った。


(くそ、矢那との戦いが控えてるってのに何考えてんだ!)


 頭を切り替えて、成美を見ると妹は踵を返して、部屋に戻って行くところだった。


「……なんだよ、マジでそれだけ言いに来たのか?」


 直樹はよくわからないな、と頭を掻いて、再び思考に耽る。


「後六日……フフフ、楽しみ」


 妹の楽しそうな声が、直樹の耳に聞こえた。

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