ハジマリ
国家にはたくさんの秘密がある。国民が知るべきではない事実、政府に都合の悪い情報。それらは偽装されたり、否定されたり、様々な方法で隠蔽される。
今、喧しい警報が鳴り響くこの島もその一つだ。自衛隊、対異能特殊部隊に提供されている、秘密拠点の一つ。地図に載っていない、幻の島。
島内に設立された世にはとても公表出来ない極秘の研究施設の一角から、煙が噴き出ていた。
施設内部からは銃声と人々の怒号が聞こえてくる。直後に雷鳴と人々の悲鳴だ。
黒い戦闘服を着込んだ特殊部隊達は、アサルトライフルやサブマシンガンを撃ちまくっていた。
統率の執れた動きとは言えない。とにかく敵に撃ちまくっているとしか言えなかった。
「こちら警備隊! 異能者の襲撃を受けている! 増援を……うわああああ!!」
無線に向かって怒鳴っていた男が、雷に直撃して丸焦げとなる。近くにいた同僚が、ひっ、という声を漏らした。
「もー、喧しいわね。この警報なんとかならないのー? あ、電気設備を壊しちゃえばいっか」
味方を黒焦げにした張本人が片耳を塞ぎながら歩いてくる。しかし、相手がこちらに気付いていないことを見て取った男は、好機と言わんばかりにサブマシンガンを構えた。
そして、引き金を引く。勝利を確信して。
だが、男はすぐに後悔することとなる。なぜそのままやり過ごさなかったのか、と。
対異能特殊部隊用に極秘開発されたASSタイプ52から放たれた対異能弾は、日頃の訓練と銃の性能により、凶悪な侵入者へと一寸の狂いもなく放たれた。
狙いは悪くない。しかし、狙ったものが悪かった。
男はピカッ! と女から稲妻が奔ったことを目視し、次の瞬間には自分が撃った弾に八つ裂きにされていた。自分が何にやられたかのか気付けたかどうか怪しい。
「んー? 今なんかしたかなぁ?」
きょと、と首を傾げる女性だが、その問いに答える者はもういない。
「よいしょ、と。えーと、これがあれであれがこれで……。あーもう! 面倒くさいな! 全部ぶっ壊しちゃえ!」
女は手を配電盤に翳して、雷を放った。稲妻と雷鳴が同時に発生し、爆発音の後、施設内に鳴り響いていた警報と灯りが消える。
「よしよし。さてっと。愛しの恋人はどこかしら?」
PDAを取り出して、情報を確認する。情報端末に集中していた為、足元に転がっている死体に女性は躓いてしまった。
「うわっ! くそー、こんな所で死なないでよ、危ないなぁ」
あ、丁度いいや、と女は男の死体からゴーグルを外し、自分の頭に装備した。そして、ゴーグルの脇についているボタンをいくつか押し、目当てのモードに切り替える。
「よし、暗視モード起動っと。これで躓く心配なし」
ご機嫌な様子で暗闇を探索する女性。黄色い髪が暗闇の中光る。
(C棟、地下一階……このエレベーターを乗って、と)
巨大なエレベーターに乗り込み、地下一階のボタンを押す。降りた先は女性が壊したのとは、別の電源が来ているようで、灯りが点いていた。
ゴーグルを投げ捨てた女性がきゃあ! と嬉しそうな声を上げる。
「きゃあ、きゃああ! やっと出会えた! 資料で見てからずっと恋をしてたのよ!」
恋に落ちた少女の瞳で、女がそれに向かって駆け出す。先にあったのは、常人の女性が……いや、人が恋愛感情を感じてはいけないものだった。
「対異能者制圧用強化装甲服っ! 多目的ミサイルランチャー、パルスマシンガン……超電磁ナイフ! ……背中についてるそれは……もしかして、レールガン!? やったあ! とっても嬉しい!」
アンチ・サイキック・サプレッション・パワードスーツ。正式名称が長すぎる為、ASSP、またはアスプとも呼ばれる。
強力な異能者に対抗する為開発されたそれは、戦闘能力の基準をクリアしていたが、エネルギーの問題を解決することが出来なかった。その為、プロトタイプが一機生産されたのみで、計画は凍結されていたのである。
女性は、異能省無能派のデータベースにアクセスし、この機体が幻の島で放置されていたことを知ったのだった。
アスプスーツは上方から乗り込む格納型の強化服だ。服とは言うものの、着ると言うよりも女性が入るという表現の方が正しい。
プロトタイプ故に灰色の塗装が施された強化服に女性は乗り込んだ。頭部パーツは存在せず、若い女性の顔が剥き出しだ。代わりに、音声認識機能や機体の状態を解析する機能が搭載されたレンズを片目に装着する。
「……動かないな……」
女性の独り言が倉庫内に響く。当然である。放置されていた機体故、バッテリーこそ装備されたままであるが、起動に必要な電気エネルギーは充電されていない。
「よいしょ! 動けえ!」
実に楽しそうな声を上げて、女性は自身の異能を発動させる。女性から放たれた雷がバッテリーに充電され、レンズに情報が表示される。
強化服の起動音は聞き、女性のテンションは最高潮まで高まった。
「やったー! 成功したー! 流石、対異能兵器! 雷で中からバチバチやっても問題なし! ジェネレーターの出力も問題ナッシングぅ!」
きゃはー! と喜んでいた女性だが、耳元で警告音が鳴り飛び跳ねそうになった。強化服の中に身体が収納されているので、跳ねれば肩のアーマーに自分の肩を強打してしまう。
「あっぶねー。なになに? 味方三名……。あー、違う違う。それもう味方じゃないから」
女性は、音声認識機能を用いて、使用勢力を無能派から異能派に上書きした。味方とマーキングされていた戦闘服の兵士達が、敵へとバージョンアップされる。
「よいしょ、と。試し撃ちしましょー!」
右腕に装備されたパルスマシンガンを敵に向ける。まずい、と敵の焦る声が聞こえてきたが、女性は子供のように無邪気な笑顔で、引き金を引いた。
通常のマシンガンとは比べ物にならない出力の弾丸が、敵兵達を木端微塵にする。グロテスクにすら感じさせない。あまりにも細かくなって、そこに人がいたか判別が難しいほどだった。
「すごい! すごいすごい! 遠出したかいがあったよ!」
ロック解除! とハイテンションのまま女性は叫び、レッグパーツを固定していたジョイントが外れる。これでもうジャンプしても自分の肩を強打することはない。
「ん? これなーんだ?」
ロケットランチャーを彷彿とさせる筒が、壁に固定されていた。興味を持った女性は何も装備していない左腕でランチャーを回収する。
そして、ドシン、ドシンと重量感を感じさせる足音を立てながら女性はエレベーターに向かう。貨物輸送用の大型エレベーターなので、分厚いアーマーに囲まれたアスプスーツも問題なく運搬できる。
屋上まで昇ると、ヘリのローター音が聞こえてきた。三機いる内、一機は味方だが、二機は敵である。味方のヘリが攻撃を受けていることを知った女性は、左肩に装備されているミサイルランチャーを起動させた。
「オートロックって楽だよね……っと!」
味方のヘリを囲むように飛行している敵の戦闘ヘリに向けて、多目的ミサイルが放たれる。敵はフレアを射出したが、二発のミサイルはフレアに気を取られることなく、敵のヘリに命中した。
『メイデイメイデイ!! コントロールを失った……うわあああ!!』
回線がオフになっていなかった為、アスプスーツから敵の断末魔が聞こえる。コントロールを失ったヘリは、空中をくるくる回って森の中に墜落した。
『矢那様。回収に参りました』
「オッケー。メンタルちゃんはまだ?」
「ワタシはここ」
後ろから声がして、女性……矢那が振り向くと、白いフードを被った少女がいた。
白ずくめの恰好で、光が反射して眩しいくらいだ。正確には少女の持つ銀色の拳銃が、光を反射して女性の顔に光を浴びせている。
「ちょっと、メンタル! 眩しいわよ!」
矢那は右手で顔を覆いつつ、注意する。
「ごめん。例の物は回収した」
少女は拳銃を仕舞いつつ、左手に持っていたパッケージを渡す。厳重に保管されていたケースを矢那は笑みを浮かべて受け取った。
「よーし、引き上げるわよ! 追手が来ないうちに……」
「それは大丈夫」
精神と呼ばれた少女は、屋上に着陸しようとするヘリを見つめながら言う。
「全員、片付けたから」
ヘリの四枚羽によって発生した風が矢那とメンタルを襲った。メンタルのフードが外れ、素顔が露わになる。
白い髪に整った顔。自然に生まれたとは思えない、人工的な美しさと年相応の可愛らしさを兼ね備えている。
そして、ある異名で呼ばれていた少女に、瓜二つでもあった。
「さぁ、行きましょ、メンタル。あなたの姉妹に会いに」
「了解」
輸送用のカーゴの後部から、二人は乗り込んだ。メンタルは席についたが、矢那はパワードスーツを着ている関係で立ったままだ。
ハッチが閉まろうとしたその時、矢那は左腕に持っていたロケットランチャーが何か気付いた。
「こ、これ! 半径10kmは消し炭になる奴じゃん! うっそー、こんなのがあんな雑に置いてあったなんて! 運命? これも運命よね! 一度撃ってみたかったのよ~!」
パイロットが貨物室の声を聞いて、閉じていたハッチを再び開く。矢那はありがとう、とパイロットに告げつつ、左腕でランチャーを構えた。
「さて……いろいろプレゼントしてくれてありがとうね。ばいばーい」
矢那がランチャーの引き金を引く。
日本地図の誤っていた箇所が一つ修正され、地図通りとなった。
黒い髪の少年が、通学路を歩いている。それだけなら、特におかしな部分はない。目立つことはないだろう。
だが、少年の周りには燃えるように赤い髪の少女、黒い髪の少女、またまた黒い髪の少女、さっきからずっといるのに、なぜか気づいてもらえない茶髪の少女がいた。
「くそ……炎だけでもトラブルが尽きないってのに……」
直樹はため息を吐く。周りでは、少女達の会話が続いていた。
「やっ……やっぱ行かないってのは……ダメ?」
「「ダメ!」」
黒髪の少女心と、赤髪の少女炎が、縮こまるもう一人の黒髪彩香に叫ぶ。
この場にいる全員が制服を着ている。帝聖高校の制服だ。後少しすれば、夏服へと衣替えの時期に突入する。
はぁ、と緊張な面持ちでため息を吐く彩香。それもそのはず、彼女は今まで学校に通っていなかった。
自分の持つ異能、透視能力のせいで周囲から疎まれた彩香は、心に助けられた一年前以降、学校に行くことはなかった。
しかし、学校は楽しいよ! 彩香ちゃんもいっしょに行こうよ! と言い放った赤いヤツが、中立派エージェントである水橋にお願いして、彩香を半ば無理やり転入させることとなったのだ。
恨めしそうに彩香が炎を睨むが、それを緊張から来るものだと誤解した炎が大丈夫だよっ! と背中を思いっきり叩く。
「おふっ!?」
「ダメ、彩香は虚弱だから、あまり強く叩いてはいけない」
「~~っ! あんたらねぇ……」
直樹には、自分のすぐ傍で行われているやり取りに自分が関わることがないよう、縮こまり、気配を小さくしていた。
炎と登校していただけで、幾度ボヤ騒ぎに巻き込まれてきたことか。彼女の異能を借りるようになって、コントロールの難しさは実感できたものの、それでもトラブルはごめんである。
結局、直樹の能力はコピーだということで落ち着いた。彩香が透視して何もないと誤解していたのも、その異能故である。
コピーする前の直樹は、何の異能もないに等しかった。今でこそ、炎と心、水橋の異能を借りているが、素の彼は何の力もないことに変わりない。
それにそこまで強いという訳でもなさそうだった。コピーと聞くと他人から能力を奪いまくってあっという間に最強になりそうなものだが、他人の異能を複写するに当たって、いくつか条件があることが判明した。
まず、コピー相手に信頼されなければいけないこと。直樹の異能は、奪うというより借りるという表現が正しい。双方の同意がなければコピーすることは出来ない。
次に、肉体的接触が必要であること。このような言い方だと誤解を招くかもしれないが、要は握手をすればいい。
現状直樹が知りえる条件はこの二つだ。この条件が正しいことの証明として、直樹は彩香の異能をコピー出来ずにいる。
彩香曰く、絶対悪用する、の一点張りで、腕に触れようがコピーしろと脳内で念じようが直樹は透視能力を得ることが出来なかった。それに加えて、彩香に何度か触れた時に転んで、彼女の慎ましい胸に触れてしまい、一生透視の異能が手に入らない予感を直樹は感じている。
それだけでなく、直樹の異能は他者の劣化コピーしか出来ていないことも分かった。心に比べて再生速度は遅いため、デバイスは装着出来ないし、炎ほどの火炎の威力を出すことも敵わない。水橋の異能に関しては、水鉄砲も持ち強くイメージしないと放つことが出来ないというなかなか不便な異能だった。
それに――直樹はこの異能を使うことがあまり乗り気になれない。なぜなら、使用すると異能の持ち主の性格まで表出してしまうのだ。
炎の異能を使うと熱血かつ数学が出来ない人になってしまうし、心だと淡々としてしまうし、水橋だと……厨二病臭くなってしまう。
水橋の異能を用いて、くるくると水鉄砲を回しかっこつけたあの瞬間を思い出すたび、直樹は恥ずかしさで穴があったら入りたい気持ちに駆られる。
「いい加減にしろっ! これ以上なんかしたら、そこの棒切れに、あなた達の胸の内を言うわよっ!!」
「彩香!?」「彩香ちゃん!?」
彩香がブチ切れたようだ。興奮した様子で、直樹に指をさしている。
「男にちょっと優しくされたからってあっさり落ちやがって! 今まで辛いことあった反動ですかそーですか! 何でもいいわもう! あなた達は私に弱みを握られていることを自覚しなさいっ!」
直樹が目を離していた隙に、立場が逆転していた。異能殺しと呼ばれた暗殺者狭間心と、警察の協力者である草壁炎に、自宅警備員角谷彩香が強く出ている。
「あ、彩香……」
「心! 確かにあなたと私はパートナー。でもね、あまりに調子に乗られるとムカつくわー!」
彩香は今まで溜まっていた鬱憤を吐き出すかのように勢いよく言葉を捲し立てる。
「あ、彩香ちゃん! 落ち着い……」
「あなたも! 感情表現豊かなのは悪いことではないけど、限度ってものがあるわぁ!」
彩香は怒鳴った後、ふーっ!! と気を逆立てる猫のように息を吐いて、
「さっさと学校に行くわよ! 早く!!」
と自ら率先して、進んで行く。怒鳴ったおかげで、色々吹っ切れたようだ。
「結果オーライ?」「みたいだね……」
心と炎が顔を見合わせつつ、彩香の元に向かう。
何とかなったのか? と思いつつ直樹も三人の元へ走ろう足を動かした時、何かに制服の裾を掴まれて大声を出した。
「何だっ……!? 久瑠実……?」
「直ちゃん……」
久瑠実が悲しそうな表情で、直樹の裾を掴んでいる。全然気づいていなかった直樹は、久瑠実に尋ねた。
「いつから?」
「直ちゃんが家を出て……心ちゃんと炎ちゃん……あとあの人と出会ってすぐ……。ずっといたのに……全然気づいてもらえなくて……」
久瑠実はすごく落ち込んでいる。悪かった、元気出せよ、な? と直樹は久瑠実を元気付けつつ、早く! と叫ぶ彩香達の元へと走った。
教室に入ると、以前湧きだっていたのと同じようにクラス中か転入生の話題で持ちきりだった。
席に着いた直樹は、もしその転入生が異能者だということを知ったら、彼らはどう反応するのだろうか、と思う。
また拒絶か、両手を広げて暖かく迎えるか。以前炎が転校してきたことをふまえると、クラスの半分は半数以上は友好的、拒絶する者は少数だ。しかし、それはあくまでこのクラスでの話である。
自分が異能者であることに気付いた直樹は、彼らの気持ちが分かるようになった。クラス替えなど恐ろしくてたまらないだろう。
だが、無能者の気持ちも分かる。彼らとて、危険な力を有する異能者が怖いのだ。分かりやすく言うならば、異能者は常に銃を携帯して、見せびらかせているような状態なのだから。
両方の気持ちを知る直樹は、例え彩香が拒絶されたとしても何とかクラスに溶け込めるようにしようと決意した。
ガラッと教室のドアが開き、担任が入ってくる。菅原ではない。
菅原は無能派の手先だったことが判明している。それに何者かに射殺され故人だ。しかし、学校側には急な転勤となっていた。ちなみに生徒会長の高木も、急な引っ越しということになっている。
強引な処置だが、真相を知れば彼らは死ぬ。何が何でもそれで納得してもらうしかないのだ。
幸いにも――不幸かもしれないが――帝聖高校の生徒達は、社会の在り方を知らずに済んだ。偽物の、作られた社会構造が今も実在していると信じている。
今もどこかで無実の人が殺され、実際の人口とみんなが想像している人口の数は大幅にずれているが、それは彼らが知らなくていいことだ。
「今日は転入生を紹介します。どうぞ」
年老いた担任が、ドアに隠れている人影を促す。緊張した面持ちで彩香が教室に入ってきた。心なしか手が震えている。
「す、角谷っ……彩香……です……よ、よろしく……」
ぺこりと頭を下げる彩香。だが、クラス中はシンとしている。
彩香が何か間違ったのか、と挙動不審になり始めた。だが。
わあああ! とクラス中が湧き上がる。初々しい態度が彼らの琴線に触れたのだろうか。
直樹は自分の考えが杞憂だったことに気付く。隣の炎も一番前の心も同じだった。
異能者だの、無能者だの、関係ない。新しい人間との出会いは、基本的にわくわくするものだ。
「さ……散々な目にあった……」
揉みくちゃにされた彩香がため息を吐く。が、言葉とは裏腹にその表情は楽しそうだった。
「やっぱ学校なんて行くもんじゃないよ。人は多いし、時間には縛られるし、勉強は家でだって出来るし……」
「にやにや笑いながら言っても説得力はないよ、彩香」
今日はたまたま――というより水橋がそう設定した――午前中授業だった為、大した勉強もせずに帰宅である。
しかし、そのまま帰るのも味気ないので、心達は商店街をぶらぶらとしている。
直樹、炎、そして、久瑠実もいっしょだ。登校中気付かなかったお詫びとして、彼女もついてきている。
(……でも、本当に気付かなかった)
心は今朝を思い返す。油断していたとはいえ、ずっとついてきたならば心とて気付くはずなのだが――。
「ねえ、彩香。立花久瑠実を――」
「やだよ、心。もう、他人を無許可で覗いたりしない」
クレープの屋台の前でどれにしようか悩んでいる三人を見つめていた彩香は否定した。
「……そう。その方がいいわね」
心も無理強いするつもりはない。むしろ、彩香がそう言ったことを嬉しく思った。
彩香が以前の過ちを繰り返さず、学校に順応しようとしていることが分かったからだ。
「ま、家にいるのも飽きたし、しばらくは通ってやることにするよ。……禁断症状が出ないか心配だけど」
禁断症状と訝しんだ心の前で、彩香は耳にイヤホンをセットした。そして、何かを聞き出す。
「……」
彩香が何を聞いているか言うまでもあるまい。
心が彩香から目を逸らすと、模型店が見えた。そういえば、新作が出る頃か、と心が近づいていく。
「心ちゃん! 彩香ちゃん! 公園に行っちゃうよ!?」
炎が叫ぶ。心は彩香と炎に先に行っていて、と叫び返し、寄り道する。
店の前に着く。ちょっと箱を確認するだけだったが、好きな物を見ていると欲しがってしまうのがマニアというもの。
うーんと店の前で唸っていた心は、不意に視線を感じ辺りを見回した。
奇妙な感覚だ。つい癖で、鞄に仕舞ってある拳銃に手が伸びる。
だが、視線をあちこちに移しても怪しい人間を発見することが出来なかった。
(……気のせい……?)
心はしばらく警戒していたが、直樹たちをだいぶ待たせすぎたことに気付き、公園へと向かう。
道中、携帯で監視ネットワークにアクセスしたが、やはり何も発見出来ない。
不審がりながら公園に辿り着くと、直樹達は見つからず、なぜか久瑠実がしゃがんでいた。
ぶるぶると何かを恐れているように震えている。
「久瑠実……?」
「い……嫌……」
心が声をかける。しかし、久瑠実は心の顔を見るや、叫びだした。
「嫌っ!! 来ないでぇ!!」
そして、立ちあがった久瑠実の姿が消える。
「なっ……!? やはり、彼女も異能者……っ!」
前方から殺気を感じ、心はユートピアを引き抜いた。
精確に向けられた拳銃の先には、白ずくめの少女がいる。
心は油断なく敵を睨み付けながら、問う。
「あなたは、何者?」
フードを被った少女はフフッ、と笑いを漏らした後、答えた。
「ワタシは……アナタ」
「……ふざけてるの」
心はトリガーに指をかける。少女はフードに手を掛けた。
「今から、証明してあげる」
少女がフードを脱ぐ。隠された素顔が露わになった。
「……っ!?」
いつでも撃てるようにしていた心の腕が、動揺して震えた。
なぜなら、そこに自分と同じ顔を持つ少女が立っていたからである。
「ワタシのコードネームはメンタル。よろしく……姉さん」
カチャ! と足のホルスターから銀色の拳銃を心へ突きつけて、メンタルが言い放った。




