ある少女がパソコンに書き起こした、真実の記録
設定資料となります。
最初に読むのはお勧めできません。
一部ネタバレを含みます。
本編とは書き方が異なります。
――今ある現実。変えようのない事実の記録――
今から三十年前、異能者という存在が現れた。
彼らは常人から考えられないほどの力を秘めている。
手から炎を出したり、傷を受けても再生したり。
それだけではなく、通常弾の効果が薄かった。
特別な力に目覚めた人々を恐れた普通の人々は、銃による攻撃を加えたが、全く効き目がない。
危機感に駆られた人々は、対異能弾という特殊弾薬を創り上げた。
異能者に絶大な効果を発揮するその弾丸は、常人より硬い異能者を的確に殺した。
そして、それは異能者の怒りを買う事となる。
そもそも、順序で言えば異能者に攻撃を加えたのは、何の力もない無能者だ。
特別な力を得て、何の感慨もなかったといえば嘘になるが、異能者達はただそこに存在していただけ。
当然撃たれれば反撃するし、自衛もする。
それでも自分達は力ある者だから、と我慢してきた。
だが、もう我慢の限界だ。戦うべき時だ。
そうやって、異能者達は無能者に対し、積極的な攻撃を始めた。
いくら対異能弾を手にした無能者とて、異能者の異能にやすやすと対抗出来るわけではない。
多くの人間が死んだ。異能者も死んだが、損害は無能者の方が多かった。
それを見て、まずい、と思った人々がいた。
異能者も無能者も分け隔てず接する、数少ない者達。
中立を謳う人々だ。
彼らはこのまま世界の混乱が続けば、大規模な戦争になると危惧した。
世界を巻き込んだ悪夢。第三次世界大戦。
規模は歴史上最大のものとなる事が予想できた。
国と国、同盟と同盟の争いではなく。人種と人種の争い。
しかも、お互いがお互いを殺す為、凄まじい力を身につけている。
異能の力。科学技術の力。
そんなモノをぶつけ合えば……世界が、愛すべき星がどうなるか。
既に人類は世界を滅ぼして余りある力、核兵器を所持している。
それを超す破壊だ。冗談抜きに、惑星が壊されてしまうかもしれない。
主義主張のぶつけ合いで、関係のない自分達まで滅ぼされてしまう。
彼らは行動を開始することにした。
熱くなっている両勢力を説得したが、説得に向かった者達は、例外なく殺されてしまった。
事態の切迫を感じた中立派は、各国の代表に打診。
国際連盟にも連絡を取った。
しかし、国連は、国の連盟ではなくなっていた。
既に国という概念は意味を成していなかった。
重要なのは国ではなく、異能者か無能者か。それだけだ。
資本主義と共産主義で世界を分けようとしたアメリカとロシアのように、世界中が、二つの派閥に属しようとしていた。
EUは、無能派に協力することを誓った。
アメリカは、異能派に属することを決意。
ロシアも奇妙な事に、異能派寄りだった。
長いこと仲が悪かった両国が、同じ派閥に属していた。
過酷な環境であったロシアが異能者の発見を促進させたことが大きかった。
日本は……どっちつかずな対応をみせた。
異能派でも無能派でも、ましてや中立派でもない。
異能省というそれらしい省を創り上げ、黙認している。
その異能省の中で、既に三つの派閥が作り上げられていた。
異能派、無能派、中立派。
同じ国に、三つが混ぜられ、活動している。
そのような国は少なくなかったが、さらにおかしなことに、政府は情報統制でこのような争いはないことにした。
異能者が現れてなお、旧来の生活を守り通したのである。
すごいと褒め称えるべきか、愚かと糾弾するべきか。
テレビから流れるのはありもしないプロパガンダ。
政府が出した原稿を読むだけの機械と化したニュース番組。
色んな事を検索出来るはずのネットワークも、あちこち規制されている。
市民が気づく事のないように。
実際には、インターネットに詳しい者の多くが気づいていた。
突然話題にならなくなった県や、国。
装備が豪華過ぎる警察。
毎日報道されるのは異能者による凶悪な事件。
疑問に感じるなという方が無理だ。
陰謀論者なオタクや高二病を患った高校生。真面目な会社員。都市伝説が大好きな女子中学生。
彼らが掲示板やソーシャルコミュニティでおかしいと声を上げた。
そして、気づくとその声が聞こえなくなっていた。
書き込まれていた掲示板や、通話アプリ、ブログ、つぶやきツール。
全てが沈黙した。
ものによっては閉鎖、排除された。
そういうものに興味があった人々は直観的に理解した。
これを言うのはまずい。黙っていようと。
おかしく見えても、それが正常なのだ、と信じ込んだ。
日本は平和の国だ。それ以外、何もない。
社会の裏に蔓延る陰謀などありはしない。
最終的に、誰も疑問に感じなくなっていった。
今日も社会は回り始める。
裏側で、無実な人が殺されるのを黙認して。
――社会の闇を覗き見た、人々の末路――
証例1 ある夫婦の話
夫婦は、今年で結婚30周年となる。
子供も独り立ちし、老後、余生をどう過ごすか考え中だ。
そんな折、親戚から連絡が途絶えた。
その親戚は夫婦と仲が良く、よく電話で話す間柄だ。
向こうから電話は掛かって来ないし、こちらから掛けても通じない。
何が起きたのか、と疑問に思った。
夫婦が悩んでいると、公衆電話から電話が掛かってきた。
受話器から聞こえてきたのは、従妹の悲鳴に近い叫び声だ。
助けて! 殺される!
そう叫んだ後、通話が切れた。
それ以降、従妹から連絡が来ることはなかった。
夫は、パニックになった妻を励まし、警察に行ってくる! と家を出て行った。
だが、いつまで経っても帰って来ない。
携帯に何回発信しても、メールを送信しても、返信も着信もない。
大量に蓄積される発信、送信履歴。
不安に駆られた妻は、自分も警察に向かうことにした。
きっと説明が難しいのだろう。突然電話から悲鳴が、と言われても警察も困ってしまう。
だから、時間が掛かっているのだろう。
そう思いつつドアを開こうとすると、勝手にドアが開いた。
昔ながらの引き戸で、全自動な機能はついていない。
一瞬、夫が帰ってきたのかと思った。
ようやっと、説明が終わったのだと。
しかし、現れたのは拳銃を持った男だった。
悲鳴を上げながら腰を抜かし、銃口を恐怖の眼差しで見つめる。
男は淡々と妻に尋ねた。
生きるか? 死ぬか?
選択肢が一つしかない二択だった。
妻は生きることを選んだ。
結局、夫が帰ってくることはなかった。
警察に相談することも考えたが、息子の写真がポストに入っていたことで、考えを改めた。
ごめんなさい、お父さん。ごめんなさい。
妻の余生は、謝罪と罪悪感に押しつぶされる日々に決定した。
証例2 引きこもりがちの青年
青年は、引きこもりがちだった。
何で引きこもったのかはよくわからない。
わかっていれば、こうなってはいないはずだ。
現実に幻滅したからかもしれない。良い夢を見つけられなかったからかもしれない。
だが、趣味は見つけられた。
ネットサーフィンだ。
インターネットは便利だ。机に座りパソコンを開くだけで、世界を見ている気分になれる。
青年は毎日パソコンとにらめっこした。
ある意味パソコンが恋人ともいえる。現実にいるビッチで他人を見下してくるクソ女よりも、何の文句も言わないパソコンの方が素敵だ。
そして、世界を検索、閲覧する。
毎日が楽しかった。
そして、この愛すべき恋人を使えば、金が手に入るのではないか、と思った。
もちろん、非合法な仕事ではない。プログラマーかシステムエンジニアか。
パソコンを使って絵を描いたり、小説を書き連ねてもいい。
将来が見えた気がした。少し楽観的だったが。
そんな時である。一つの掲示板を見つけた。
今の社会はおかしい。我々は情報統制されている!
そんな扇情的な内容が書かれていた。
何だこりゃ。有り得ねえだろ。
そう思いつつ、掲示板を開いた。
陰謀論は見ている分には嫌いじゃなかったし、確かに疑問に思う事もなくはない。
島根県にいた友人から連絡が取れない。父親が死んだのに、母親が理由を話してくれない。
警察の装備が過剰過ぎる! 奴らは異能者の疑いがある無能者を殺しまくってるらしいぞ!
掲示板に書かれていたのは、扇情的な内容とは裏腹に切実なものばかりだった。
シリアス。ひたすらシリアス。
ゾクリと背筋が凍る内容もあった。
青年の日課に、この掲示板を閲覧するというものと、パソコンを使う仕事を探すというものが追加された。
毎日、たくさんの書き込みがあった。
その中に笑いを誘ったり、可笑しさを誘発させるものは何一つない。
ネットに書き込まれている情報は、全て真実ではない。嘘も大量にあった。
しかし、嘘の中に真実が隠されている場合もある。
純粋な興味から、男はその掲示板を見続けた。
ある日、掲示板で騒ぎが起こった。
ある書き込みが論争を引き起こしたのだ。
その書き込みは、女らしき(ネカマでなければ)ものだった。
私、異能者なんですけど、両親と連絡が取れないんです。
他の書き込みと同じく、切実さを感じさせるものだった。
その書き込みに向けて、一気に批判が殺到した。
お前達異能者のせいでこんな社会になっているんだぞ!
異能者は死んでしまえ!
などと、ひどいものばかりだった。
ちょっとひどすぎやしないかな。
青年は見たこともない書き込み主に同情してしまった。
もちろん、今ここで行われているやりとりが事実がどうかわからない。
だが、似たような書き込みが連なっている中で、異能者である者にだけ、そんな辛辣に当たるのは間違いではないのか。
他の書き込みには応援メッセージを送っているというのに。
ずっと閲覧していただけの青年は、初めて書き込みを行うことにした。
ちょっと言い過ぎじゃありませんか? この人も他の人と同じ被害者のはずです……社会の。
変な書き込みとなってしまったが、気にせずそのまま送信した。
最初こそ反論が飛んできたが、他の人の仲裁の書き込みもあり、最終的に沈静化した。
ありがとうございました。
丁寧なお礼が、発端の書き込み主から書き込まれた。
その書き込みによって、青年は暖かいものに包まれた。
書き込みから数日後。運よく仕事を見つけることが出来た。
給料が少ないのが難点だったが、引きこもりだった自分を雇ってくれるだけでありがたい。
もしかするとぼろ雑巾のように扱われるかもしれないが、なら止めてやりゃいいだけだ。
楽観的な青年は、決意を固め、いつも通り掲示板を開いた。
と、その前に。
携帯を開き、働けバカヤローと口やかましく言っていた幼馴染にメールを送ることにした。
あのクソ女もこれで黙るはずだ。
送信完了の文字を見て取った後、青年はパソコンに目を移した。
あ、あれ?
思わず言葉が漏れる。
掲示板が消えていた。
何度アクセスしても、新しい掲示板を検索しても発見することが出来ない。
どうなってんだ、と疑問に感じたその時、チャイムが鳴った。
携帯を机に置いて、玄関に向かう。
家に来るやつなんて誰だ? まさか、アイツがメールを見て来たわけじゃないだろうな。
色々と訪問主を妄想しながらドアを開く。
青年が部屋を出て行った後、携帯に着信があった。
発信者はクソ女と表示されている。
青年が携帯に出ないので留守番電話サービスに接続したようだ。
ごめん。電話するなって言ってたのに。でも、どうしても聞いて欲しくて……。あのね、両親と連絡が着かなくなっちゃったの。もう頼れる人がいなくて……。……実は、ずっと黙っていたことがあるの。
実は、実はね、私、異能者なんだ……。
青年がその告白を聞く事は二度となかった。
なぜなら、玄関で血を流し、横たわっていたから。
証例3 交番勤務の警察官
あー、今日も疲れたぜ。
男が同僚に愚痴をこぼすと、同僚は全くだ、と同意した。
今日も銃でゴミ共を射殺した。
一人はやる気だったが、他の二人は投降の意思を見せていた。
しかし、どうせ捕まえても死刑だ。なら俺達の手で殺した方が手っ取り早いだろ?
同僚に言うと、それもそうだな、と同僚は頷いた。
色んな武器を試したかったので、男はショットガン、同僚はスナイパーライフルを使用した。
ひゃっほう! と叫びながら男は引き金を引いた。
衝撃と共に、血しぶきが上がる。最高だぜ! と同僚も喜んでいた。
同僚も括り付けた異能者に向かって引き金を絞ったが、へたくそな同僚は五発も外した。
おいおい、対異能弾をけちってんだ。頭を狙わなきゃ死なないぞ。
男がぼやく。ならお前やってみろよ、と同僚がライフルを男に寄越す。
任せとけ!
男は自信満々に引き金を引いた。
穴だらけになっていた異能者はやっと苦しみから解放された。
よし、後始末をして、帰るぞ。
そう言って遊びの後のお片付けをした後、男達は交番に戻った。
そして今、愚痴をたれ合っているのである。
心地よい疲労感に包まれていた。
警察に入って、社会の真実ってやつにだいぶ驚かされたが、いつでも銃を撃っていいのは悪くねえ。
男はそう言ってにたにた笑っていた。
すると、突然交番の天井が破け始める。
な、何だ!?
男はショットガンを手に取って、その変化を見つめていた。
すると、天井から黒髪の女性が降ってくる。
まだとても若い。大人なり立て、二十代前半と言ったところだ。
私の幼馴染を殺したのはあなた達?
女は、破けた天井から顔を覗き込んで、訊ねてくる。
何言ってんだ! お前のクソ幼馴染なんか知らねえよ!
男はそう言ってショットガンを女に向けて、引き金を引く。
5、6発ぶっ放した。女は蜂の巣になっているはずだ。
そう思って天井を見上げたが、女の姿がない。
真っ赤に染まり、惨殺されているはずの女がいない。
くそ! 奴はどこに行った!?
焦った様子で同僚を見る。
同僚は男にわからん! とこれまた切羽詰まった様子で叫び、破れた。
男には同僚に何が起こったのかわからなかった。
びりびりと、まるで紙を引きちぎるように同僚が破れていく。
赤い中身が、交番の中に散らばった。
く……くそ!
男はショットガンを投げ捨て、アサルトライフルを手に取る。
そして、自分の手が破れ始めたのを目視した。
が……ぐぅああああああ!!
最初こそ悲鳴を上げていたが、すぐに喉が破け、声を出す事も出来なくなった。
男の死体が、千切れた紙のように散らばった。
証例4 異能者の女子高生
少女は、異能者だった。
その事をずっと隠し続けてきた。ばれたら大変なことになる、と幼心ながら理解していたからだ。
そして、偽装は上手くいき、少女は高校生になるまで異能者だとばれることはなかった。
友達が出来るかと不安で一杯だったが、それは杞憂だった。
仲間外れにも、いじめに遭うこともなく、学校生活を謳歌していた。
異能者である事を隠すことよりも、気になっているアイツへの恋心を抑える方が大変だった。
ヤバい、もう耐え切れないよう。
少女は毎日寝付けない夜に耐え切れず、勇気を振り絞って告白することにした。
そして、それは功を奏した。
お、俺もお前の事が好きだったんだ。
幸運な事に、少女は想い人と両想いだった。
少女と少年は付き合うことにした。
毎日がドキドキとワクワク。
恋人と共に過ごせる充実感で、少女は満たされていた。
そんな彼女の喉に突き刺さる骨だったのは、自分が異能者である事実だった。
異能者に対する風当たりは強い。学校にも同類がいたが、すぐに転校してしまった。
施設に行ったのかもしれない。異能者を収容する施設。
学校だと言われていたが、それなりに頭の良かった彼女には、それが牢獄であると推測出来た。
……でも、隠し事はしたくない。きっと彼なら、わかってくれるよね。
少女は聡明だったが、愚者だった。
愚かにも、彼氏に自分の秘密をばらした。
自分に不思議な力が宿っていることを、口にした。
な、何だよそれ……ふざけんなよ。
彼氏の態度は激変した。
恋人想いの優しい彼は、少女の両肩を憤怒の形相で掴んだ。
俺の事、ずっと騙していたのか!?
少女はあまりの痛みに顔をしかめた。だが、恋人は手の力を緩めてはくれない。
……そ、それは……でも、私はあなたのことが……。
ふざけんな! と少年は叫んだ。
俺は確かにお前のことが好きだった。でも、それは人間のお前だ! 化け物のお前じゃない!
俺の兄貴は、異能者に殺された! 兄貴は、警察官だったんだ!!
少年の手は、少女の肩から、首に移った。
復讐心を感じさせる瞳で、恋人だった人が、少女の首を絞める。
少女は抵抗しようと思ったが、愛する人を殺めることが出来なかった。
そのまま、目を瞑って少年に体を委ねる。
すると、不意に首の圧迫感が緩んだ。
改心してくれたのか。
少女は期待を込めて、目を開けた。
そして、少年が手に持っていたナイフで、期待が外れていたことを知る。
知ってるぜ。異能者はしぶといんだ。首を絞めただけじゃ死にはしねえ。体を切り刻まなきゃな!
ナイフを持った少年が、少女に迫る。
少女は絶望した。
目の前にいる恋人に。今あるこの社会に。
異能者を迫害する、無能者に。
う……うわああああああああああああ!
その叫びは、絶叫にも似た、悲しい叫びだった。
少女の前には、真っ赤に染まった、かつての恋人が横たわっている。
涙が止まらなかった。
彼なら全て受け入れてくれると、信じてたのに――。
少女は少年の死体の上で、一晩中泣き続けた。
証例5 社会から拒絶された異能者の少年
少年は社会の爪弾きものだった。
その事を悲しく感じていた自分は、とうの昔に置いてきた。
今の自分は違う。
自分は特別な力を持った、選ばれし人間だ。
同じ力を持つ、同志とも出会えた。
異能派という、集団だ。
彼らと出会って、少年の人生は凄まじい変化を遂げた。
くそったれに思えていた全てが輝いて見えたのだ。
自分の力は、敵を殺すものだと教えてくれた。
仲間と共に、迫害する奴らを滅ぼすのだ。
異能派は少年にそう告げて、チームと行動を共にさせた。
チームのリーダーは若い女性だ。
物質を千切る力を持っているらしい。
幼馴染を殺した犯人を捜しているようだった。
復讐に燃える彼女は恐ろしく強かった。
チームメイトには同い年の少女もいた。
この子は過去を話そうとはしない。
ただ、昔を尋ねると、悲しそうな瞳を覗かせるだけだ。
なら別に訊く必要はない。
少年はそう考えて、追及をやめた。
俺達に必要なのは、協力して敵を倒す事。
異能者を守るんだ。
少年は正義感に溢れた瞳で決意した。
少年のチームは、無能派の敵を殺し続けた。
命乞いをしてきた者もいるが、その人間は少女が殺した。
少女は無能者は信用できないという持論の持ち主だ。
命乞いなど嘘に決まっている。
少女は暗い瞳でそう言い放った。
そして、その意見に反対する者はチームにはいなかった。
その日も、いつも通り敵をチームで殺していた。満月が昇る、美しい夜だ。
だが、いつも通りでなかったのは、チームのひとりから連絡が途絶えたことだった。
仲間の身に何かあったと悟ったリーダーは、少年達に指示を出す。
私が様子を見てくるから、あなた達はここで待っていて。
リーダーはチームメイトの男を連れて、様子を見に行った。
裏路地に座り込み、少年と少女は待ち続ける。
だが、リーダー達はいつまで立っても帰って来なかった。
いくら何でも遅いね。私達も見に行ってみよう。
少女に促され、少年も様子を見に行くこととした。
ある程度現場に近づくと、聞こえてきたのは銃声だった。
少年と少女は連絡が途絶えた現場へと走り出す。
銃声とリーダーの声が聞こえてくる。
お前が……お前が例の……!!
その言葉の後、再度銃声が轟き、リーダーの声は聞こえなくなった。
少女の息を呑む声が耳に届く。
現場に辿り着いた二人が目にしたのは、仲間の死体と、くしゃくしゃに破れた建物だった。
リーダーの異能だろう。
そのリーダーは頭を撃ち抜かれて絶命していた。
……っ! 誰がこんなことを!
と叫んだ少年に、少女があれ! と呼びかけた。
少女の指先を辿ると、暗闇の中に、金色の何かが光輝いている。
それが何か、最初はわからなかったが、段々、光り輝くそれが何かわかった。
銃だ。金色の拳銃。
少年は異能派に警告されていた事を思い出した。
異能殺しという奴がいる。黒髪に、黒い服装、黒いキャップ帽を被った少女だ。
見た目に騙されるな。奴は歴戦の暗殺者。
油断するな。目撃したら、確実に殺せ!
それが異能者の為だ!
お前が、異能殺しか!
少年と同じ結論に達した少女が叫んだ。
だが、暗闇に紛れている少女は答えない。
代わりに、銃弾が放たれた。
悲しい瞳をしたチームメイトは、銃弾に身体を射抜かれ射殺された。
よくも! みんなを!
少年はイメージした。
自分に宿る力を。敵を殺す異能を。
だが、少年が異能を発動させるよりも、異能殺しが拳銃を撃つ方が速かった。
暗殺……完了。
少年の耳に、異能殺しの声が届く事はない。
追記
興味本位で、社会の闇を覗くことなかれ。
お前が闇を見ているということは、闇もまた、お前を見ているということだ。
――電源を切り忘れていたボイスレコーダー――
「……彩香。勝手に記録を物語風にするのはやめて」
「え? その方が見やすいでしょ?」
「そうかもしれないけど……はぁ……」
「ため息つかないの。幸せが逃げていくよ?」
「……私に幸せが訪れることはない」
「またそういう事言う。きっとあなたを理解してくれる誰かが……」
「そんな人はいない」
「って、あっ……ちょ! はぁ、まだ話の途中なのに……。あ、レコーダー点けっぱなしじゃん……。……この記録を見せられるような仲間が、心に出来るといいんだけどな」
読んで下さった方、ありがとうございました。
世界観理解の足しになれば……。