Angel
天使ってさ、白くて、綺麗で、可愛くて…
きっと金髪碧眼で、誰にでも優しくて
そして誰からも愛される存在だよな〜。
なんて、考えてた。
今は、それを少し悔いている。
♪ピロリロピロリロ
携帯の、着メールの音。
きた。
『天国』からのラヴ・コールだ。
この音が鳴るたびに、むしろ気分は
STAR WARSのダースベイダー登場の気分だ。
チカチカと光るメール着信のランプ。
カチャリと開き、メールを見ると…。
『10分以内に迎えに来て』
もう、ただのアッシー(死語)だ…。
でも、僕は黙って従う。
彼女には…天使には、逆らえないのだ。
「遅い!!」
「う…ゴメン」
「ダメ、許さない。このまま海までドライブの刑、ケッテー」
「ハイハイ」
レッツラ、ゴー!!
拳を振り上げて彼女、安樹は叫ぶ。
そのまま、助手席に当たり前に乗り込んで、早く早くと急かす。
溜息ひとつして、僕は彼女に従う。
彼女は天使だ。
安樹、という名前も「Angel」からとっているのだという。
という意味だけでなく、彼女は天使だ。
とりあえず、そういうことになっている。
別に、彼女は「電波」でもないし、虚言癖がある訳ではない。
俗に言う「天使」というカテゴリに分類されるべき生態系?に基づいているから「天使」とされている。
そう、彼女はまぎれもなく「天使」なのだ。
要は、人ではない…らしい。
どこが、とか、どういう風に、といわれても説明できないが彼女は「天使」なのだ。
それがたとえ、金髪碧眼でなくても。白い羽なんて持っていなくても。
誰からも愛され、愛してくれる存在でなくても。
僕だけの天使…などとクサイ科白を言うつもりもなく、彼女は天使なのだ、一応。
こんなんでも。
原油価格が高騰して、ガソリン代は日々ウナギ昇りの中、確実に片道50キロ以上もかかる海まで行け、と言われながら、内心トホホと呟いて。
それでなくても最近は「ハイオク満タン!」などとはもういえなくなって久しいが、それでも僕は彼女のために車を走らせる。
鼻歌交じりで窓の外を眺める彼女は、確かに可愛い……が。
ホレタ弱みなのか…どうなのか。
「うっみ〜、海、うみ、ウミ、海〜♪」
海に着くなり、彼女ははしゃいで騒いで、はだしで駆けずり回って…。やたらとハイテンションだった。
もう、付き合いきれないくらい元気だ。
「うみうみうみうみうみ……」
「煩いよ、安樹」
「う〜みぃ〜、うっみぃぃぃぃ」
一人勝手に「海の歌」をオリジナルアレンジで歌いながら、彼女は子供のようにはしゃぐ。
天使のように…とは言わない。
なぜなら、何度も言うが、彼女はれっきとした天使だからだ。
天使らしからぬ天使、安樹ははしゃいで、叫んで歌って…傍若無人振りを大いに発揮して、くたびれるまでトコトン全力で…そして。
いまは、助手席で眠っている。
あどけない、天使の微笑ですやすやと寝息を立てているのを見ると、嬉しい反面、なんだか少しむかつく。
小悪魔、という表現がピッタリな天使。
僕を振り回すだけ振り回して、悪気もなく、ただ自由気ままに生きている天使。安樹。
「あらだって、天使は悪魔と双子の兄弟なのよ」