事件編 幕間2
『イキノコリ』は真っ暗な村の中をゆっくり歩いていた。
周囲には誰もいない。この村へ続く道が完全封鎖されて以来、ずっと続いている光景である。
だが、今はこの村の中に何人もの人間がいる。
『イキノコリ』はゆっくりと『村上』の表札が出ている家を見上げた。かつてこの村の長が住んでいた家。今、この家には十人の人間がいる。
この村に踏み入ってはならない。『イキノコリ』はそれを彼らに警告しようとした。しかし、彼らは『イキノコリ』のサインに気づくことはなかった。
踏み入ってしまった以上、もう逃げ出す事はできない。『イキノコリ』は覚悟を決めていた。
『イキノコリ』は門をくぐり、村上家の敷地に入る。その手には、古びた手斧が握られていた。本来であれば林業のために使うものであるが、『イキノコリ』は無論そんな目的で持っているのではない。
『イキノコリ』はそのまま母屋を素通りし、奥にある離れの方に向かった。離れの勝手口の前に立つ。そのまま手斧をしっかり握り締めると、勝手口に手をかけた。
その時だった。
「誰かいるのか?」
不意に後ろから声をかけられ、『イキノコリ』は反射的に振り返った。
そこには……