VRMMO-RPGという無理のある話
いきなりであるが、VRでRPGをやるというのは無理があります。その理由を挙げていきます。
・ 倫理観の問題
・ 体を動かすという事
・ 安全性の欠如
・ お金の問題
・ 社会秩序に与える影響
他にも問題はありますが、今回はこれらについて述べていきます。
・ 倫理観の問題
これについては簡単です。
『もし自分がこんなゲームをやる事になったら』と想像して下さい。それだけで十分でしょう。
少なくとも、私にはできません。
他人を攻撃するという行為そのものが、恐怖心と嫌悪感を伴うものであるからです。
MMO-PRGをやって、他のプレイヤーと戦えないシステムなどまずないでしょう。好む好まざるにかかわらず、PvP(プレイヤー間バトル)は行われるはずです。
しかし、実際にそれができないのです。心理的な側面からみると。
「スポーツの試合はどうなる、それと同じじゃないか」と思う人もいるかもしれません。いや、大勢いるでしょう。
しかし相手に向けるのは刃物であり、魔法を使うなら火達磨にすることになるのです。
それに耐えられるか?
まずはそこが問題になります。
これはモンスターに対しても言える事です。小動物系の外見をしたモンスターに、あなたは攻撃できますか?
倫理観から少し離れますが、見た目のグロいモンスターに出会う事も、忌避されるであろう理由となりうる事を追記しておきます。
・ 体を動かすという事
一般人は、戦うことなどしません。
よって、戦闘をするとしてもチャンバラごっこの延長、外から見れば非常にカッコ悪い子供の喧嘩になるでしょう。初期は。
しかしゲームにはレベルやスキルがあり、これらを上げていくことで長くやっているプレイヤーは見栄えのいい、カッコいい戦闘ができるようになる。ダメージは大きく、攻撃は外さない。派手なスキルを使いこなし、まるで物語の英雄の様。
ですがちょっと待ってください。それはどんな理屈なのでしょうか?
単純にステータスが上がり、ステータス、攻撃能力が上がったというならOKです。しかし、見栄えのいい・無駄のない戦闘に適した動きなどはどのような理屈でできるのでしょうか?
「ゲームシステムがサポートするんだ」というなら、これ、実は大問題になります。
それができたと仮定します。それ、怖くありませんか?
「体を勝手に動かされる」というのは、普通に考えたら恐怖の対象です。
例えばですよ?
「無理矢理ゲーム世界に連れていかれ」「体の自由を奪われる」
これを成立させる下地になります。
VRマシンから行動内容をサーバーに伝え、それが実行される。その間に他のものが混じるというのは、どれだけの恐怖心を煽るのでしょう?
「最初からそれは可能じゃないのか」と言われると、私は少し違うと考えます。
おそらくですが、VRマシンはある程度の独立性を有しているでしょう。サーバーにすべてを依存させず、不必要な情報をシャットアウトする機能を持たせるはずです。どういう事かというと、VRマシンはサーバーに対し行動内容を伝え、行動結果を受け取る役割をしているという物のはずです。「体をどう動かしたか」を決めているのはVRマシン単体のはずなのです。
これを怠ると、足を動かそうとしたはずが手が動く情報が返ってくる事もありうるのです。脳はインプット・アウトプットの誤差に混乱するでしょう。一部の小説では「VR酔い」などと呼ばれる現象です。
多少の誤差でも許容すると、認識のずれがどのような不都合を現実に持ち込むのか。それについては予測でしかありませんが、最悪、体を動かすことができなくなると、私は考えます。
対策として、
・ 周囲への視認情報を弄る(本人の感覚はそのまま)
・ 命中判定、ダメージ判定などはゲーム上のステータスでのみ行う
といった事ができます。
まあ、廃人の方々はそのような補正など無くとも、見栄えを意識して戦えるようになるでしょうが。
・ 安全性の欠如
VRマシンが脳に送れる情報はどこまで許容されるのでしょう。
受け取る側については、ここでは触れません。VRマシンから脳へ送る情報についてのみ取り扱います。
昔、TVアニメで強い発光現象を表現したところ、視聴者の健康を害してしまった事件がありました。これがVRゲームに適用されたらどうなるでしょう?
ゲームならではの派手で素晴らしい演出も、「健康を害する危険があるから」と排除されてしまうのではないでしょうか。
ど派手な攻撃魔法もなく淡々とした地味な魔法がほとんどになり。モンスターの攻撃演出もつまらないものになる。それはプレイヤーの興味を引き、楽しませるものでしょうか?
他の問題として、一部の小説で採用されている「脳内の体感時間を加速させる」システム。
これについてはあまり説明は要りませんよね?
脳に通常の数倍の情報を押し付ければその分物理的な負荷が上昇し、軽い発熱で済めばいいのですが、最悪死に至るケースも出てくるでしょう。取り扱っている小説では「何倍までなら大丈夫」と検証されていますけど、それ、どうやって検証したのでしょうね? 人体実験だったらドン引きですよ。
ついでに、時間感覚が狂う事で食事や排せつなどの生体維持にも悪影響を及ぼし、体の調子を崩す人が出るのではないでしょうか。モニタリングして体調がやばそうなら強制退去、では済まないのです。
・ お金の問題
VRマシン、気になるお値段はいったいいくらぐらいなのでしょうね。
小説に出てくる登場人物はほとんどがサイバーパンクのような「電脳化した」方々ではなく、我々と同じようなごく普通の一般人にみえます。読者の共感を得るための措置ですよね、分かります。
ですが、その場合のVRマシンは「外部から脳の情報を読み取り」「脳に情報を出力する装置」ってことになります。
形状によっては気軽に犯罪に使われるであろうそれを、おひとつ何円で販売しているのでしょうか。
何十万で、払い終わる値段でしょうか。
高い技術力に裏打ちされ、犯罪対策もしっかり行われ、人体への悪影響などない、そんな装置のお値段です。
気軽に個人で買える物なのでしょうかねぇ?
これについては企業がまだ研究中だったり、ゲームセンターが設置する個人には販売されないシロモノだったり、専用の施設でしか使えなかったりするといった描写の小説についてはこの問題は解決済みですので、特に気にしなくても読めます。
ですが、ヘッドセット状のそれを個人が気軽に所有したり譲渡したりするお話は、かなり違和感を感じてしまいます。君らが手にするそれ、一体何なのか考えたことがあるのかと突っ込みたくなります。
・ 社会秩序に与える影響
RPGの華はやはり戦闘です。
倫理観のところで触れた問題をもう少し踏み込んで考えます。
強いダメージは再現せず、どんな攻撃を受けても「触られた」程度の感覚しか表現しない。それで済む問題ではありません。「攻撃される」というのは強い心理的負荷を伴う事です。ゲーム内で「不意打ち」を扱う場合、それを警戒する気持ちが生まれるでしょう。長時間のプレイをすれば、それは常時維持される状態になるはずです。ゲーム後に警戒を解除することができなくなる人も出るでしょう。それが社会生活にそれがどのような影響をもたらすのか。考えてみると怖い問題です。
また、攻撃する側にも問題は出るでしょう。ゲームと同じ気持ちで他人を攻撃する子供も出てくると予想されます。実際に自分の体と同じ感覚で遊べるVR世界と現実の境界は曖昧です。「境界線」を踏み越えるのは今あるゲームと比べ、とても簡単です。
これについては「漫画の描写に文句をつける評論家と同じことを言っている」訳ではありません。まず間違いなく、出てきます。ごく少数だろうとクローズアップされ、メーカーは撤退に追い込まれるのです。
対策は多くありません。R15指定などという生易しい規制では済まないないでしょう。最低でも18禁ゲームに分類されます。
他にもいくつかの審査が入り、気軽に遊べるものではなくなると思われます。
とりあえず思いついた問題点をいくつか挙げてみました。VRMMOを扱う作者様には、これら問題点を乗り越えた作品を期待しています。
私が思いつく程度の問題点ですから、乗り越える手段はきっといっぱいあるはずです。
お付き合い、ありがとうございました。