雨あがり
「迎えにきたよ。」嬉しい、ずっとこんな日を夢に見ていた。現実にはありえないことだと分かっているのに。もう、私が横にいることはできないと解っているのに。
夢に見すぎたのね。聞き間違いだわ。
放心していたクリスティーナだったが、ハッと我にかえり、とにかく何か話さなければと
「あ、あの、、、」
と口にしたと同時に
「ティーナ、どこにいくつもり?
せっかく再会できたのだから話でもしよう?」
と、ハルトが口を開いた。
クリスティーナは、言われるがままその家で唯一、お客様にお茶を出せる場所に案内した。
そして、エドワードの上着を脱がせ、自分もコート脱いだ。「どうぞ、今お茶を入れますね。」
今しがた火を消したばかりだったので、思いの外早くわけたので、
お茶を淹れた。
「こんなお茶しかご用意できませんが、」
ハルトは笑みを浮かべたままそれを口に運ぶと
「本当に不味いね。」
クリスティーナは、苦笑いするしかなかった。
あの頃に飲んでいたのは、庶民には手が出ない品だった。
エドワードが母のスカートをに握りしめ、
「かあさん、あの人、だぁれ?」
クリスティーナは、少し戸惑ったが
「お客様よ。エドワード、ご挨拶しなさい。」
エドワードとともにハルトの方をむくと、
「ハルト様、私の子でエドワードと申します。」
「こんにちわ。」
「君の髪と目はティーナにそっくりだね。私はラインハルトだよ。」
「りぃんはると?」
「ラインハルト。ハルトでもいいよ。」
「ハァルト?」
「そうだよ。」
「エド、ハルト様とお呼びしなさい。」
「うん、かあさん」
「エド、かぁさん少しハルト様とお話があるからね。ねんねのとこで遊んででもいいわよ。」
「うん。」
エドが見えなくなると、クリスティーナはハルトの向かいに座り、声を発した。
「お久しぶりでございます。お元気そうでなによりでございます。」
ラインハルトは少し眉間に皺を寄せたが、すぐに表情を取り繕うと
「あぁ、元気だよ。ティーナも幸せそうだな。」
ハルトにそう言われると泣きそうになるクリスティーナだったが、笑顔を浮かべ、
「えぇ、とても幸せですわ。」
と言い切った。
実際、幸せなのだ。愛する人の子供を己の手に抱くことができ、穏やかな日々を送ることができていたのだから。
だから、これ以上の幸せは願ってはいけないのだ。
「そうか。
ところで、荷造りはどれくらいで出来そうだ?」
ラインハルトの言葉に忘れていた先程の「迎えにきたよ。」が重なる。
「はい?ハルト様、わたくし意味がわからないのですが、教えて頂けますか?」
「さっきも言っただろう?迎えにきたよ。って。さぁ準備して!」
「ハッハルト様、説明になっておりません。」
ちゃんと教えてほしい。とんでもない勘違いをする前に。私の胸の鼓動がこれ以上の早くなる前に。
「ふぅ。
実はさ、これから6ヶ月間リングランの町にいかなくてはいけなくなってね。急な話でね、誰もつれてこれなかったんだよ。3ヶ月間だけでも私の世話をしてくれないか?」
使用人としてなのね。胸の鼓動は静まり冷えていった。わたしは浅はかにもハルト様の一言に期待してしまっていたんだわ。まだ、こんなにも翻弄されてしまうのね。
「無理です。私、これでも仕立て屋を生業にしておりますし、この家をあけることなどできません。エドをおいて行くことなどできませんし、一緒にいけば反対にご迷惑をおかけします。」
「仕立て屋は隣村にもいるだろう。エドの面倒は私も手伝うよ。私が1人では暮らしていけないのしっているだろう?」
確かに、ハルト様はおひとりでは無理だ、飢え死にするか本に埋もれて見つからなくなるかはたま昼夜逆転の生活をおくり、ほうけてしまうだろう。でも、一緒にいけばまた苦しくなるわ。
「もちろん、報酬は払うよ。ティーナは、要りようだろう?」
えっ!どうして?それをしってるの。いいえ、知っているはずはないわ。
クリスティーナは、町の教会を手伝っていたが地主が立ち退きを要求していて教会へエドの為にと蓄えてあったものをわたしていたのだった。
しかし、それを渡したのは3日前のことであるし、ラインハルトが知り得るはずのないことである。
「それに、君のつれはあと1年は戻って来ないのだろう。」
「な、なぜそれを?」
今度こそ、クリスティーナは驚き、問うた。
「君はこの村では有名みたいだし、メリさんだっけた?近所の人からも聞いたんだよ。」