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月日  作者: 朔芭
1/9

春の木漏れ日

すまない、いけない。




雪の季節が終わり、草木が芽吹く時 都から 民の足で2日はかかる田舎の村では春を祝う祭りのための準備がされていた。


祭りには、女子供がこの日の為に一年を通して摘んだ草花や果実を乾燥させリースにさせたものを各家々が用意する風習がある。



村で仕立て屋を生業とし、慎ましい生活を送る妙齢の女も準備に勤しんでいた。


この村での生活も、もう4年経とうとしていた。


しかし、女は感慨に更けることなく黙々と作業をこなしていた。


なぜなら、女のかわいい息子が天使の寝顔でいるうちに終わらせるため。


寝ている息子は天使だが起きてしまえば、やんちゃな魔王となることはわかりきっている。


「あとは、リースをドアに飾ればいいわ。エド、もうすこしいい子で寝ててね。」


我が子に柔らかい眼差しを向けると丸椅子とリースを手に扉へとすすむ。


丸椅子に登り、リースを手に戸に飾ろうとした

その時、


「ティーナ」


女の後ろから 掠れた低音で呟きが聞こえた。


女は振り返ることができなかった。


その呟かれた名は正しく彼女の名 クリスティーナの愛称だが 皆にはクリスと呼ばれていた。ある一人を除いて。


女、クリスティーナは息をするのも忘れるほど放心していた。


あの人の声、あの人が呼ぶ名、忘れようとしても忘れることなどできなかった 頭からは離れず 私の心を今なお奪っている 逢いたくて会いたくない 愛しい ハルト様。


淡い期待を込めゆっくりと振り返るが、そこに見えるのはいつもの変わらぬ村の風景だった。祭りのため少しは賑やかではあるが。


彼のはずがない。

いるはずがない。


彼の声はもうすこし違っていたような気がする。

未だに想い続ける己の浅はかさから

幻を聴いたのだ。


彼が春の日差しを思わせる笑顔で柔らかな声で「ティーナ」 と呼ぶ 。かつての彼が脳裏に浮かぶ。

あの頃は、名を呼ばれるだけで頬が熱くなり、心臓が早鐘を打ったものだ。


クリスティーナが過去に浸っていた時、


戸の中より 「かあさん?かあさん。。かあさぁん!うわぁ~ん!」


今のクリスティーナに残された宝が呼んでいた。

クリスティーナは微笑みながら丸椅子を持ち、「はい、はい。エド。かぁさまはここにいるわ!」屋内へと戻っていった。


それを深い緑色の瞳が、憎しみを込めて見つめていた。あの時より一時も忘れたことなどない、かつては愛しかった女をやっと見つけたのだ。


「許さない。どうして笑える。お前の幸せなど潰してやる。」


男は拳を握り、目をつぶると今は怒りを抑える。冷静にならねば、彼女に復習するために。


男はひとまず宿へと戻っていった。


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