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Heart's Cry-8

 「ヴォーグ先生を知っているのか?」

王子は俯いていたわたくしの顔を、訝しげに覗き込まれました。

「……ええ、たいへん有名な方でございますから。私などに後任をお任せにならずとも十分な方なのでございますが……。」

そうは言いつつも、私は師匠の考えが手に取るようにわかりました。十数年も一緒に暮らしてきたのです。当たり前と言えば、当たり前なのでしょうが……。

「へえ、お前がそこまで言うなら相当の実力者なんだろうな。でもお前を後任に推薦したのも先生だったんだ。つまり、先生はお前こそが俺に魔法を教えるのに相応しいと思っているってことだろ?」

「かのヴォーグ氏にそこまで買われることは、魔法使いにとって最高の名誉でございます。」

これは本当のことでございます。師は厳しいお方です。これも私の実力を試してのことでしょう。しかしそれは師が、私が王子に魔法をお教えすることができると信じていらっしゃるからでしょう。これは、久しぶりの師からの課題なのでございます。


 「ヴォーグ先生はこう言っていたよ。“デュラン=コナーは数いる魔法使いの中でも、最高ランクに位置する者だ。私にできないことでも、彼ならば或いは可能かもしれない”……とね。」

そうおっしゃって、王子はにこっとお笑いになりました。その白い歯が、少し眩しく思えるのです。

「……そのご期待に添えるよう、努力して参ります。」

私は一礼しました。


 師は、まさかこのために私の性別を男としたのでしょうか? 十八年も前から……。

 そういえばまだ私が師と共に暮らしていた頃、ある時を境に師は家を開けることが多くなりました。それは王子がちょうど十歳くらいのお年頃のことでした。どこに行かれているのかお尋ねしたときに、師は「まだお生まれになっていない頃からお仕えしている方の下へ」とおっしゃっていました。師は世界的に有名な魔法使い。国王陛下とお顔を合わせたこともあったでしょう。ということは――


 王子の家庭教師となるよう陛下からご依頼を受けた師は、始めから王子の“魔法使いになることに於いての問題点”に気付き、さらに私を鍛え上げた上で、王子の家庭教師となることを予見していたのでしょう。今なお女性が魔法を扱うことは少ないこの世で、王子に魔法を教えるのが女の私ではありえません。師は私を男とすることで、その目論見通り私は王子の家庭教師の任を拝命する。

 ――私の結論はこうでした。辻褄は合っています。改めて師の偉大さに気付かされました。……しかしです。


 「……王子、たいへん申し上げにくいのですが……。」

私は王子のお傍で跪いたまま、少し顔を上げて王子を仰ぎ見ました。

「なんだよ、改まって?」

王子は首を傾げました。私は一拍分の間をおいて、続けました。

「私は、女なのでございます。」

空気の流れが一瞬止まるのを、私は感じました。師の意思は理解しましたが、やはり王子に嘘をつくことはできるはずもございません。折角の高給・厚遇のアルバイトではございますが、やはり私には荷が重い仕事なのです。

 ややあって、王子は吹き出しました。

「お、王子?」

「……っく、ははは! デュラン、お前でも冗談は言うんだな? まあ、お前は確かに女装が似合いそうだが、女と言わなくても……くっくっく。ああ、悪い悪い。……ふっ。」

その王子の反応を見て、私が思ったことは――



 ……ダメだこりゃ。


 拝謁して早々に崩れ去った予てからの王子のイメージを、それでも高貴なお方だと尊敬の念でごまかしていた私の心中での王子の扱いを、完全に格下げした瞬間なのでございました。ええ、少しどころではございません。完全に王子は……天然が入ってるんです。

これにて第一部、「ハーツクライ」終了です。こんな始めから長くなってしまいました。

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