Heart's Cry-6
〈注釈〉
※1…もちろん「魔法の杖」は比喩的表現であり、魔法を使う際に杖などは必要ない。ここでは前文明の「魔法」のイメージをそのまま指輪に当てはめている。
「して、それはどのようなものなんだ?」
王子は興味深そうにお尋ねになりました。
「……では、こちらをご覧ください。」
私は左手の中指の、少し大きめの指輪を外しました。そしてそれを手のひらの上に置き、王子の方へ持っていきました。
「――指輪?」
王子は訝しげに首をひねりました。
「この指輪は、ただの装飾品ではございません。私が特別にこしらえたものでございます。」
「もっと近くで見てもいいか?」
私が頷きますと、王子は指輪をお手にとって、しげしげとご覧になりました。
「……材質は銀だな。この中央の石は……柘榴石か?」
王子はぴたりと言い当てました。そう、全くその通りなのでございます。
「流石は王子でございます。それは銀の指輪にガーネットを嵌め込んだもの。」
私は自宅より持ち出して参りました荷物の中から、皮の小袋に入ったケースを取り出しました。
「王子、こちらを。」
私はそのケースの蓋を開けて、王子にお見せしました。
「……宝石の原石?」
鉱石に於きましても博識なのでしょう、王子はただの石ころとお思いになってもおかしくないケースの中身を、一目見ただけで言い当ててしまいました。ええ、これには私も感動したものです。
「これらを私は“ラフカットエレメント”と呼んでおります。その指輪の石も同じものでございます。」
「これに、何か特別な力があるのか?」
王子は私の指輪をお返しになり、それから真剣な眼差しでそれらを確かめておいでになりました。
「いいえ、これらはまだただの原石でございます。……王子、なにか常に身に着けていらっしゃるアクセサリーをお持ちですか?」
私は手袋を嵌めながらケースの中を吟味して、ひとつ石を選びました。
「この指輪を。」
王子は御自らの右手小指の指輪を外されて、それを私に渡してくださいました。やや古ぼけている印象ですが、おそらく高価なものだとは、一見してわかりました。
「……王子、これはおそらく希少なものでございましょう。今からこちらにラフカットエレメントを嵌め込んでしまいますが、よろしいですか?」
「これは俺が肌身離さず持っているものだ。絶対に失くさない自信があるからな。構わない。」
王子は笑ってお答えになりました。
「……かしこまりました。」
私はラフカットエレメントに魔力を籠めました。時間にして十秒ほどのことでございます。先ほどまでただの青みがかった石ころだったのが、透明度の高いアクアマリンになるのです。それを王子の指輪に押し付けますと、これで完成でございます。
「これで、王子が魔法を扱う際に役立つことでございましょう。この指輪は、“魔法の杖”(※1)のようなものでございます。より魔力を制御しやすくするために、師が私のために考案したものでございます。」
私はソファから腰を上げ、王子のお傍まで参りました。
「王子、お手を。」
私は王子の横にひざまずき、左手を差しのべました。王子はそっと私の手の上に、右手を置かれました。王子の指は男性にしては細く、綺麗な御手をお持ちでいらっしゃいました。私は王子の小指に、そっと指輪を嵌めました。
「……王子、これは誓いの指輪と致します。必ずや、王子が魔法をお使いになられると……。」
私はそう申し上げて、やや古めかしいでしょうか。騎士が姫君にかしずく様に、頭を下げました。
「――これは母上の形見の指輪だったんだ。ありがとう、大切にするよ。」
王子は優しくおっしゃいました。この身に余る光栄でございました。
「……デュラン、お前はこの国で一番のいい男さ!」
王子は私の手をお取りになりました。私は少し驚きまして、顔を上げました。
そのときの王子の笑顔と言ったら、まるで夏の太陽のごとく輝くのでございます。
「……いや、一番はこの俺か? ならば二番目か……。」
王子は色々と呟いていらっしゃいました。
――今、なんと?