Heart's Cry-5
〈注釈〉
※1…ここで言う「魔力」は、魔法を扱うのに必要な精神力、集中力、体力、器用さなどの総称である。
「……率直に言うが、俺は本当に魔法だけが苦手なんだ。魔法を使おうとしても、上手く制御ができないというか……。」
王子と私は、貴賓室で向かい合っておりました。王子がしばらく二人きりにしてくれ、とおっしゃいましたので、この部屋には他に誰もいません。
改めて王子のご尊顔を拝しますと、鼻筋の通った、よく整っていらっしゃるお顔立ちでございました。とりわけ、大きなグリーンの瞳と滑らかなダークブロンドがたいへん美しく、これまで見たこともないほど麗しいお方でして、まさしく王子、このお方こそ、今生を謳歌なさるに相応しいお姿をしておられるのです。
「――かしこまりました、殿下。微力ながら、殿下のお役に立てるよう尽力いたします。……この身にかえましても。」
王子から直接お話を伺いましても、残念なことにその原因はわかりませんでした。ですが、私にも思い当たることはありました。
「……デュラン。」
「如何しましたか、殿下?」
少しの沈黙の後、王子は軽く溜息をおつきになりました。何か粗相をしたのかと、一瞬肝が冷えたものです。
「その、“殿下”という呼び方はやめてくれよ。堅苦しいんだ。この城じゃあ、そんな呼び方するヤツはいないんだから。」
王子は少し困ったように笑いながらおっしゃいました。
「……では、何とお呼び申し上げればよろしいのでしょうか?」
「そうだな。リードで十分だ……と言いたいところだが、お前は絶対言わなさそうだからな。せめて“王子”と呼んでくれ。城内の者は皆それで通してる。」
王子は私のことをよく理解していらっしゃるようでした。王子を呼び捨てにするなど、口が裂けてもできることではありません。私は少しほっとしながら、承知しました、と申し上げました。
「殿下……いえ、王子。実は、私にも幼い頃、同じようなことがございました。」
話を切り替えますと、王子が興味深げに身を乗り出してこられました。
「――と、言うと?」
「はい。あれは、私が魔法の基礎知識を習得し、いざ実践しようとしたときでございました。確か――そう、力を込めずに小石を割る、といった課題でした。」
私はその時と同じように、左手を見ました。今でもそのときのことを、はっきりと覚えています。
「私の知識は完璧だったと今も自負できますし、魔力(※1)も師の折り紙つきでした。恥ずかしながら、私は成功を確信したまま挑んだのです。ですが……小石は割れるどころか、ヒビすら入らなかったのでございます。」
王子は真剣そうに、私の話に耳を傾けておられました。
「師に尋ねたところでも、原因はわからないと。しかし、恐らくは私の制御能力が、自分の潜在的な魔力と見合ってないのだろうと申しておりました。――王子もご存知の通り、魔法とは繊細なものでございますから、いくら力が強大でも、それを引き出したり、コントロールしたりする能力が無ければ、上手く扱えぬものなのでございます。」
「……。」
王子は腕を組み、何か考え事をなさっているように見えました。
「――そこで王子。一つお願い申し上げたいことがあるのですが……よろしいでしょうか?」
王子はお顔をお上げになりました。
「俺にできることか?」
「はい。王子のお役に立てることができればよろしいのですが……。」
私が十数年前師に受けた施しを、今度は私が王子に捧げようと思いました。




