Heart's Cry-4
〈注釈〉
※1…「魔法」を専門とする職業「魔法使い」に就いている者はやや変わり者と見られ、細い吊り目に眼鏡をかけている“嫌味っぽいインテリ顔”が風刺的なイメージであった。王子に当然悪気は無いのだが、デュランはあまりそのイメージを好ましく思っていない。
「――なるほど。あいわかりました。」
アルバ氏から受け取ったファイルには一通り目を通しました。書かれていたのは王子のプロフィールから、魔法以外の知識、身体能力、性格など……。私がこれを拝見してもよろしかったのかは別として、そこには王子の全ての情報が記されていたのです。そしてもちろん、王子の魔法の腕に関しましても……。
「如何ですか、デュラン殿? 王子はやはり魔法を扱えぬのでしょうか……。」
アルバ氏は少し不安そうにおっしゃいました。私は彼に微笑んで見せました。
「心配ありません。誰にでも魔法を扱える才能はあるのですから。王子の伸びしろは十分ございます。」
「……では……!」
アルバ氏は目を輝かせました。本当に王子のことを心からご心配なさっていたのでしょう、その気持ちがひしひしと伝わりました。
「王子のお申し出を頂いたのです。何が何でも私が王子を優秀な魔法使いにしてさしあげねばなりません。……お任せください。」
私は立ち上がり、一礼しました。アルバ氏は私の手を固く握り、うっすら涙まで浮かべました。
「王子をお呼びして参ります。是非ともデュラン殿に御自らご挨拶申し上げたいとおっしゃっていましたので。」
そうアルバ氏が立ち去った後、貴賓室には私と一人の侍女のみになりました。王子に拝謁叶うとは、一生縁の無いことだと思っていました。いいえ、今でも信じられないことでございます。魔法使いになってよかった、そうしみじみと感じられます。
思い起こしてみれば、私が師匠の下で魔法の修行を始めたのは十数年前。親に捨てられた私を赤ん坊の時から育ててくれた師は、私の父親代わりでもありました。今日の私があるのは紛れもなく師父のおかげです。しばらくして落ち着いたら、手紙を送りましょう。
そう考えていたときに、貴賓室の扉が開きました。私はソファから腰を上げて、自分の服装に乱れが無いかを視界の端で確かめながら、扉の方に向き直り、最敬礼でお迎えいたしました。
そう、王子がおいでになったのです。
「――君がデュランか!」
まだ頭を上げていないので、王子のお姿は捉えておりません。いかんせん慣れない姿勢でしたので、少し腰の辺りが疲れてまいりました。
「……お初にお目にかかります。シャヒンの里より参りました、デュラン=コナーと申します。」
なるべく失礼のないように、と心がけておりましたが、緊張のせいかやや棒読みくさくなってしまいました。
「かしこまらないでくれよ、デュラン。俺とそう歳も離れていないのだし、もっと気楽にして。」
王子のお声は明るい調子でして、王子のお歳、つまり十七にしては少し高めでした。王子のお言葉はおそらくご自身の性格でしょう、社交辞令といった具合はございませんでした。お優しいお方だとは、その一言だけで十二分なほど理解できました。
「もったいなきお言葉です、殿下。」
こちらも上面だけの台詞ではございません。本当に身に余る光栄でございました。王子にご拝謁賜るなど、本来ならありえないことでございます。
「……アルバから聞いていたが、そこまで自分を謙遜することもないだろう。さあ、顔を上げて。」
王子のお言葉に従って、私はようやく解放される、そう心の中で呟きながら、背中の一枚板をはがし、首に吊り下がっていた石をおろしました。こんなようではいけません。お辞儀の練習はこれから毎日せねばなりませんね。人生、まだまだ修行の日々です。
「……ほう、天才魔法使いと言うからにはどんな顔をしているかと思ったが(※1)、なかなか中性的な顔立ちだな。」
王子は私の顔をまじまじとご覧になり、意外そうにおっしゃいました。王子は少し、失礼な言い方をすれば天然なのでしょう。もっともまだ高校生でございます。そこはさらりと受け流すのが、曲がりなりにも成人の務めでございます。
「……自己紹介が遅れたな。俺の名前はリード。これからよろしくな、デュラン。」
ともあれ、これが私と王子の出会いなのでございました。