Heart's Cry-3
〈注釈〉
※1…実際は、デュランは超一流魔法使いと肩を並べるような実力を備えている。
弟子たちは私のことを心配してくれました。本当に有難いことです。弟子を持ってよかった、そう改めて思ったものです。特に一番弟子は号泣しながら私を見送ってくれました。これには私も胸にこみあげるものがありましたが、私は彼の手をそっと握り、頑張りなさいと声をかけてすぐにその場を後にしました。しばらくは、私が独立する際に恩師が祝いとしてくださった家とも、このような私についてきてくれた可愛い弟子たちともお別れです。
さて、私の住む田舎から車で二時間ほどで、都にあるバルドナ城に到着しました。この城はまだ歴史の浅い、比較的新しい城ですが、その美しさは周辺諸国のものを見ても随一です。見た目の派手さはありませんし、そう大きくもない城ですが、庭園には数多くの植物がその緑を茂らせており、四季折々の花が咲き乱れ、庭園内を流れる小川には綺麗な淡水魚が泳いでいるのです。木々に囲まれた城は独特の趣があり、植物たちの中にひっそりと紛れ込むようにその景観を壊さず、しかし確かな存在感を持って聳え立っているのです。これほどまでに自然と調和している城は、世界中どこを探してもそうそうあるものではございません。私は初めて訪れましたが、話に聞く以上に素晴らしい景色をこの目にすることができました。ましてやこの城に今日から住むなど、未だ信じられないことでございます。
城内の貴賓室に通されますと、そこには豪奢なビロードのソファと、アンティーク調のテーブル、それからこの城の庭のものであろう色とりどりの花が生けられた花瓶などが、もちろん埃一つ無く並べられていました。部屋の中にいた一人の男性が私に気付きますと、一礼して迎え入れてくださりました。使者殿は挨拶して貴賓室を後にされ、代わりに手伝いの女性が二人、後ろに控えておりました。
「ようこそお越しくださいました、デュラン殿。突然お呼び立てして申し訳ございません。何せ、本当にそこにお住まいになっていらっしゃるのかわからなかったものですから。」
高そうなスーツを着た、人のよさそうな男性は私に握手をしてから、着席を促しました。ソファの座り心地が予想以上に良くて、少し驚いたものです。
「私はアルバと申します。そうですね、王子のマネージャーのようなものです。」
「デュラン=コナーと申します。どうか呼び捨てにして頂いて結構です。……お目にかかれて光栄です、アルバさん。」
彼は感嘆したように深く息を吐きますと、侍女を一人呼び寄せました。彼女が持ってきたファイルを手にされますと、慎重にページをめくっていかれました。そして、彼は少し深刻そうに仰いました。
「デュラン殿、今からお話しすることを、どうか他言なさらぬようお願いいたします。」
なんだか、穏やかではない様子です。
「――実を言いますと、王子は多彩な才能を持っていらっしゃる教養豊かなお方なのですが、魔法だけは何故か苦手としていらっしゃるようなのです……。」
王子のお噂はかねがね耳にしております。スポーツも学問も全て優良な成績をとられるお方だと。しかしそのような魔法の腕に関しては――おそらく国民は誰も皆知らないのでしょうが――初耳でした。私はつい気になって理由をお尋ねしました。
「それが、私共にもさっぱりわからないのです。今までお願いしていた魔法使いにさえも……。ですから最後の手段として、貴方様のお力を借りたいと、王子自ら仰ったのでございます。」
「殿下がですか?」
「――ええ。」
私は当然ながら驚きました。何度も申し上げますように、私は著名な超一流の魔法使いたちにはまるで敵わぬ、いたって凡人でございます。(※1)王子の家庭教師にお就きになるような方です、恐らく並の魔法使いではないでしょう。それが、王子が自らお望みになって私への転任をお決めになるとは、いささか疑問が残ります。
そう考えておりますと、アルバ氏が私にファイルを渡してくださいました……。