Cesario-3
アルバ氏があたふたと階段を上っていった後、私もソフィ王女をお探しすることにしました。彼女がいらっしゃいそうな場所――私は王子のお部屋を考え付きました。アルバ氏も、王子のマネージャーを務めていらっしゃるとはいえ、そう易々と王子のお部屋をお尋ねすることはできないでしょう。私ならば、王子のもとへお尋ねしても不自然ではないはずです。
お部屋のドアをノックしてから、私はドアの前に人の気配を感じました。かすかに足跡が聞こえてから、王子はドアをお開けしてくださいました。
「……どうしたデュラン、忘れ物か?」
そうおっしゃった王子の視線が少し後ろの方を気にしていらっしゃるようだったのを、私は見逃しませんでした。やはり、私の考えは間違いではなかったようです。
「な……何よ、話って。」
ソフィ王女は不機嫌そうなお顔をしながら、ウォークインクローゼットからお出ましになられて、腕をお組みになっていらっしゃいます。私は王女の目線にお合わせするように歩いていき、屈んでお話し申し上げました。
「キロミエール様、どうしてそんなに授業がお嫌いなのですか?」
ぴく、と王女がご反応なさるのがわかりました。唇を尖らせる様は、王子に本当によく似ていらっしゃいます。私がちらりと王子の方を見上げ申し上げますと、王子は「ん?」と怪訝そうなお顔をなされました。
「……そんなこと、あなたには関係ないじゃないっ。」
王女はそっぽを向いて黙りこんでしまいました。失礼ながら、私は子供の扱いが苦手なのでございます。
「エール、俺にも教えてくれよ。」
私が苦笑いたしておりますと、王子が私をお助けくださいました。私とお並びになって王子も屈みこまれましたので、王女は驚いたように、困ったように私と王子を交互にご覧になり、盛大に溜息をおつきになりました。
「……あなた、どうして私がエールって呼ばれてるか、知ってる?」
王女はしばらくしてからようやく口をお開きになってくださいました。
「いいえ。お恥ずかしながら、存じ上げておりません。」
王女は壁にもたれかかりなさって、目をお閉じになりました。
「……そ。――私の家庭教師は私のこと、ファーストネームで呼ぶのよ。」
どうやら王女は、ご自分のお名前――「ソフィ」と口に出すことがよほどお嫌いなようでございました。どういう理由があってそのようになってしまわれたのかはわかりませんが、彼女にとってそれは、とても大きな問題のようでございます。
「私がいくら頼んでもダメって! 本当に腹が立つったら!」
王女は頬を膨らませ、お怒りになっていらっしゃるようでした。
「お前、そんなことで怒ってたのかぁ?」
王子は呆れたように、やれやれと首をお振りになりました。そのご様子をご覧になり、王女は王子の前で訴えかけていらっしゃいました。
「“そんなこと”とは、お兄様、随分と失礼ではなくて? 私にとっては大問題なのよ!?」
「ったく、エールは本当にコドモだなー。」
「なんですって!?」
あらあら、随分と大変なことになってきてしまいました。それにしましても、王族の方でも兄妹喧嘩をなさるものなのでございますね――
エール王女の名前の由来ですが、キロミエールは、シーザリオの母キロフプリミエールより取りました。




