Cesario-2
「――お勉強がお嫌い、ですか……。」
アルバ氏は困ったように眉を下げて、広い額に吹き出た汗を拭いました。王女を探して走り回っていらっしゃったのでしょう、ややお年の召した彼にはきつい運動だったのやもしれません。
「正確にはお嫌いではないと思います。ですが最近、新しい家庭教師の方がいらっしゃってからは授業をお受けにならないことが多く……。」
「それで、今は忙しいとおっしゃっていたんですね。」
アルバ氏は困ったものですと溜息をついて、王女を探しに階段を上ってお行きになりました。彼一人では大変でしょう、私もお手伝いすることにしました。
「……お兄様。」
かちゃりと控えめに開いたドアを見て、リードはペンを置いた。
「またかよ、エール。」
「でも……!」
彼女が自分の部屋に来るのはもう何度目か知れなかった。よく城の人間に見つからないものだと感心する。もしかして、泥棒の才能でもあるんじゃないか?
「ったく……。わかったよ。少しだけだぞ?」
つくづくリードは妹に甘い。特に仲の良い兄妹というわけではないのだが、やはり血を分けた妹。ばつの悪そうな顔をして自分の部屋にやってくる彼女を、なんだかんだ追い出す気にはなれないのだ。……その妹の方は、心の中で「チョロいもんだ」と思っていることも知らずに。
「お前、何がそんなにヤなんだよ? 先生いい人そうだったじゃん。」
「お兄様にはわからないわ。お兄様の家庭教師こそ、私と交換してほしいくらい。」
「え……。デュランに会ったのか?」
「…………。」
エールの心がちくりと痛む。親しそうに師の名前を呼び捨てにするリード。歳の近い家庭教師。彼女にとってそれを羨望なしに見るというのは無理なものだった。
「だって、ちがうんだもん……。」
「ん? なんか言ったか?」
なんでもない! と言って、エールは体育座りで縮こまった。これが彼女がいつも授業をサボるときの体勢だ。
――コンコンコンコン。王子、お邪魔してもよろしいでしょうか。
そう聞こえた瞬間、ドアの前で蹲っていたエールは驚きのあまり跳びあがった。まさか、バレた……?
立ち上がるや否や、エールは大急ぎでウォークインクローゼットに身を隠した。リードは呆れて溜息をついたが、彼女が完全に隠れるまで待ってからドアを開けた。
「どうしたデュラン、忘れ物か?」
「……こちらに、ソフィ……いえ、エール王女がいらっしゃいませんでしたか?」
リードは少し迷ってから、デュランを部屋に招き入れた。失礼致します、と彼女は一礼してから、部屋に入る。
「……エール、出て来い。もうデュランにはバレてる。」
クローゼットの方に向かって声をかけると、エールが顔を覗かせた。
「やはりこちらにおいででしたか、キロミエール様。」
「……私を捕まえに来たの。」
エールはこちらの様子を伺うだけで、一向に姿を現そうとしない。
「いいえキロミエール様。……少しお話ししませんか?」
「え……?」




