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Heart's Cry-2

〈注釈〉

※1…デュラン自身は謙遜しているが、もちろん彼女は一流の魔法使いであり、噂と違わぬ天才である。


※2…もちろん弟子たちは受講費を払いたいと思っているが、デュランは受け取らず、かわりに差し入れを受け取るのみに留まっている。

 さて。大変困った事態になってしまいました。

 皆様、改めましてご挨拶申し上げます。デュランです。わたくしは今、国王のおわします城、その貴賓室にて途方に暮れております。なぜこのようなことになってしまったかと言いますと――それは、私の若さゆえの至らなさと痛感している次第であります。


 国王の御使いがいらっしゃいましたのは、日が昇ってからいくらか経った頃、私が弟子たちとともに、さらなる魔法の腕を磨こうと切磋琢磨しているところでございました。およそ三十人の弟子を持つ身ではございますが、私は魔法使いとしましても、一人の人間としましても、まだ青すぎるほどの若輩者にございます。そのような私に何用がございましょう? その使者殿は仰いました、

「齢十八にして三十人の弟子を従える、天賦の才を持つと名高い魔法使いがこの国には住んでいる、という噂は何度も耳に挟んでいる。その天才こそ、デュラン殿、貴殿に相違なかろう。是非とも王子、我が息子の専任教師になって頂きたい――これが我が主、国王のお言葉にございます、デュラン様。」

と。

 さて、私は困ってしまいました。先の言葉にある通り私は、十八が成人とされるこの国では大人になりたての、世間で言うところの青二才でございます。そのような未熟者のこの私が弟子を抱える身となれたのも、偉大なる師の手ほどきの賜物に違いありません。そういった意味も込めまして、私はそのお誘いを丁重にお断り申し上げました。当然でございます。一国の王子が、このようなどこの馬の骨とも知れぬ魔法使いを、ましてや決して一流とも言えぬ小娘に魔法の教えを請うているなどと知れては大変でございます。それに、私には王子にお教えできるほど高度な技術など持ってはいません。失礼ながら国王の、完全なる買い被りなのでございます。(※1)

 しかし使者殿も、国王に死んでも連れて行けと命じられたのか、その場を一歩も動こうとせず、譲ってはくださりませんでした。弟子たちもこれでは修行に集中することができません。

「どうかデュラン様、お受け願いたく存じます。報酬も、待遇も、全て最上のものを用意させます。お望みも、できることなら叶えましょう。ですから、どうか王子のお力に!」

「報酬」という言葉に、私は恥ずかしながら反応してしまいました。これも私の若さ故でしょう。……言い訳をしても良いと仰るのなら、それは私の心も懐も貧しかったからとしか言えません。もとより人から大切なものおかねを頂いて生活するなど、このような私についてきてくれる弟子たちに申し訳ありません。私は月謝を要求できるほど熟達した魔法使いではございません。それでも私が今日も飢えることなく生活できているのは、ひとえに私を気遣ってくれる弟子たちのおかげと言っても差し支えないことです。弟子なくして私は存在できないのです。(※2)

 ですが、高い報酬が頂けるとのこと。それは私が何よりも求めているものなのです。働かずに魔法の修行だけをしていたわけではございませんが、それでも稼ぐお金は私一人の生計を立てるので精一杯な微々たるもの。ましてや待遇も良しとくれば、このような「うまい話」に飛びつかないわけにはいかないのです。そう、ただ単に私は「金に目がくらんだ」のでございます。

 「うまい話には気をつけろ」――この言葉が浮かばなかったわけではございません。例えるならば、黄金の山の中に毒蛇が一匹だけ紛れ込んでいるようなもの。確かに危険なことでございますが、目の前にある黄金の山をみすみす逃すほど、資金難に陥っている私はできた大人ではなかったのです……。


 私はその話をお引き受け致しました。住み込みでのアルバイトということですので、私の留守は一番弟子に任せることにしました。私は彼の才能も人望も確かなものだと思っております。きっとよくやってくれることでしょう。


 かくして私は、見事王様の「お眼鏡違い」にかないまして、晴れて王子様の家庭教師となってしまったのでございます。

ハーツクライ――主な勝鞍は有馬記念、ドバイシーマクラシック

ドバイで初めてG1を勝った日本調教馬。また、国内で三冠馬ディープインパクトに土を付けたのは後にも先にも彼だけである。

現在は種牡馬として、ウインバリアシオン、ギュスターヴクライなどの活躍馬を輩出。


一生をかけて死ぬまで貫き通せる愛があるとするならば、それは私にとってのハーツクライへの想いなのかもしれません。

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