Winning Ticket-17
「王子――」
私は、出かかった言葉を無理矢理呑み込みました。
「どこを見ている!?」
「……っ!」
フレッドさんはまた私に向かってきました。あくまで彼は、魔法を使わずに直接私を攻撃する気のようでございます。
もはや、逃げることはできません。いえ、始めから逃げる気では、フレッドさんにも失礼にあたることでございましょう。見物人に危害が及んでは、と考えていたのは全て、私の弱さでございます。その危険を見越して、私は彼と闘うべきでしょう。三十人の弟子を従える天才魔法使い――自ら望んだ評価ではありませんが、天才の名が聞いて呆れます。
自分自身を護れずに、いかにしてこの数十人の観客たちを護れましょう?
私はポケットに忍ばせたライターに触れました。いつも魔法用に持ち歩いてる、ただの安っぽいライターです。
「――本気を出せ、デュラン=コナー!」
彼はそう叫びながら、私に向かって走ってきます。
ええ、言われずとも――
「かしこまりました。」
私はライターの火をつけました。指先をそれに近づけて、私は集中を向けました。ゆらゆらと弱々しく揺れていた炎は、私の指先で一気に燃え上がりました。炎の大きさは、観客たちに届かない程度に調節せねば――
「はっ!」
私は火のついた左手を横に薙ぎ払いました。彼が驚いたように立ち止まります。火の波は人だかりの数メートル前で消えました。私の左人差し指と中指の先には、まだ火種が残っています。
「ふん、やっと本気を出す気になったな?」
フレッドさんは笑いました。そうは言っても、彼の頬を汗が伝うのははっきりと見えます。
今は、王子のことは気にしている余裕はありませんね……。
フレッドさんは、剣を振り回しました。これは、風の魔法――「ブラスト」です。
「おおおおお!」
彼は魔法を放ってすぐ後、もう一度私に向かってきました。私が魔法に応戦する間に斬りかかろうというのでしょう。私は「ブラスト」の範囲を見切ってそれをかわします。具体的には、彼の剣を振る角度、速さ、今吹いている風の風向き、気温などを参考に分析するのですが――今はその話は置いておきましょう。
彼も周囲の人々に怪我を負わせる気はないのでしょう。ブラストは人々の近くまで飛んでいくことはありませんでした。ですから、私も何もせずに避けたのですが――
「これで終わらせるぞ!」
彼は剣を両手で握って、スピードを上げました。ええ、剣と魔法がぶつかれば、どちらも制御は不可能になります。この一瞬で終わらせねば、何が起こるかわかりません。私は左手の火種を握りました。拳が熱した鉄のように赤く染まります。この魔法は危険ですから、あまり一般化されていないので名前もありませんが……。
「うおおおお――!」
「……。」
ずん、と私の左拳が、彼の腹部に埋まりました。炎の拳は、彼の服に穴を開けます。本来ならば相手を気絶させるだけでは収まらない魔法ですが、力を弱めて威力は抑えてあります。彼の剣はもう少しで私の肩を捉えるほどでしたが、私は右手でも魔法――「向かい風」を放っていました。
「……ぐぅ……っ。」
彼は歯を食いしばり、もう一度剣を振り上げようとしましたが、どうやら力尽きたようです。身体の力は抜け、彼は膝から崩れ落ちました。少しの沈黙の後、見物人から歓声があがります。
「……はあ。」
彼を横たわらせてから、私は一息入れました。そして、人だかりに紛れ、この決闘をご覧になっていた王子の方を向きました。




