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Winning Ticket-16

 約束は午後六時の予定でしたが、三十分弱繰り上がって決闘は始まりました。

「行くぞ!」

フレッドさんは両手で剣を握り、わたくし目掛けて走り出しました。なんとも物騒なものでございます。

 私は魔法で応戦しました。具体的には、「向かい風」と呼ばれる風の魔法を使いました。強風を起こし、相手を動きにくくさせる単純な魔法でございます。

「――チィ!」

あまり強くすると下手をしたら吹き飛んでしまう魔法でございますが、手加減はあまりしていないのにフレッドさんはものともせず、私に向かってきました。接近戦に持ち込まれては私が明らかに不利でございます。私は右に走って彼と間合いをとりました。

「ナメているのか、貴様ァ!」

フレッドさんは立ち止まり、私の方へ顔を向けてそうおっしゃいました。

 「そっちが手を抜くつもりなら、早々に勝たせてもらうぞ!」

彼は剣を高く掲げました。私の背には西に傾いた太陽……まずいです!

「眩め!」

彼は叫びました。おそらく彼が使おうとしているのは魔法――「目くらまし」でしょう。これは厄介な魔法でございます。光、主に太陽光を鏡などで反射・増幅し、太陽を直視するのと同じ程度の強い光で相手の目を眩ませるのです。一度受けたら最後、しばらくの間視界が真っ白に霞み、戦闘を続けることはできなくなるでしょう。

 私は彼から目を逸らし、手で目を覆いました。しかしこれで気は休まりません。彼は「目くらまし」の魔法が効かないと判断するや否や、隙を見せた私にもう一度向かってきました。さすがに若くして陸軍軍曹にまでなった方です。正直に申し上げますと、見掛け倒しでなく、彼はかなり強いのです。これでちゃんと人の話を聞いて下さる方でしたら何も問題ありませんのに――

「うおおお!」

「っ!」

フレッドさんは走り出した勢いのまま、私に剣を振りかざしました。咄嗟に私は、先程より幾分強力な「向かい風」でそれを受け止めました。今度はどうにか彼の動きを止められたようです。そして私は彼からできるだけ離れるよう飛び退きました。

 フレッドさんに容赦は一切ございません。剣で斬られれば重傷は避けられないでしょう。まさしくこれは、アンナさんだけをかけるのではなく、命までかけた決闘でした。私の額から汗が一筋流れるのがわかりました。

 「……逃げてばかりいないで闘ったらどうだ。」

彼は私にそう言い放ちました。そうは言ってもやはり――私は増え続ける人だかりを横目で見ました。彼らは私たちの攻防を目にする度、おお、と歓声をあげるのです。そしてまた人が増え、いつしか私と彼は観衆に半径十五メートルの内に囲まれていました。相手を攻撃する魔法は大変危険なものでございます。これだけの近距離、見物人の方々に万が一怪我をさせたら、私は王子の家庭教師など到底続けてはいられなくなるでしょう。

 ――私は決意しました。


 「……フレッドさん、やはりこの闘いに意味などありません! なぜなら私は――」

このままでは周囲の人に危害が及んでしまいます。そうなるくらいなら、私は自分の正体を喋ってしまった方がマシです。……そう、私が彼に女だと申し上げようとしたときでございます。


 私は視界の端に捉えたのです。ダークブロンドと緑の瞳の、その高貴なお顔立ちを……――!


 「お、王子……?」

私は誰にも聞こえない程に、ほんの小さな声でつい、そう漏らしました。

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