Winning Ticket-12
『いつものお店にいるんだけど、一緒にどう?』
想い人からのメールを一目見るなり、彼は財布を手に足早に家を出た。久しぶりに彼女と二人きりで会えるとあって、彼の胸は高鳴る。
それにしても珍しく彼女から誘ってくるとは、何かあったのだろうか? そんな疑問を頭の隅に、彼は近くのバーへ向かった。
よく通うその店は、まだピークの時間帯でないため客はまばらだ。それもそうだ。まだ日は沈んでいない時刻なのだから。
「……フレッド。」
見知った彼女がこちらに手を振る。彼はカウンターに座るアンナの隣に歩いていった。
「アンナ、急にどうしたんだ……――っ!?」
彼は驚きに目を見開いた。なんと彼女の目は泣き腫らして赤くなっていたのだ。
「……フレッド、私ふられちゃったみたい。」
そう言って彼女は寂しそうに笑う。泣き疲れたのか、顔に生気はない。よほどショックだったのだろう、こんな時間から呑むなど……。
「何があったんだ。」
彼は彼女の隣に座った。
「……そう、か。」
アンナがぽつりぽつりと漏らす言葉を一通り聞き、彼は一言そう呟いた。こういうとき、どうするべきなのだろうか。そう悩んでいると、彼女は微笑んだ。
「しょうがないよね。仕事が忙しいって言ってたけど、たぶん私のことなんて興味なかったんだよね……。」
「そんなことはない!」
彼は思わず立ち上がった。客がこちらを見るのも気にせず、彼は続けた。
「君はもっと自信を持つべきだ、アンナ。君の魅力がわからない男なんて相手にする必要はないんだ!」
「フレッド……。」
アンナはそんな彼を見て驚いていたようだが、やがて微笑んでありがとうと言った。彼は彼女の笑顔をまともに見て顔を赤らめる。そして落ち着いたのか、再び腰掛けた。
「と、とにかくだ! あんなヤツは忘れろ!」
彼は乱暴にギムレットを一息にあおって渇いた喉を潤した。彼女の顔を横目で見遣ると、大分酔っているようだった。赤い頬がやけに色っぽく、彼はどぎまぎしていた。ああ、いい雰囲気だ。これはチャンスなのか……?
「――……でもね、フレッド。やっぱり忘れるなんて無理だよ。久しぶりに好きになったんだもん。」
脆くも、彼の期待は崩れ去る。彼女がため息をついてアイツの名前を呟くたびに、頭に血が上るようだった。
「……わかった。アンナ、電話を貸してくれ。」
おもむろに、彼はアンナに向かって右手を差し出した。彼女は、なんと言う通りに携帯電話をその手に乗せた。酔っているせいか、普段と違う彼の行動に疑いを持っていないようだった。
「ん……フレッド、どうするの?」
「……俺が話をつけてやる。」
そう言って、彼は電話帳からデュラン=コナーの名を探し当てると通話ボタンを押した。
デュランの声を聞いた瞬間、フレッドは電話口に向かって一杯に怒鳴りつけた。再び客の注目を浴びるが、そんなことはお構いなし。その様子を隣で見ていたアンナは、驚きのあまり一気に酔いが醒めたような、血の気の引いた顔でこちらを見ていた。
――大方、俺の気持ちに気付いて遠慮しているんだろう。随分となめてくれる。アンナの気持ちを踏みにじった上に、この俺を愚弄する。許せるものか。話に聞けば魔法が使えるという。ならば俺と闘うこともできるはずだ。ここは潔く、負けた方がアンナを諦める……。
かくしてフレッドの一方的な対抗心は、あながち間違ってもいないこじつけにより、決闘という形に持ち込まれたのであった。




