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Winning Ticket-10

〈注釈〉

※1…見た目の美しい水や炎の魔法は、曲芸としてショーの一部に取り込まれることがある。「割れガラス」の魔法はその演目でよく見られるものである。

 今宵は上弦の月が美しく天に昇っておりました。少し蒸し暑い夜でしたが、庭園のオークの葉をさわさわと揺らすそよ風が心地よく吹くのでございます。夜の闇をほどよく照らす照明が石畳の道の両脇に灯り、優しく温かな明るさが草花を幻想的に浮かび上がらせるのです。

 「王子はよく庭園においでになるのですか?」

わたくしが庭園の一番大きな噴水の前で立ち止まると、王子も足をお止めになりました。

「ああ。この噴水は俺が一番気に入ってるところなんだ。」

噴水はライトで青く光っておりました。繊細な彫刻こそありませんが、計算された水の流れが何段にも、幾重にも重なり合い、複雑な美が飛沫を上げておりました。シンプルですが、その芸術性は水でこそ表現されるのです。

「……これも、同じですね。」

「え?」

「ああ、いえ。この噴水のように、水の魔法も流れを計算し予測して、美しく魅せることが可能なのでございます。」

私は噴水の水を手ですくいました。

「王子、この噴水の水を魔法に用いてもよろしいでしょうか?」

私がそう申し上げて振り返ると、薄暗い中でもはっきりとわかるように、王子はたいへん嬉しそうな表情をなさっていました。夜空に散る星のように、王子の瞳も負けじと輝くのです。

「おお、かの有名な麒麟児の魔法をこの目に収める日が!」

王子は相当にご期待なさっているようでした。このご期待に添えなければ、王子の家庭教師など到底務まりそうにございません。

 私はひとつの魔法を王子のお目にかけることにいたしました。

「お言葉ながら、私は麒麟の子ではございません。が、それでもお望みとあらば。」


 魔法を使うには、まず精神統一から始めなければなりません。乱れた心では正しく魔法を発動することができないのでございます。心を静め落ち着けたら、次は頭の中でイメージを作ります。どのタイミングで、どの程度の規模で、どのような流れで、どのような魔法で――イメージしたら、次は魔力を指先や手のひらに集めます。これが魔法を扱う際に最も難しいと言われている段階でございます。よく勘違いをされてしまうのですが、全ての集中力を一点に集めるというわけではございません。集中を指先のみに集めてしまえば、それ以外のことに目が行かず、咄嗟の出来事にも柔軟な対応ができなくなってしまいます。魔法はあくまで護身術でございます。魔法を使うのに最低限度の魔力のみを指先に集めることができなければ、自分の身を護ることもできないのです。


 私は右手を噴水に翳しました。王子にお見せするため、あえて魔法を発動する段階をゆっくり丁寧に踏襲しました。

 ――今です。

 私が手を大きく開くと、噴水の最上段の水が凍結しました。さらにそれは千々砕け散り、まさしく氷雨を降らせました。月明かりに当たる氷の粒がきらきらと輝くこの魔法は、一般に「割れガラス」と呼ばれています。中級程度の魔法ですが、見た目の美しさから人気の高い魔法でございます。(※1)

 

 私は王子に向き直りました。王子はしばらくの間空をお見つめになっていらっしゃりましたが、やがてお顔をこちらに向けなさって、こうおっしゃいました。

「……今の、すごいな。」

「もったいなきお言葉でございます。」

そう申し上げて顔を上げた途端、王子は私の両手をがしっとお掴みになりました。

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