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Winning Ticket-8

 「……ええ、構いませんよ。如何いたしましたか?」

わたくしはなるべく平静を装って電話に出ました。

「本当ですか? よかった……。あの、本当に今日はありがとうございました。」

本日何度目かの「ありがとうございました」を聞き、私はいいえ、どういたしましてと返しました。彼女が電話を掛けてきた理由は、果たしてお礼を述べるためだけなのでしょうか?

 どうも、そういうわけではなかったようです。

彼女は十秒ほど沈黙してから、大きく息を吸ってこうおっしゃりました。

「デュランさん、今度お礼に何かご馳走したいのですけれど会って下さいませんか!?」

早口でそうおっしゃった後、彼女は息を切らしました。よほど緊張されたのでしょう。彼女の言葉はやや聞き取りづらかったのですが、気持ちはたやすく汲み取ることができました。

「……。」

彼女の心臓の鼓動がこちらまで聞こえてくるようでした。


 こう思うことはとても残酷なことかもしれませんが、私は彼女に同情していました。私が同性愛者ならまだしも、彼女の恋は永遠に叶うことはないのです。そして私に恋しているうちは、あの彼――フレッドさんの恋も叶うはずがないのです。私は彼にも同情していました。ええ、我の強そうな彼のことです。きっとこれは余計なお世話なのでしょう。でもだからこそ私は、早いうちに彼女に諦めていただかなくてはと思いました。仮に彼女を傷つけることになるとしても、騙し続けて――そのようなつもりは毛頭ございませんが、結果的にはそういうことになってしまいますから――より深い傷をつけてしまうよりは、ずっと正しいことなのだと考えたのです。


 「すみません、アンナさん。私は本当にお礼をしていただくようなことはしていないのですよ。ですから、本当にお気持ちだけで十分です。」

「でも……! 私、お礼がしたくて」

私は彼女の言葉を遮りました。お人よしと評される私には、お断りするのは少し気が引けるのですが、申し上げないわけにもいかないのです。

「アンナさん。申し訳ございませんが、私はあなたとお会いすることはできないのです。」

「……っ! どうしてですか……? ご迷惑でしたか……?」

「いいえ、迷惑だなんてとんでもない。でも今は仕事に集中したいんです。すみません。」

彼女には、薄々自分が彼女のお気持ちに気付いていることをほのめかしました。聡明そうなお嬢さんでしたから、おそらく私の言わんとするところはご理解なさるでしょう。

 はたして、彼女ははっと気付いたように、わかりましたと一言おっしゃいました。心が痛むものです。

「デュランさん、無理なことを言ってしまってごめんなさい。でも、本当に感謝しています。ありがとうございました……。それでは失礼します。」

「ええ、さようなら。」

私は彼女が電話を切るまで待ちました。五秒後に切断音が聞こえて、私も携帯を下ろしました。

「すみません……。」

私はそう呟いてから、携帯を机の上に置きました。

 私は先程の初級魔法に使ったグラスの水を、一息に飲み干しました。

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