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Winning Ticket-6

 結局、わたくしはアンナさんに押し負けてしまいました。連絡先として自分の電話番号を教えてしまったのです。つくづく、自分の弱さが嫌になってしまいます。

 もしもアンナさんに私が王子の家庭教師だと知られてしまったらと、気が気ではございません。そんなことになってしまったら、きっと大きな騒ぎになってしまうでしょう。あの彼にも申し訳が立ちません。ああ、これからが思いやられます。


 「――なあ、アンナ。さっきはあの野郎……いや、あの人に何の用だったんだ?」

フレッドはなるべく自分の気持ちを悟られないよう細心の注意を払って、「どうでもいいと思っている」と思わせるように尋ねた。もちろん彼の努力は無駄なことではあるが。

「……う、うん……。ええと、お礼をしたくて連絡先を訊いたの。」

アンナは一瞬言葉に詰まったが、正直に話すことにした。彼女はフレッドの気持ちを以前から薄々感づいてはいたが、自分からは何も言わないことにしていた。そんな彼女の様子を見て、お調子者のジュリアはひゅーひゅーとはやし立てた。先ほどのことから幾分か立ち直ったクリスは、そんな調子のいい彼女を宥めた。

「もう……。本当に違うんだってば。」

アンナはからかわれたことに不満げに口を尖らせて、ずんずんと早歩きする。誰の目から見ても、彼女の否定はただの照れ隠しだとわかることだった。フレッドはそんな彼女の背中を見つめ落胆し――「あの男」へ嫉妬心を燃やした。それは例えば、理性を焼き切る程に熱く……。


 城の東門の警備員に関係者専用の証明カードを見せて、私はようやく城に戻ることができました。

 まさか今日一日――いえ、半日がこのような濃い時間になるとは思いもしなかったのです。私は陰鬱な気分になりながら、胸ポケットに入っている自分の携帯電話を軽く押さえました。このような暗い気持ちになっているなど、アンナさんには大変失礼なことでございます。せめて早いうちに誤解を解かねば、本当のことをお話しする機会を引き延ばせば延ばすほど、彼女にとって辛いものとなってしまうでしょう。私はどうしたものかと思案しながら、自分の部屋を目指したのです。

 「すみません。遅くなりました。」

私はお手伝いの女性に声をかけました。昼食は十二時過ぎの予定でしたが、十分ほど遅れてしまったのです。彼女は「いいえ、お帰りなさいませ」と言って下がりました。お食事を取りにいってくださったのでしょう。


 昼食を終えますと、先ほどのお手伝いの方が食器を下げに来てくださいました。その時、王子からの伝言だと、こうおっしゃったのです。

「個人的に話したいことがあるので、今晩こちらの部屋に伺ってもよいか。」

と。

 私は少し驚きました。王子がこの私めにご興味を示されるとは、願ってもない、身に過ぎて光栄なことなのでございます。ああ、この身に余る喜びをどう表現することが相応しいか――若輩の私にとってそれは筆舌に尽くし難いことなのでございました。

 私は二つ返事で承りました。無論、お断りすることなどはじめから頭にはございませんが。

 本当に今日は濃い一日です。

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