Winning Ticket-4
「……あ、あの……。」
酔っ払った男性に腕を掴まれていた女性が、私の方を目をまん丸くしながら見ていました。おそらく、魔法を使ったことに驚いておられるのでしょう。
「怪我はございませんか? お嬢さん。」
私は彼女らに近づきました。彼女の後ろで怯えていた女性はまだ震えているようでした。電話をかけていた女性は、呆然としています。……男性はまだ起き上がろうとじたばたしていました。
「いえ、大丈夫です……。あの、ありがとうございます。」
腕を掴まれていた女性は、さっと左腕を隠しました。ちらっと見えた手の跡が痛々しかったのですが、あまり心配をかけたくないのでしょう。
「そうですか。よかったです。」
とりあえずは安心しました。この国は比較的治安が良いとはいえ、誰もが犯罪に巻き込まれないという保証はないのです。
「……くそ、ぶっ殺してやる……!」
ようやく男性が、起き上がるところでした。私は女性たちを庇うように、彼の前に立ちはだかりました。
「酒は飲んでも飲まれるな、と言いますでしょう。あなたも警察沙汰にはしたくないのではありませんか?」
私は曲がりなりにも一端の魔法使いではありますが、あまり人前で、しかも人間に向かって魔法を使いたくはないのです。正当防衛とはいえ、魔法は暴力といっても過言ではないものなのでございますから……。
「……るっせえ! 覚えてろよ!」
どうにか男性にはわかってもらえたようでした。私は女性たちの方を振り返りました。
「……腕、見せてください。」
私がそう申し上げると、腕を掴まれていた女性は気付かれていたことに少し驚いたように、それから少し顔を赤らめて、そっと左腕を差し出しました。
「……内出血ですね。冷やした方がよろしいでしょう。」
私は女性の腕をなるべく優しく取りました。可哀想に、彼女の細くて白い腕にはくっきりと手形が残ってしまっています。そのうち赤紫色に変色してしまうでしょう。私は近くの公園の水道を借りようと思いました。魔法を使えば、水を凍らせることもできます。
その時です。
「――貴様か、俺の大事な人に手を出したというのは!」
突然怒鳴られて、思わずびくっとしてしまいました。その拍子に女性の腕を取り落としてしまって、私は申し訳ございませんと頭を下げてから、声の主の方へ振り返ることにしました。
仁王立ちしていたのは、体格の良い青年――とはいえ、彼のほうが年上でしょうが――でした。走って来たのでしょうか、息も髪も乱れています。彼は怒り心頭というふうに、やや細い目を三角にしていました。これはまさか……。私には嫌な予感しかしませんでした。
「彼女から離れろ、無礼者め!」
やたら声の大きい方です、このような住宅地の真ん中でそのように声を張り上げられては――
ああ、なんということでしょう。そうこうしているうちに、なんだなんだと外に出てきたり、窓から覗いている住民の方々の視線を集めてしまいました。
とにかく私は、彼女の傍から一歩後ずさりました。
「待って、フレッド! その方は――」
「いいんだ、アンナ。そんな下衆にまで情けをかける必要はない。君は優しすぎるんだ。」
「違うの!」
フレッドと呼ばれた男性は、まるで女性――アンナさん、とおっしゃるようですが――の話に聞く耳を持ちませんでした。……これではどこかの王子のようです。そういえば、ダークブロンドの彼の髪はあの方とほとんど同じ色です。
どうやら私は、誤解されやすい人間のようです。これも私の至らなさゆえ、なのでしょうか――