Winning Ticket-3
〈注釈〉
※1…魔法は火や水などを利用することで発動できる。逆に、火や水の魔法は、それらが無ければ発動することができない。風の魔法は空気さえあれば発動できるため、最も使用頻度の高い魔法といえる。
※2…空気の流れを作り相手を吹き飛ばす、初歩的な魔法。
さすがはこの国一番の大都市、首都カラットは人々で賑わっていました。生まれてからずっと田舎暮らしでございました私には、何もかもが真新しく映りました。時刻はお昼前の十一時三十分ごろ。今日は日曜日ですから、買い物客や観光客が大勢おり、久しぶりにそのような人ごみの中に紛れ込んだ私は、少し酔ってしまいました。
探していたものはすぐに見つかりました。城には昼食までに戻れるでしょう。私は用を終えて、すぐに引き返しました。本当は少し寄り道をしていきたかったのですが、今日はやめておくことにしました。いずれその機会もあるでしょう。
今日は少し暑い日でした。私はカッターシャツの第一ボタンを開け、腕まくりをしていました。上着とネクタイは部屋に置いてあります。サイズが合わないからと男性用のスーツを着ていますが、それも誤解の原因となってしまったに違いないでしょう。私は有名な服飾店のショーウインドウに映る自分の姿を見て、少し溜息をつきました。――私は、そんなに男に見えるのでしょうか?
行きには通らなかったのですが、私は近道だろうと思い、大通りを少し外れました。慣れない人ごみの中を歩くのに疲れたからというのもあります。
裏通りを歩く人は表通りの半数くらいでしたが、それでも助かりました。日陰になっているので、照りつける太陽にほんの少し抵抗もできます。道の両脇には飲み屋などが並んでおり、まだ昼ですからそのうちのほとんどは閉まっていました。また外食チェーンの店もいくつかあり、ちょうどお昼時ですのでほぼ満席、たいへん繁盛しているようでした。
その先をしばらく歩くと次第に店も少なくなり、住宅地に出ました。ほとんど住民の方しか通らないであろう路地を、バルドナ城の方へ歩いて行きました。もちろん土地勘のない私ですが、いずれはどこかへ出るだろうと思っていました。
しかしです。
「――やめなさい! ふざけないで……――」
どこからか声が聞こえました。聞こえた限りでは、あまり穏やかな事態ではないようでした。私は少し迷ってから声のした方へ向かいました。飲食店の前を通ってきたので昼食のことが頭をよぎったのです。……間に合わないかもしれません。
よく兄弟子に、「お前は本当に甘ちゃんだな」と言われたことを思い出しました。その時はむっとする程度でしたが、今ではわかります。彼の言うとおりでした。
どういうことが起こっていたかは、すぐにわかりました。若い女性が三人と、中年の男性が一人。男性の方は、相当酔っているように見えました。彼は女性のうち一人の腕を掴んでいたのです。腕を掴まれている女性は抵抗しており、他の一人は怯えるようにその女性の後ろに隠れ、もう一人はどこかへ電話をかけていました。要するに、「酔っ払いが女の子に絡む」という、ありがちな、それでいて迷惑なことだったのです。
「……まあ、こんな日の高いうちから可哀想なことですね……。」
真昼間からあれだけ酔っている男性も珍しいものです。絡まれている方々には同じ女性として、心から同情致します。
「――本当に離してください! この子は何も悪くないでしょう!?」
「うるせえんだよ! 引っ込んでねえと、痛い目見るぞ!」
そう言うと、顔の真っ赤な男性は拳を振り上げました。
「いい加減になさったらどうですか?」
走って止めに行くには間に合わないと判断した私は、仕方ないので魔法で男性を吹き飛ばしました。風を利用した魔法(※1)、一般的には「ストームバード」(※2)と呼ばれるものです。
女性たちは一斉にこちらを向きました。かなり手加減したつもりですが、男性は酔っているせいかなかなか起き上がることができないようでした。
「……大丈夫ですか?」
ああ、どうして私はこんなにもお人よしなのでしょう。
劇中に出てくる単語には、いくつか競走馬由来のものがあります。
今回の話で言えば、「ストームバード」はそのままアイルランドの競走馬ストームバードより。
「バルドナ城」は、繁殖牝馬バルドウィナ、首都「カラット」はバルドウィナの娘で、元競走馬ワンカラットから。
この他にもいろいろと混ぜていきますので、探してみてくださいね。