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Winning Ticket-1

 「――ではデュラン殿、王子の才能という花が美しく咲く日を心待ちにしております。」

わたくしがご挨拶を済ませた後、王子はアルバ氏らを貴賓室にお呼び戻しになりました。王子はアルバ氏に楽しそうにお話をされ、アルバ氏は期待と不安の入り混じった複雑な表情をしておられましたが、私の方に向き直り、どうかよろしくと頭を下げられました。

 私自身に不安が無いかと言われれば、当然そのようなわけはないのですが、若輩なりに若さゆえの勢いでこのような試練に立ち向かっていくのは初めてのことではございません。それよりも今は王子の誤解についての方が、何よりもの心配事なのでございます。


 「デュラン殿、これからお部屋へご案内致します。遠い町からご足労頂き、誠に有難いごとでございます。今日はどうか旅の疲れを癒していただくことを第一に。」

アルバ氏と王子のご退室をお見送りした後、彼は私をこの城で与えられたお部屋に案内してくださりました。貴賓室より一つ上の階の少し奥まったところに、ゲストルームはございました。落ち着いた内装と窓から臨む前庭は、どんな高級ホテルのスイートルームに宿泊するよりも代えがたい一夜を私に与えてくれることでしょう。

 「あの、アルバさん。つかぬことをお伺いしますが……私は男ですよね?」

ああ、なんとバカらしい質問をせねばならないのでしょう。アルバ氏にも大変失礼なことをお尋ねしてしまいました。しかし私は受け入れ難い「自分」を確かめねばならないのです。

「――大変失礼致しました、デュラン殿。私もこの部屋の内装は男性には相応しくないと思っておりました。しかしながら、この部屋は……」

「あっ。いいえ、そうではないんです。この部屋はとても気に入りました。そうではなく……ええと、私は田舎暮らしの男ですので、どうか皆様お構いなく、と申し上げたかったんです。」

私は思わず誤魔化してしまいました。辛いものです。でもこれで、やはりこの城の方々は皆私を男と思っていることが理解できました。

「ですがデュラン殿、お招きしている方にそのような無礼は働けませぬ。どうかお世話をさせてやってくださいませ。」

アルバ氏は少し冷汗をかいておられるようでした。いけません、私のせいで彼にいらぬ心配をかけてしまいました。

「あの、本当にいいんです。どうも慣れないことで変に緊張してしまうので……。お願いします。」

これは本音でした。もちろん私ごときにお手伝いの方々の手を煩わせる必要もございませんし、そのようなことになれば本当の性別が知れてしまうのも時間の問題です。


 いいえ、少し違います。私は隠すつもりなど毛頭ございません。私はあまり嘘をつくのが得意ではありませんし、できればつきたくないのです。ですが、誰もが私を男性だという先入観を持った上で私を見れば、もう私にはどうすることもできないのです。師も、IDカードの情報を虚偽申告したとして罰金を支払わされるでしょう。つまり私は、男性のフリをすることも女性だと明かすこともできないのです。


 「……かしこまりました。使用人にはそのように伝えましょう。ではデュラン殿、何かお手伝いが必要なときはなんなりと。それと、こちらに明日からの予定を記しておきました。」

「ありがとうございます。」

アルバ氏は私に、ぎっしり書き込まれたスケジュール表をくださりました。

「お食事は後ほどこちらの部屋に持ってこさせます。この部屋のものは全てご自由にお使いください。御用の際はそちらの内線でお呼びくださいませ。では私はこれで失礼致します。」

ホテルのコンシェルジュよろしく、アルバ氏はてきぱきと私に説明してくださると、部屋を出て行かれました。


 さて、ようやく一息つけます。

ウイニングチケット――主な勝鞍は日本ダービー、弥生賞、京都新聞杯

柴田政人騎手を背にダービーを優勝。彼に19度目の挑戦にして、ダービー初制覇をプレゼントした。産駒成績は振るわなかったが、現在は功労馬として余生を送っている。

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