8.見つめた先で。
お久しぶりです。
午前中は身支度したあと、することがなかったので窓の外を見ていた。
わたしにあてがわれていた部屋も、王子がこもっていた部屋と同じように何らかの術がかけられているのかも知れなかったけれど、窓の外は普通に見えた、と思う。何階だか分からない部屋から見える外、下側には生垣を迷路のように配した庭園があって、一番奥まったところ、迷路のゴールらしき地点は薔薇園になっていた。テーブルセットがつくりつけられていて、まさに穴場。
なんだその遊び心うずうずする!行きたいぜひ行きたいとか思いながらみていると、ひょこひょこかわいらしい歩みのメイドさんがバスケットを抱えて薔薇園を目指していく。エレアノーラさんとは型が違うのか、ウエストを大きなリボンで押さえ、その下がふんわりと広がっていて少女めいた印象を強めている。
そのメイドさんは迷うことなく薔薇園にたどりついて、お茶の準備を整えていた。テーブルセットの砂埃を拭き、クロスをかけ、お茶菓子をならべてレースの覆いをしたころに、他のメイドさんが三人、迷いながらやってくる。
ふうんと思いながら見守っていると、どうも後の三人が準備したちんまいメイドさんを邪険に追っ払い、さも自分達が準備したように取り繕っているようだった。
「こういう場合は誰に報告したらいいんだろう……」
見てしまった以上、放っておくのはあまり良い気分がしない。ちまくてかわいらしいメイドさんだからなおさらだ。
追っ払われたメイドさんは、はあやれやれと大して気にしてなさそうに迷路を抜けて戻っていく。その足取りはやはり迷いを微塵も感じないてきぱきとしたもので、どうやらこの一連の流れに彼女はもう慣れきっているようであった。
(根性あるなー。しかも、仕事の成果横取りされると知ってても手抜きしてないのとかポイント高い)
戻っていく彼女が何の拍子か上を見上げたので、ばっちりと目が合った。
困ったように笑って、『内緒ですよ』というように口元に指をあてるメイドさん。
わたしはその努力をみてたよー報われてくれっ!まだ稚さそうなのに城勤めなんて、しっかりしていて偉いねえ、いぢめるひとにはすぐ天罰下るから!などとすっかりほだされてせめても元気づけたくなってしまった。でもわたしは部屋から出れないし何か大袈裟にして彼女に迷惑はかけたくない。
結局小さい子相手に良くやる、手遊びの狐の形をつくってぱくぱくさせてみた。
「( お う え ん し て る よ )」
何を言ったか伝わっていないと思うけど、メイドさんはひまわりのような笑顔で、丁寧にお辞儀をしてくれたのだった。