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7.お一ついかが?

お久しぶりです申し訳ございません(脱兎)

ぱち、と目が覚めた。低血圧で寝起きサイアクなわたしにしては、驚くべきことに、眠気が奇麗にとんでいる。疲れもどこへいったのやら。


朝だった。


ちちち、と雀ではない聞きなれぬ小鳥の鳴き声。さわやかなことにかわりはない。寝具は特に気になるほど文明の差を感じなかったのだが、逆に怖い。これ一枚いくらだ。窓の向こうで元気な小鳥が何羽分?おもむろに考えてみる。


カーテンは不思議な色合いの緑。透かし織り(といっていいものか)の繊細な、うつくしい布地だと思う。花鳥風月をモチーフにした瀟洒なデザインだ。布越しにあたたかい日の光を感じて、季節まで同じなのか、とうんざりした。


ここまでいやらしい異世界トリップもどうなんだろうな、と思う。


元々いた世界と、こんなに気候条件や時間軸が同調(シンクロ)しているのに、こんなにも体は馴染んでいるのに、それでもここはわたしのいるべき場所ではなかった。


「………がんばろ」


ぽそりと呟き。


ドアをノックする音がする。


返事をしてベッドから身を起こし、とん、と床に片足をつけたタイミングで、


「キサ様、朝のお支度です」


隙なくきっちりと身をととのえたエレアノーラさんが、あわく笑みを浮かべた。





申し訳程度に蔦の模様が彫りこんである、実用一辺倒な鏡や金盥を片付けに出て行った彼女が戻ってくると、カートにはほかほかと湯気がまぶしい食事が並んでいた。二人分。


…………ん?


「アメリバルド・キーシーカー様より、私もキサ様のお食事に同伴するように、と承っております」


相変わらずたんたんとエレアノーラさん。うかがわれているなあと思いながらも、断る理由もないので軽くうなずいた。とたん、かちゃりと鳴る食器。おやおや、動揺が見えますぞ。エレアノーラさん。とは思ったものの黙って椅子をひかれたので腰掛ける。


「………失礼いたします」


ことん、と目の前に置かれたのはものすごく見慣れているわけではないけれども特別縁遠いものでもないもの――――お粥だった。続いて薬味や佃煮が一匙ずつ綺麗に盛られた皿が置かれる。知らないうちに募っていたらしき郷愁か、白いお米を見れただけで相当感動した。


「…………これは」


思わずつぶやくと、エレアノーラさんが何事もなさそうに、お気に召しませんでしたか?と鉄壁笑顔で言う。


こちらの調度品などを見る限り日本に似通ったところは一切見られなかった。中世ヨーロッパに近いんだろうと勝手にあたりをつけていた。ここに来てなぜ和食が供されるのか。


「こちらにも………この料理があるとは思いませんでした」


彼女が持っていたスプーンがかつんと食器の底に触れた音がした。一瞬無表情に戻ったようにも見えたエレアノーラさんだが、気のせいだろうか、鉄壁笑顔が五割増で輝いている。


「こちらではこれは何と呼ばれているのですか?」


「私どもはクワイユ、といいます」


そつのない笑顔だがこれ以上の質問は拒否するオーラが半端なかったので、それ以降は黙々と朝食を頂いた。文句なしにおいしかった。


―――――クワイユ、音もカユに似ている。佃煮も、純正日本産よりかはスパイシーではあったものの佃煮とよんで遜色ないものだったし、何より薬味。梅びしおまであるとはどういうことなのか。


朝食後は部屋で待機、昼食は筆頭武官のキーシーカー氏とともにとることになっているとの旨を告げて、てきぱきと去っていったエレアノーラさんを見送りながら、朝っぱらから投げかけられた疑問に首をひねるのだった。



遅々とした歩みですが、徐々にとりっぷ先の情報を集めたい神山さん。

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