入口に手
登場人物
桐谷竜也…大学生。突然義理の叔父である正治からの遺産相続権を認められた。性格はビビリである。
桐谷勝…故人。竜也の父。加藤家の先代党首が養子にしていたが、10年前に勘当された身である。
高尾慶…加藤家新入りの召使。竜也と同じ歳らしい。礼儀正しく素直だがやや天然。
加藤正志…加藤家当主。心臓が悪い。夜になると恭子の影に怯えているらしい。
田崎恭子…10年前、加藤家で下働きをしていた女性。加藤家を怨んで亡くなった?
竜也は蒸し暑い中さびれた駅に到着した。太陽は激しく照り付け気が遠くなるような灼熱の中車を降りて太陽を睨んだ。
あの日、竜也の携帯の着信は叔父の関係者の高尾からのものだった。
竜也自身叔父には会ったこともないから驚いたが高尾いわく叔父の加藤正志は竜也に遺産を譲りたいと言っているらしい。
竜也はこの提案を奇妙にも思う。しかし学生身分の彼は何かと金もかかるし、悪い提案だとも思わない。
それに彼はこの村に来て調べたいこともあった。どちらにせよこの話に乗ってみるかと思いこんな辺境までやって来たのである。
「こっちです。竜也さん」
今行きます、と竜也は華奢だが猫のように気の強そうな目をした男に近づいた。
この男は高尾慶一。電話をしてきた男である。大学生らしいが夏休み期間に加藤家で小間使いのバイトをしているそうだ。
駐車場を過ぎ立派な造りの玄関に上がると竜也は客間に通される。家は古いものの地主の邸宅らしく大きくしっかりした造りだ。
玄関で靴を脱ぎながら竜也は親父もここにいたのかと考えた。
竜也の亡き父はここの養子だった。つまり、叔父にあたる加藤正志と竜也に血のつながりはないのである。
父は勘当されたのである。