序盤
竜也は手をきつく握った。手は冷たく、震えている。息をひそめじっとしているが、外の様子が分からないのでいつまでこうしていいかもわからない。だがいつまでもこうしていてはいけないことは自分が一番分かっている。自分を信じて今潜むこの押し入れから出よう、と決意する。
―――よし、今だ。
竜也はそうっと押し入れのふすまをずらす。外の様子をうかがおうと目を隙間に充てる―――
「あああああああ!」
長い黒髪の女と目が合ってしまう。
「うわああああ!バカバカ!来んなああああ」
そう叫びながら竜也は振り回す――――
――――コントローラーを。
「またゲームオーバーかよ」
大学の同級生の坂田が笑う。テレビ画面にはGAME OVERの文字。実質は座っているだけだったはずなのに竜也は汗びっしょりになっている。どうしてこの男はたかがホラーゲームでここまでビビることができるのか。
「ちょ、俺ほんと無理だって。交代しろ坂田」
竜也は情けない声を出す。綺麗な顔立ちをしているがこう情けなくては女も寄ってこない。このビビりな性質のせいでいままで彼女ができたことがない。
「桐谷はびびりだなーてか一面クリアするまで交代しないって言ったからクリアしろよ」
「まじかよ…」
竜也は舌打ちをしながらリトライを押す。ため息をつくともう一度ゲームをプレイし始めたとき。
ピリリリリ…
「うわあああ!」
「携帯だって…」
坂田はまた苦笑する。
竜也はビビりまくっているが携帯電話の着信音だった。しかも知らない番号である。
「はい、もしもし…」
バイト関係か何かかもしれない、と思い竜也は電話をとる。