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魔法少女たちの終戦

掲載日:2026/05/23

 小さな劇場の舞台の上。華やかな魔法少女のコスプレをした三人がコントをしていた。一人は黒い布をかぶって布の下から両手を振りかざして異様な化け物のように振舞っていた。


「私は月の光熱費が9999兆円だ!恐ろしいだろう!」

「ちょっとイランいって自分で石油買ってきなさいよ!」

「鋭いツッコミね新人。でも、無駄よ。コミュニケーションは出来ないの」

「でしょうね!食らえ、エレクトリカルオーケストラ!」


 BGMと共に照明が変わり、原色の円がいくつも舞台と客席を動き回ってから、化け物に集中する。


「ぐああああ!世界中の成層圏は私が支配している......」

「貴方は世界の音にはいらない。さようなら......」


 黒い布の化け物がくるくる回って中腰になりながら舞台袖へはける。照明は元に戻り、客席から拍手が巻き起こる。すぐさま、畳んだ黒い布を脇に抱えた魔法少女が出て来る。


「もう終わった様ね。こっちも片づいたわ」

「その黒い布は置いてきなさいよ!話がおかしくなるから!」

「なんでそんな事言うの?これ高いのに忘れたらいけないじゃない」

「あんたがなんでそんな事言ってんのよ!テーブル置いて来い!」


 丁々発止のやり取りに、客席が笑いに包まれる。彼女たちを初めてみる男二人が、あいつらすげえなと目を見開いてささやき合っていた。


「ええ......じゃあ......」

「なにマントみたいにしてるの?なにしようとしてるの?」

「やめて、あいちゃん。考え直そう?」


 もう笑いが起きている。床をガッツリ引きずった黒い布をバサッとし、右手を掲げて、


「よかろう!私が相手だ!」

「相手してられるかぁ!」


 舞台が暗転し、拍手が巻き起こる。照明が元に戻ると、並んだ三人が深々とお辞儀をして、舞台袖に下がって行った。


 「よっし。やったねみんな!」

 「やったね、じゃないの。なんでコントしてるの私たち?」

 「これからは三人で頑張ろうって言ったじゃない」

 「あのね、芸能界やってみたいと言ったのは私よ。歌やダンスじゃないの普通?」

 「まあまあ。ちゃんと芸能界だよ」

 「私はこんな事をするために戦ってたんじゃないんだけど!?」

 「設定しっかりしてんなあ。これからも頑張れよ君ら」


 別の演者が声をかけると、舞台袖で押し殺した笑いが広がる。


 「あ、はい、頑張ります。出番終わったし、邪魔だから帰ろう」

 「あとで、話あるから」

 「うん♪次の台本も考えないとね!」

 「そういう話じゃないと思うよ」


 三人が去って行くと、その後姿を見送っていた一人が言った。


 「あいつら、芸歴何年や?まだ未成年やろ?子役上がりか?」

 「芸歴聞いたっすけど、芸歴って何ですかって聞き返されましたわ」

 「ほんまの素人か。前は何やってたんや」

 「本当、普通の高校生らしいですよ」

 「堂々としとんなあ。あれ、大物になるで。うかうかしてられんわ」


 すでに次のコンビが漫才を始めていた。


 「食らえ、キラキラビームや!」

 「ださいし、アドリブで誰パクってんねん」

 「知らん人」

 「恥知れマジで」


 客席からの笑いが響く中、舞台裏はいつもの張り詰めた空気に戻っていった。

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