黒一の恩返し、それから
「最後の恩返しに参りました」
吸い込まれそうな瞳
整った少し幼さも感じる顔
綺麗で見惚れるサラサラの黒髪
落ち着いた柄の薄紫の和装
嗅いだ者が魅了される甘い香り
いつもの黒一が「最後の恩返し」に来た
宗馬は何も言わず部屋に招き入れた
クロは足下に来て黒一をチェックしていたが、すぐ擦り寄っている
部屋のソファに腰掛けると黒一は対面では無く、横に座った
そのまま腕を絡めてくる
「最後ですから」
一言そう言って体温を堪能するように目を閉じている
宗馬は自然と黒一を抱き寄せ頭を撫でた
一瞬驚いたようだったがすぐに受け入れ身を委ねてくる
ピョンとクロが膝に乗って丸まり落ち着いた
そんな状態で互いに何も言わず時間が経つ
「…宗馬様は」
しばらくした所で黒一は口を開く
「宗馬様は恩返し、受け入れてくれましたか?」
黒一の綺麗な瞳が宗馬を見つめる
返す答えは一つしかなかった
「人生救われた、ありがとう」
「…それは良かった」
また黒一は目を閉じて身を委ねる、呼応するように頭を撫でる
「不思議に思う事はまだまだある」
黒一を撫でながらポツリポツリと宗馬は語った
「黒一の姿や俺の能力、実家の神社で会った爺さん、不思議な…現実には考えられない事ばかりだ」
黒一は身動きせずに聞いている
「些細な事だと思ってるし、今ここにクロが居る、それだけで充分だ」
クロを指したのが膝上の猫でなく自分の事だと理解してくれたのだろう
見上げられた目には涙が溜まっていた
「宗馬様、私は尽くせたのですか?」
「黒一のおかげで人生が動き出した、それはあの日クロと出会って別れたからこそだ」
黒一は涙を流しながら再度寄り添ってくる
膝上のクロを撫で言った
「今度はこのクロが宗馬様を支えてくれます」
「ああ、大切にするし共に生きる、最期は笑って見届ける」
「やはり、あなたは優しい人です」
黒一はこれまでで一番の笑顔を見せ強く抱きついてきた
「なあ、黒一」
「…なんでしょう?」
「会えなくなっても見てるのか?」
「うふふ、それは神のみぞ知る事でわかりません」
「そうか、神様次第か」
会える事は無くとも黒一と言う存在はあって欲しい、宗馬の我儘だとわかっているが願望はある
「今度は宗馬様が会いに来て下さい、私はいつもあの場所に居ます」
「そうだな、会いに行くよ」
二人が口を閉じてまた時間が経つ
そして意を決したように黒一は目の前に立ち上がった
その目から涙を流しながらふんわりと柔らかく抱きしめられた
視界を塞がれたまま、最後の言葉を聞いた
「最後の癒しをお受け下さい…宗馬様、ありがとう」
それが宗馬と黒一の最後の出来事だった
あれから半年程経つ
相変わらず仕事は忙しいが生活は安定している
もう、モヤは視えなくなったが支障もない
クロは大きく育ち、やんちゃさが目立ってきてなによりだ
紫音さんとは仲良くさせて貰っている
鈍感な自分にも分かるが、好意をお互いに抱いてる事を感じる
近い内に一歩踏み込むかもしれない、さすがに四十代すぎのオッサンが待ち姿勢はキツいだろう
そして満月が来ても、誰もインターホンは鳴らす事は無かった
盆休み宗馬はペットケージを持ち徳島、地元に帰ってきた
「クロ大丈夫か?」
「ニャ」
夏の暑さに移動もあったので心配にはなるが元気そうだ
共に帰省をし宗馬とクロは目的地に向かっている
道を歩き、角を曲がり、目の前に建つ神社
目的地へ辿り着いた
(ペット連れてたら怒られるかな…サッと入ろう)
まず、お参りを済ませて人目を気にしながら神社敷地内にある木々が植えられてるエリアへ
その内の一本目当ての神木まで行く
「半年ぶりだなクロ…いや黒一」
地面を撫で呟く
少しの間だったが、去年起きた様々な事が浮かぶ
最後に見せた黒一の顔は泣いていたが、しっかり笑ってた
「また来るよ」
神木の根元に向けてそう告げ帰ろうと振り向いた時
「お待ちしてます」
確かに黒一の声が聞こえてきた
振り向いても誰も居ない
「またな黒一…さ!クロ帰るぞ!」
「ミャ」
もう大丈夫、ありがとう黒一
宗馬は背筋を伸ばし、クロと共に日常へと帰っていった
――黒一の恩返し 完




