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第08話 聖女様な一面とギャップだなぁ

「――ま、こんなもんか」


 組み立て式の本棚を手早く完成させたあと、陽葵に配置場所を確認してから綺麗に本を並べ終わった。


 半分ほどは小説。

 文庫本だけでなく、ハードカバーの新書もある。

 一部純文学も散見されたが、ほとんどは大衆文学で、青春をテーマとした恋愛小説が多く見られた。


 とはいえ意外だったのは、漫画の多さ。

 少女漫画に留まらず、バトル系の少年漫画も多くあり、ほんわかとした陽葵のイメージからすると少し意外だった。


 俺は漫画というよりはラノベの方を多く読むので、漫画だけの冊数で比べると陽葵に負けるかもしれない。


「こっち終わった。陽葵は?」

「私も一つダンボール潰せたところだよ」

「よし」


 順調、順調。

 ぬいぐるみ救出作戦は無事完了しているようだし、あとはダンボールを開けて中身を確認して、必要な場所に片っ端から仕舞っていくだけ。


「なら、次はこのダンボールを――」

「――あ、待ってそれはっ……」


 俺が手近な場所で半開きになっていたダンボールに目を向けると、陽葵が慌てた様子で近寄ってきて、ギュッと伸ばし掛けていた俺の手を掴んできた。


 自分のものとは違う、小さく柔らかい手。

 俺より少し体温が高いようで、じんわりと熱が伝わってくる。


「え、ちょ……?」

「それは、私がやるから……ねっ……!?」


 この不自然なまでの慌て様。

 もしかしてエロ本でも入ってるのか?


 そう思って多少の好奇心からチラリ、と半開きの段ボールの隙間から中を見やると――――


「~~っ!?」


 白、クリーム色、水色、薄桃色――と、一瞬の間に視界に映ったカラーバリエーションはそれくらい。


 布自体は丁寧に折り畳まれているようだったので形状は不明だが、直感的にそれが下着であることは理解出来た。


 カァ、と顔が熱くなる。


 咄嗟に顔を背けると、その反応を見た陽葵もじわりと顔を赤らめて、恥じらうように覗き込んできた。


「み、見えた……?」

「い、いやぁー。何のことだかサッパリ」

「じぃ……」

「その効果音は自分で言うものじゃないと思うけど……」


 陽葵の半目が真っ直ぐ俺を捉えている。

 しばらくそんな視線から逃れていたが、どうやら白状するまで続きそうだったので、仕方なく頬を掻きながら答えた。


「まぁ……少しだけ……」

「……もぉ」

「んむっ……?」


 陽葵が俺の鼻先を人差し指でツンと優しく突いた。


「えっちな義弟くんは、めっ、だよ?」

「『めっ』って、子供じゃあるまいし……」

「ふふっ」


 まるで歳が大きく離れた子供を注意するようなやり方に、俺は妙な気恥ずかしさを覚えてしまった。


「じゃあ、この箱は私がやるから、司くんは――」


 陽葵がそのダンボールを抱えて立ち上がろうとしたときだった。


 グラァ…………


 足か腰にでも当たったのだろう。

 後ろに積み上げられていたダンボールの塔が不安定に揺れた。


 一度ゆっくり傾くとその動きは止まらず、指数関数的にどんどん加速してこちら側へ倒れ込んでくる。


「――危ないっ!」

「えっ――」


 そのダンボールには何が入っているのか。

 もしそれなりに重たいものであれば、怪我をしてもおかしくない。


 驚く陽葵に構わずその身体をこちらに引き寄せる。

 腕の中でビクッと身体が強張るのを感じた。


 俺は自分と陽葵の立ち位置を代わるように移動し、倒れてくるダンボールを背に受けた。


 ガタガタガタンッ……!!


 一箱一箱衝撃を受ける度に、腕の中の陽葵をギュッと強く抱きしめてしまった気がするが、正直それどころじゃなくてよくわからない。


 痛みは……よかった。

 そんなにない。


 ダンボールが落ちる鈍い音からしても、中身は恐らく衣類だろう。


 一瞬大きな音がしたあとの静寂は、より一層静かに感じられる。


 ドドッ、ドドッ、ドドッ……思いの外自分が焦っていたようで、想像以上に鼓動が早まっていた。


「……ドキドキ、してる……」

「……え?」

「あっ、ううん! ゴメンね。大丈夫だった……?」


 腕の中で陽葵が見上げてくる。

 とは言っても身長差は十五センチと離れていないだろうから、体感的にはほんの少し下から見詰められている感じ。


「平気平気。軽いダンボールだったし」


 そっちこそ大丈夫だったか? と聞き返すと、陽葵はどこかぎこちなく頷いた。


「う、うん。司くんが……庇ってくれたから……」


 どんどん声量が尻すぼみになって最後の方はごにょごにょ言っているようにしか聞こえなかったが、無事なことは確認出来た。


「ならよかった」

「あ、ありがと……」

「ん」

「…………」

「…………」

「……ぁ、えぇっと……もう、いいよ……?」


 何が? と一瞬陽葵の言わんとしていることがわからなかったが、すぐに今こうして密着していることを指しているのだと理解する。


 そうなって初めて、腕に抱く陽葵の身体の温かさや柔らかさといったものを自覚し、特に胸の辺りにギュッと押し付けられたその弾力は刺激が――――


「――あっ、悪い!」

「ううん! 大丈夫、大丈夫!」


 パッ、と腰の辺りに回していた腕を離すと、陽葵が一歩ゆっくりと下がって距離を取った。


 大丈夫という割には顔が赤らんでいるが、それは今の俺にも同じことが言えるだろう。


 新しい家族。

 義姉弟と言っても、所詮は他人。


 本当に血の繋がった関係であれば、この程度の接触に何とも思わない――あっても不愉快に感じるくらいかもしれないが、俺達は違う。


 どうしても、互いを異性として認識してしまっている。


 まぁ、仕方ないことではあるけど。

 とはいえ、この先本当の意味で家族になるためには、変えていかないといけない認識であることは確か。


 はぁ。

 先が思いやられる……。


 俺と陽葵が気まずい沈黙に立ち尽くしていると――――


「陽葵ぃ~、大丈夫かしら~? 大きな音がしたけどぉ~」


 寝室で荷解きをしていた茉莉さんだ。

 離れた距離でも届くように少し張った声が聞こえて、俺と陽葵は同時にビクッと肩を震わせた。


「だ、大丈夫~! ちょっとダンボール落としちゃっただけだから~!」


 こちらもまた少し声を張って返事をした陽葵。

 それを聞いた茉莉さんは「気を付けてね~」と一言反応しただけで、特に足を運んでくることはなかった。


 ふぅ、と胸を撫で下ろし、俺と陽葵の視線が互いを捉える。


「…………」

「…………」

「……ぷっ」

「ふふっ……」


 二人して同じ反応をしているのが妙に可笑しくて、そのあとしばらく潜めた声で笑い合った――――

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