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第07話 義姉の血液型は三択ですね、はい

「――じゃあ、早速荷解きを始めようか」


 今まで住んでいたアパートを離れ、とある住宅街の一角に建つ十階建てマンションの六〇三号室――新居にやってきていた。


 俺と父さんが住んでいたアパートも、陽葵と茉莉さんが住んでいた家も、同じ家族として一緒に生活するには手狭。


 そんな中で、父さんと茉莉さんがこの3LDKのマンションの一室を見付けたらしい。


 引っ越し業者の人達が撤収していったあとに残された俺、陽葵、茉莉さんを見てパンッ、と手を叩いたあとで、父さんが言う。


「司と陽葵ちゃんは自分の部屋を。茉莉さんは寝室をお願い出来るかな? 僕はリビング担当だ」


 父さんの指示に不満はなく、皆それぞれ頷いて短く返事をしてから動き出した。



 しばらくして――――


「父さん、何か手伝う?」

「おぉ。早いな、司」


 もう荷解き終わったのか? と尋ねてくる父さんは、リビングの家具の配置を粗方決め終わったようで、今はキッチンの棚に食器類を慎重に仕舞っている最中だった。


「まぁ、そんな荷物多くないし。机とかは業者さんがもう置いててくれたから」


 にしても手際が良いな、と褒めてくれる父さん。


 俺はほんの少しのくすぐったさを傍に置き、何か出来ることはないかとリビングダイニングを見渡してみるが……特になさそうだった。


 となるとキッチンだが――――


「だったら陽葵ちゃんを手伝ってあげたらどうだ? 女の子一人で荷解きは何かと大変だろう?」

「ん~、確かに」

「頼めるか?」

「りょーかい」


 もちろん父さんの口にしたことも理由の一つだろうが、多分全部ではない。


 恐らく、あえて俺と陽葵の接点を持たせたのだろう。


 少しでも早く俺と新しい家族が打ち解けるように、少しでも多く関わる機会を増やそう――そんな気配りが感じられる。


 俺はひらりと手を挙げてから来た廊下を引き返し、俺の自室の向かいにある陽葵の部屋の扉の前に立つ。


 軽く握るようにして持ち上げた右手の甲を扉に触れさせる前に、一度動きを止める。


 気まずさがまったくない、って言ったら噓になるなぁ……。


 父さんの再婚相手の娘。

 新しい家族。

 俺のお義姉さん。


 理屈ではわかってるが、まだ実感が伴わないせいだろう。


 私立英誠院学園の【日溜まりの聖女様】。

 生徒会副会長。

 一個上の先輩。


 果たしてそんな俺の認識が変わることがあるのだろうか。


 ま、考えてもしょうがない。

 平然としとけ、平然と。


 俺はピタリと止めていた右手を動かす。


 コンコンコン――と、三回ノック。

 木製の扉が小気味よい音を鳴らした。


 ちなみに、コンコンと二回ノックするのは基本的にトイレなどの空室確認をするときの回数だ。


『は、はーい!』


 時差はほとんどなく、扉の向こうから返事が聞こえる。


 こうして壁一枚挟んで声を聞くと、少しくぐもっていて、まるであの小さな教会の懺悔室で顔も名も知らぬシスターさんに話し掛けているような気持ちになった。


「手伝いに来たけど……開けて良い?」

『あっ、司くん。うん、良いよ~』


 陽葵の返事を聞いてからガチャ、と扉を開けたのだが――――


 ――ドスッ。


「……ん?」


 どうしてか扉は半分も開かなかった。


 不思議に思ったが、取り敢えず華奢な体型を活かして開いた扉の隙間から滑り込むと、すぐに扉が全開しない理由が判明した。


「うわ」

「『うわ』とか言わないでぇ~」

「あぁ、いや。何かゴメン」


 まず状況から言おう。

 ごちゃごちゃしている。

 荷物が多いようで、単純に段ボールの数が多い。


 その上で、取り合えず開けてしまえとばかりにそこらの段ボールはもれなく開かれており、置き場に困った段ボールの一つが丁度扉が開く軌道上にあった。


 それだけならまだしも、流石にもう床には置けなくなった段ボールがそこらに二段、三段と積み上げられており、高いところでは四段を記録している。


 わざとやってんのかってツッコミてぇ……。


 だが、それがわざとでないことは、陽葵の必死さを見ればわかる。


 どの段ボールに何を仕舞っているのかわからない状態に加え、同じジャンルの物が別の段ボールからも出てきたりしているようだ。


 あとで血液型聞こう。


 三択だ。

 BかOか、ABか。


 え、A型があるじゃないかって?

 ハハハ、面白い冗談だ。


「司くん、助けてぇ……」


 ヘタリ、と床に膝をついた陽葵が、救いを求めて半泣きの瞳で見詰めてくる。


 ドキッ――と、その可愛らしさに心臓を跳ねさせてしまったが、駄目だ駄目だ。相手は家族。お義姉さんだ。


 俺は動揺を表に出さないまま、歩み寄る。


「えっと、まずこの段ボールには何が?」

「うぅんと、本とかぬいぐるみ、かな」

「じゃあ、コレは?」

「多分、小物とぬいぐるみだった気が……」

「……あっちは?」

「あっ、それはコスメとぬいぐるみで間違いないよ」


 ――いや、ぬいぐるみ混じりすぎだろ!?


 え、なに?

 ひとりでに動き出すぬいぐるみが荷物仕舞ってくれて、そのまま段ボールに入ってたのか?


 便利なト〇ストーリーだな、おい。

 俺も陽葵も部屋出ていくから、その間に荷解きも済ませておいてくれよ。


 ……とまぁ、そんな冗談はともかく。


「取り敢えず、陽葵には各ダンボールからぬいぐるみを救出してもらって、俺は本を……あぁ、本棚組み立て式か。ま、ちゃっちゃと組み立てて本から仕舞う」


 少しは茉莉さんも手伝ったのだろう。


 まったくダンボールのジャンル分けがされていないというワケではなさそうなので、紛れたぬいぐるみを取り除いたあとに、一つずつダンボールを潰していくしかない。


「ふふっ、頼りになるなぁ。司くん」

「……っ!?」


 本当に日溜まりと形容するに相応しい柔らかな微笑みを向けられて、俺は再び胸の奥を騒がしくしてしまう。


 だが、すぐに余計なことは考えるな、気にするな――と自身に言い聞かせて、気持ちを切り替えるようにコホン、と咳払いを一つ。


 半目を作って小さく笑った。


「陽葵は世話のしがいがありそうだなぁ」

「も、もぉう……イジワル言わないでよぉ~」


 陽葵は拗ねたように唇を尖らせてから、ぬいぐるみ救出作戦に着手し始めた。


 もちろん、不安定に積み上げられたダンボールに意識は向いていない――――

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